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2014年10月25日土曜日

☆『Rolling Stones From The Vault Hampton Coliseum(Live In 1981)』(1Blu-ray+2CD)(Ward/VQXD10095)

ローリング・ストーンズのライブ映像のお蔵出しが止まらない。この『Rolling Stones From The Vault Hampton Coliseum(Live In 1981)』は、映像がブルーレイ1枚と、それをCD化したものが2枚の3枚セットで、自分にとってはベストな組み合わせ。Tシャツ付とか、DVD版とかCD無とか色々出ているがベストなチョイスはこれだろう。CDが付いていうと音だけをiPod Classicに取り入れられるから。(今は160G2台、数万曲を入れて携帯している)そして寺田正典さんの1万字を超える圧巻の解説が読み応え十分。ストーンズの解説を書かせたら、寺田さん以上の人はいない。本作の解説はリアル・タイムに日本でストーンズを追いかけてきたその当時の状況を織り交ぜてあり、そしてストーンズを「反逆の象徴=ロックの本質」というステレオ・タイプから導かれる放蕩、デカダン、パンクこそ良しとする破滅型のロックンローラーではなく、80年代に入ると年齢に打ち勝つためにミックは節制に節制を重ね、キースと共に健康になって、また企業とのタイアップで大規模でお金のかかった演出を取り入れながら大きな収益を得て、生き抜いてきたという視点が実に良い。しかし音楽的にはストーンズであることを常に忘れずに曲作りとライブを続けたので、今でもロックの王者としての不動の地位を確保しているのは言うまでもないところ。寺田さんの圧倒的な知識とデータも十分反映されていて、解説だけでも価値は十分。本作はケーブル・テレビのペイパー・ビューとして放送されたもので、画質と音質も良好だ。
映像的には途中からミックがアメフトのユニフォームになったり、風船の演出とか、同じツアーの名作ライブ『Let's Spend The Night Together』と共通する部分が多い。現在、たくさんのストーンズのライブ映像が見られる中、お馴染みの曲が多いが、やはり初のライブ登場の「Let It Bleed」は新鮮。ビートの効いたアレンジで、ボビー・キーズのサックス・ソロのあとのロン・ウッドのボトルネックのギター・ソロとか、別の曲に生まれ変わったよう。そしてこの日はキースの38歳の誕生日で、ミックと観客でHappy Birthdayを歌って軽く乾杯し、キースがソロで「Little T&A」を歌う楽しいイベントもある。しかしこの映像を永久に忘れられないものにしたのは、最後の「Satisfaction」。天井から多くの風船が落ちてくる演出で視界が遮られる中、一人のファンがステージに上がってミックの方へ突進してくるのを、キースがギターで殴って防止するのだ!そしてひるんだファンがセキュリティに取り押さえられると何もなかったようにキースは演奏を再開、その後のチューニングは狂わず、テレキャスターの優秀性も明らかに。やるじゃねえか、キース。誰もが嬉しくなった一瞬だ。(無事で良かったから言えることだが)全25曲、150分たっぷり満足できただろう。11月にはすぐに同じスタイル(画質の関係か1DVD+CDだが)で、『Rolling Stones From The Vault L.A.Forum(Live In 1975)』がリリースされる。このスタイルは『Some Girls Live In Texas '78』『Sweet Summer Sun Hyde Park Live 2013』に加え、1981年のマディ・ウォータースとの共演ライブでリリースされていて、ストーンズのライブ復刻の定番スタイルになりそうだ。(佐野邦彦)Product Details

2014年10月19日日曜日

北園みなみ:『promenade』(ポリスター/UVCA-3021)



今年初頭に紹介したLampの『ゆめ』に参加して八面六臂の活躍を見せていた、若干24歳のクリエイターの北園みなみが10月22日に初のソロ・ミニアルバムをリリースする。
12年の夏に突如Sound Cloudにアップされたブリリアントな音源で、先物買いの音楽通の間では密かな話題になっていたというが、筆者が知ったのが昨年暮れで、その直後前出のLampのニューアルバムに参加するとの情報で一際気になる存在となっていた。
その『ゆめ』での貢献度は言うまでもなく、Lampサウンドのパレットに新たな絵の具を足して見事なまでに仕上げてしまった。彼がアレンジしたストリングスやホーン・セクションのトラックだけを聴いてみたいほどの構築力を感じたのだ。
さて本作『promenade』であるが、アレンジャー、マルチ・プレイヤーとして表舞台に飛び出してきた彼が、シンガー・ソングライター(以下SSW)として自己完結した初の作品集として、期待を超える完成度で数えきれない程リピートしてしまった。
とにかく多くの音楽ファンは聴くべきで、本年度のベスト・アルバムの1枚であるであることは間違いないと断言するので紹介しょう。



『ゆめ』を聴いた読者ならお分かりの通り彼に関しては、曲や演奏力など高い音楽的技術を持つ裏方指向のクリエイターというイメージを持ったかも知れない。しかし本作ではSSWとして自らの歌声を全面的に出してアピールしたことで、表現者としてのアイデンティティーを改めて見出したのではないだろうか。
大正末期~昭和に活躍したモダニズム詩人で、写真家、イラストレーター、デザイナーと多彩な芸術家としても知られる北園克衛から影響を受け、ペンネームの苗字にまでしてしまったという彼であるが、ジャケットに使われた19世紀初頭のフランス人画家アンリ・ルソーの『セーブル橋の眺め』と共にシュールレアリズムなこのアルバムの世界観を表しているといえよう。

レコーディング・メンバーであるが、マルチ・プレイヤーたる北園本人はベースの他ギター、鍵盤類の上物一式を担当し、ドラムには元Polarisのメンバーでハナレグミや安藤裕子、コトリンゴ等々のサポートとして活躍している坂田学が選ばれている。Lamp人脈からは永井祐介と榊原香保里がコーラス、Minuanoを主宰する尾方伯郎がパーカッションで参加しており、ブラスセクションの武嶋聡チーム、橋本歩ストリングカルテットも『ゆめ』のセッションからの流れだろう。また女性SSWのマイカ・ルブテや同じく新鋭の井上水晶がコーラスで参加しているのも注目に値する。

では収録曲を解説していこう。冒頭のリードトラックとなる「ソフトポップ」は、70年代にデイヴ・グルーシンが手掛けたサウンド・トラックを彷彿させるスリリングなジャズ系のヴォイシングを持つオーケストレーションのイントロ・パートから引き込まれてしまう。北園の饒舌なベース・ラインと坂田のタイトなドラミングのコンビネーションは抜群で、ハードに展開していくこの曲を支えている。ギターやエレピのソロ・パートにおいても北園のプレイヤーとしての潜在的能力が色濃く出ていて、力強いパッセージと数々のフレーズには舌を巻いてしまう。
またシンガーとしては所謂ソングライター系の線の細いヴォーカルとは異なり、高音のブルージーな声質で、ミックスによって更にシャープに処理されていて非常に聴き易い。
この圧倒的な1曲を聴いて直ぐにLampの染谷氏に「まるで洋楽だ」とメールしてしまった程だ。
続く「電話越しに」はアナログ・シンセとFM音源系のエレピの音が絶妙にマッチしたニュー・ソウル系AORで、ラリー・カールトン風のギター・ソロ、突然変異的ペンタトニックと呼ぶべきシンセ・フレーズなど聴きどころは多い。榊原との掛け合いのパートも効果的で、淡い詞のストーリーからLampの「今夜も君にテレフォンコール」を彷彿させる。

一転してウォーミーにスイングしていく「Vitamin」では、北園とゲストのマイカ・ルブテのヴォーカルのコントラストがいい。曲調はケニー・ランキン、リズム・アレンジにはドナルド・フェイゲンのヴァージョンの「Ruby Baby」(ドリフターズのカバー)に通じるものがあり、スムースジャズ・ファンにもお勧めしたい。
2分50秒とアルバム中最も短い「プラスティック民謡」は、土着的な旋律のバックで、オリエンタルなスケールを奏でる木管セクションと様々なパターンのコーラスが交差し、変拍子で目まぐるしく展開するユニークな曲だ。よく聴くとバリトン・サックスとベースがユニゾンするパートや、尾方のプレイと思しきスルドやカラカラ、サンバホイッスルのブラジリアン・パーカッションが使われていたりとアレンジや楽器編成のアイディアが素晴らしい。この曲のコーダから続けざまに「ざくろ」のイントロのホーン・フレーズがはじまる心地よさは何より例えがたい瞬間だ。
アルバムのハイライトというべき「ざくろ」はデモ・ヴァージョンの時点で北園作品の中で真っ先に惹かれた曲だった。資料によると2度目のアレンジとのことで、楽器を整理してヴォーカルをより全面に出していると思う。8分刻みのピアノと飾り気のない歌声、マイナー・キーの旋律は普遍的というしかない。

全体を通し、ソングライティングとアレンジの独創性、各種楽器群の卓越したプレイを聴いて、「非の打ち所がない」とはこのアルバムのためにある様なものだと感じた。ルソーには恐れ多いが、このジャケットの絵画にさえ音ありきで風格を感じてしまった程だ。
今年のベスト・アルバムというレベルを超えて、今後このシーンの指標となりうる作品と言えるのではないだろうか。このレビューで興味を持った読者は是非入手して聴いて欲しい。
(ウチタカヒデ)


2014年10月15日水曜日

☆George Harrison:『The Apple Years 1968-1975』(G.H.Estate)


ジョージ・ハリスンのDark Horseレーベル以降のアルバムは本HPで紹介したが2004年にボックスとしてリリースされひと段落。その前のApple時代は、名盤『All Things Must Pass』と『Living In The Material World』はボーナス・トラック付で豪華リイシュー、その前の実験音楽2枚は細々リリースされていたものの、後半の『Dark Horse』(名前がこれなのにAppleなので分かりづらい)と『Extra Texture』は何のボーナス・トラックもなく忘れ去られたような扱いのままだった。ところが10年後の今年、突如『The Apple Years』としてボーナス・トラック付でボックス化されたのは嬉しい。オマケのDVDも付いたが、『The Dark Horse Years』のDVDのような短いまさにオマケ的存在だったのは残念なところ。でもCDの方の内容を聴いた事のない人などいないだろうからポイントだけ。シタールなどの『The Wonderwall Music』は最後に入ったボーナスの「The Inner Light(Alternative Take Instrumental)」だけでOK。あのビートルズ・ナンバーのカラオケなので貴重。『Electronic Sound』は私にとってはジョンのZapple3枚のアルバムと一緒で、持っているが二度と聴かない用無しアルバムだ。実験音楽はいらない。そして『All Things Must Pass』はリイシュー盤と同じく未発表の佳曲「I Live For You」と、デモの「Beware Of Darkness」「Let It Down」とホーンの演奏が違うオケの「What Is Life」などそっくり引き継がれた。このアルバムが1970年にリリースされた時の衝撃は忘れられず、「My Sweet Road」が1位、「What Is Life」が8位と大ヒットし、フィル・スペクターによるポップで奥深いサウンドで「ジョージは隠れた天才だったんだ」と大騒ぎになった。比べてジョンとポールは期待値が高すぎたので「Mother」も「Another Day」も評価は低く、名盤『John Lennon/Plastic Ono Band』は今のような高評価はなかった。そして私も含めポール・ファンに人気の高い『McCartney』『Ram』は酷評されていた。その後、ジョンは『Imagine』、ポールは『Band On The Run』で、格の違いを見せつけてくれ一気に天才の座に戻るのだが、タイムラグがあった。そしてジョージの実質セカンド『Living In The Material World』も「Don’t Let Me Wait Too Long」というウルトラ・ポップな名曲を含んだ良作で、リイシュー盤に入っていたB面曲の「Deep Blue」「Miss O’Dell」に加え、シングル・オンリーでベスト盤にしか入っていなかった「Bangle Desh」がプラスで収録された。リミックスとあるが、ハンドクラップとか聴きやすくなっただけで印象は変わらず、これは嬉しいオマケだ。そして『Dark Horse』にはシングルB面曲の「I Don’t Care Anymore」と、「Dark Horse(Early Take)」がボーナス・トラックに。『Extra Texture』には、リンゴがドラムを叩き歯切れがよくなった「This GuitarPlatinum Weird Version)」が加えられた。ボーナスDVDは、あの貴重な1990年の日本公演から「Give Me Love」が1曲だけフルで収録された。エリック・クラプトンとの関係か、その他が映像化されないのはあまりに惜しい。あとジョージが何度も着替えるポップな快作「Ding Dong Ding Dong」ぐらいが目を引く映像か。あとは抜粋版や動画でないものなどイマイチ。ジョージが短くアコギで「All Things Must Pass」を弾き語りするシーンも目が止まったが、いかんせん短過ぎ。(佐野邦彦)

2014年10月5日日曜日

☆吾妻ひでお:「チョッキン完全版」(復刊ドットコム)

さて、一番好きなマンガ家はと聞かれれば、30数年前から一貫して吾妻ひでおと答える。それほど吾妻ひでおは自分にとってインパクトがあった。人気は山あり谷ありだがこちらは首尾一貫して変わらない。吾妻フリークは主に1980年代のSF・不条理マンガで生まれ、この当時はまさに神扱い。そして美少女を描かせれば他の追従を許さず、美少女キャラにひかれたファンも数知れず。しかしだ。個人的に最も好きなのはそのちょっと前、1970年代後半に少年誌、少女誌に描いていたギャグマンガ時代が最高だ。我が道を行くヘンな主人公、ひどい目にもあったりするけどいつも支えてくれる美少女の友達、そして周りの不気味、ナハハ、さんぞうなどの変態サブキャラ達...いろんな毒が少年・少女誌のオブラートに包まれながらはみ出しちゃうところがたまらない。前から吾妻さんの復刻をやりたいと思っていたんだけど、ここで出来るチャンスが来たので、ただの復刻では付加価値が欲しいということで、単行本未収録が10編もあった「チョッキン完全版」からスタートした。全3巻で各巻に未収録作品は散らしてある。Amazonでもちろん売っているが、復刊ドットコムから買うとオマケがもらえるらしい。(詳細は知らない)12月まで1巻ずつ発売。(佐野邦彦)
チョッキン 完全版 全3巻チョッキン 完全版 2