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2011年6月19日日曜日

PIZZICATO ONE:『11のとても悲しい歌』(UNIVERSAL MUSIC/UCCT1221)



 ピチカート・ファイヴ解散から10年、その活動において常にイニシアティヴを握っていた小西康陽がPIZZICATO ONE名義でキャリア初のソロ・アルバムをリリースした。
 ピチカート在籍中から課外活動でも、プロデューサーやDJとして多くのワークスを残してきた彼が、そのソロ・アルバムではどの様な世界観を繰り広げたのか興味は尽きない。

 コロムビア*レディメイド時代のオムニバス・アルバム、『うたとギター。ピアノ。ことば。』(08年)の世界をソロ・プロジェクトで展開したと思しきこのアルバム、マリーナ・ションからウーター・ヘメルをはじめ、VANDA読者には2007年の『Full Circle』での復活が記憶に新しい、ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ(以下SCOF)など、11組のヴォーカリスト(グループ)が迎えられ、全編が英語詞の洋楽カバーとなっている。
 各曲へのヴォーカリストの配置は非常に絶妙で、昨年『Who Is This Bitch, Anyway?』(74年)のオリジナル・メンバーで来日公演(筆者も鑑賞した)をおこなったマリーナ・ショーによる、ジョン・レノンの希代の名曲「IMAGINE」など思いもつかいない組み合わせはさすがであり、ブルーノート・スケール或いはマイナー・キーへとアダプトされたメロディは、完全にマリーナのスタイルになっている。
 ストリングス・アレンジにはチャールズ・ステップニーの影響も感じ、リズム・セクションの核となっているウッド・ベースの重厚な響きには、そのサウンドを支えたクリーヴランド・イートンを彷彿させる。



 気になるロジャニコ&SCOFによる「SUICIDE IS PAINLESS」だが、映画『M*A*S*H』(70年)のテーマ曲として知られ、昨年小西氏が入院中のベッドで突然頭の中で聴こえてきたという。木管アンサンブルとヴィブラフォンを配したサウンドとSCOFのコーラスが溶け合って、レイジーな雰囲気は『Full Circle』を聴き込んだファンにもお勧めできる。
 筆者的には、英ジャズ系シンガーソングライターのグウィネス・ハーバートによる「A DAY IN THE LIFE OF A FOOL」(フランク・シナトラの歌唱でスタンダード化した、ルイス・ボンファの「カーニバルの朝」の英語歌詞版)から、昨年来日公演(筆者はこれも鑑賞していた)をしたマルコス・ヴァーリの自演カバーとなる「IF YOU WENT AWAY」(『サンバ'68』収録)への流れがたまらく好きだ。
 ラストはマリア・マルダーの名演で知られる「A LONG HARD CLIMB」を、ロイ・フィリップス(60年代末英マンチェスターのモッズ・トリオThe Peddlersのメンバー)が燻し銀の声で歌っており、何も言うことはない。

 アルバム全体的なサウンドはジャズ・コンボのリズム・セクションをフォーマットとしており、木管リードやヴィブラフォン、ハープのプレイヤーをフューチャー、または小編成のストリングスを配したトラックなど、楽器編成やアレンジにもそのセンスが貫かれている。
 渋谷系という陳腐なレッテルは捨て、良質なヴォーカル・アルバムとして風化することなく長く聴けるものであり、CD棚のジョニー・マチスの『Open Fire Two Guitars』やニルソンの『A little touch of SCHMILSSON in the night』の横に置いておきたい。
(テキスト:ウチタカヒデ




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