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2007年12月1日土曜日

☆ザ・コレクターズ:『東京虫BUGS』(コロムビア/COCP51057)

コレクターズの1年半ぶりの最新作。マーシーや奥田民生など豪華ゲストが集まった前作『ロック教室』が実に楽しいアルバムだったので、今度のオリジナルアルバムはどうかなと一抹の不安はあった。アルバムタイトルもなんやら変だし。さて結果は...大傑作!!。サウンドも歌詞もコレクターズ色全開で、大好きな僕らのコレクターズが帰ってきた!と思わず快哉を叫んでしまった。冒頭の「たよれる男」からいきなり打ちのめされる。ソリッドなギターリフに引っ張られたコレクターズ得意の解放感溢れるロックナンバーで、「ほんの少し前にはこんな男が確かにいたんだ」と、クラーク・ケント、ジェームス・ボンド、ジョージ・ベスト、そして甲本ヒロト(!)が順番に出てくる。加藤ひさしが、ヒロトを「魂ゆさぶるシャウト」と歌ってくれるなんて、あまりに嬉しいじゃないか。加藤ひさしとヒロト&マーシー、ロックがずっと大好きで、流行なんかに左右されず、自分達のロックンロールを作り続けたこの両者は、日本のロックの至宝だ。私にとって彼ら以上のヒーローはいない。だから加藤ひさしのこの歌詞はことのほか嬉しかった。「いくつ年を重ねてもこんな男に憧れているんだ いつかなれると 信じていたなら 叶うだろう なれるだろう」という歌詞はもう中高年になった私の心に深く突き刺さる。なりたい人間はいないけど、熱い思いはたぎるほどあるから。続く「東京虫バグス」もヘヴィなギターリフに導かれるロックナンバーだが、歌詞にある19の時にたどり着いた東京は「19のボクとキミだよ 広げた地図を見て笑ってた」だったのに、東京は冬のどまん中になり「今もボクとキミだけ 広げた地図の上 走ってる」と変わってしまった。しかし「サナギのままじゃ死ねない」と決意する「私」は加藤ひさし自身だ。そんな加藤の思いがストレートに表現されるのが「ロックロールバンド人生」。トップギアで入ってこない所が、酸いも甘いも噛み分けた加藤らしくて逆にカッコいい。「ハメをはずしてバカをやるには年をとりすぎた でも死ぬにはちょっと若すぎるんだ」「声が枯れても歌うのさ」なんて歌われるともうたまらない。そしてラストの「ツイスター」で「誰もかれもウソつきでデタラメばかり」の世界を「新しい 頼もしい風になって 吹いてやれ 明日の青空 不自由で不愉快な この世界 吹き飛ばす風になろう ツイスター」と、加藤は力強く歌い、未来への扉を開けていってくれた。この「ツイスター」は『ロック教室』でマーシーが書いた「スタールースター」を彷彿とさせる疾走感溢れるビートナンバーで、歌詞の一部に「どうにもならない事など どうでもいい事さ」と、ヒロトの「少年の詩」の歌詞が織り込まれていて、ファン心をくすぐってくれた。そしてもうひとつの加藤ひさしの魅力がそのシニカルな社会に対する視点だ。まず「ザ モールズ オン ザ ヒル」で「ヒルズ」の最上階に住む「シャレた部屋の無慈悲なモグラ」を、「ヒルズは空に届き 太陽隠し 一面暗闇 宝石の輝き 吸い寄せられた あわれなモグラ」と歌い、心を失った金の亡者達を切って捨てた。こういう「ヒルズ族」なる虚業の世界の連中を、「セレブはゴージャスでアーバン リッチでクリスタル」とわざと意味不明に表現しているのが楽しい。そしてネットカフェ難民を歌った「ミッドナイト ボートピープル」だ。「いつの間にか負け組」にされ、「見知らぬ場所に集められて 小銭渡され 汗まみれ」になり、「眠るには狭すぎるイスの上」で眠るしかない若者達。「犬が服着て歩く街で 人が凍え震えてる 何の夢見て眠ればいい?」「人の数だけ夢があるなら 独り占めしてる奴は誰」と、格差社会を作った連中を厳しく批判する。日本の社会基盤を破壊した小泉=竹中という悪党どもに聴かせてやりたいものだ。最後に壮大なコレクターズ・ワールドも「スペース・パイロット」で復活したことを紹介しておきたい。銀河の果てを越え、妻や子供に声がもう届かないスペース・パイロット。歌詞は比喩なのだろうが、「ボクはたぶん戻れない」「25世紀 30世紀 そのずっと先 キミはいない」なんていう歌詞を聴くと、言葉だけで胸が一杯になってしまう。子供の頃、宇宙が大好きだった。小学校で宇宙の本を読み、その広大で深遠な世界を知ると、宇宙旅行が怖くなった。ウラシマ効果で帰ってきた時に家族がもういなくなっていたら、いや人類自体滅んでいて、宇宙に残ったのは自分だけだったらなど、怖くて眠れなくなった。目を閉じた時に見える、暗闇を流れていく光の粒が、星に見えた。宇宙旅行に出たように思えた。加藤ひさしの書く歌には、かつてこういった少年の時の思いが込められたような壮大な世界観を持つ曲がいくつかあったのだが、このアルバムでようやく出会えることができた。今書いただけでも聴きどころがいくつもあるこの『東京虫BUGS』。2007年の邦楽アルバムで、文句無しの最高傑作だ。(佐野)








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