Pages

2002年12月11日水曜日

キップソーン:『Montuno No.5』(HRCD-016)

  

 筆者が最近手に入れたお気に入りの一つに、ハリウッドのSF映画黎明期に活躍したレイ・ハリーハウゼンの DVD ボックスを挙げておきたい。 ハリーハウゼンはその機知に富んだアイデイアと途方もない時間を費やしてストップモーション・アニメ(コマ撮り)をクリエイトし多くの名作を後世に残した特撮の魔術師である。正にかのアルフレッド・ヒッチコックと並び称されてもおかしくない映画職人なのだ。 断っておくが、金満な産業主義に転じてしまった昨今のハリウッドとは一線を画し、本来人間に宿っている創造性を極限まで駆使してエンターティメントとして結晶させていた時代の話である。

 さて今回、同水準のレベルで紹介したいのがキップソーン(QYPTHONE)の『Montuno No.5』なのである。彼らは98年のデビュー以来ポストPizzicato Fiveのトップ・ランナーとして注目されているユニットで、これまでに3枚のアルバムを発表している。
 現在のメンバーは、CM音楽クリエイターとしても活躍するリーダーでコンセプトを握る中塚武 (彼は「SOFT ROCK ULTIMATE」の取材企画においてもレアで良質な非英語圏ソフトロックを多く紹介した事で記憶に新しいと思う。)、個性的なヴォーカリストとして又作詞面でも一流のストリーテラー振りを発揮する大河原泉と、曲のイメージを決定付けさせるサウンド・コーディネイト担当の石垣健太郎によって構成されている。

 彼らのサウンドを筆者流に端的に説明すると”ビザール(bizarre)にしてスイート(sweet)”なのだが、本作でも展開されている超up to dateなサウンド・プロダクションは、単に緻密な最新編集感覚だけを頼りにしたものではなく、コンセプチュアルでエキゾティズム豊かなサウンド・スケープ(音像風景)を重厚且つ必然的に構築した上でポップ・ミュージックとして完成させているところに志の高さと懐の深さを感じさせられるのだ。無論それは曲作りにおけるベーシックな部分でも同様であり、曲のフックに至るまでの見事なコード転回が聴く者の高揚感を増長させるのは言うまでもない。 これは極めてクリエイティヴでありながら決してエンターティメント性を失わないポップ・ミュージックの理想的な到達点といえよう。 

 とにかく一曲一曲の完成度が高く、アルバムの隅々までエヴァー・グリーンな風が流れているのである。全曲解説したいのを堪えながら重要曲を紹介していこう。 瑞々しいヴォーカルとコーラスが見事なミックスの定位により、詩情豊かな歌詞を引き立て独特のサウダージ感を生むボッサ・チューンの「On The Palette」。 クラブでもヘヴィー・プレイされるフランス・ギャルの「Le Coeur Qui Jazze」の大胆なカバーでその名も「ジャズる心」。これは原曲のフェイク・ジャズを THE DOUBLE SIX OF PARIS から三保敬太郎feat. 伊集加世子をも黙らせる、圧巻ともいえるソフィスケィテッドなスキャットで見事に解釈している。 
 『Montuno No.5』屈指の曲で、アフロ・キューバンとポリネシアン・リズムを有機的に複合させた独特のポリ・リズム・トラックのヴァースから、DR.BUZZARD'S ORIGINAL SAVANNAH BANDを彷彿させるエキゾティズム漂うジャイヴ感と甘美な旋律を持つフックが感動を呼ぶ必殺のダンス・チューンの「Melody」。
 ここではゲスト・パーカッショニストであるロクタンセイゴの超人的な Djembe(ジャンベ)プレイも聴きものだ。 キップソーンとしては新展開ともいえるムーディーなスカ・バンド・フォーマットをバッキングに、中塚によるリリシズム溢れる歌詞が淡い恋模様を綴った「愛がひとつ(One Love)」。 
 アルバムを強く印象付けているジャケット・デザインにも少し触れておこう。このノスタルジーを誘うブラック・カートゥーン的タッチのイラストレーションはアモーレ★ヒロスケによるものだ。 

 最後にこの素晴らしい傑作を作り上げたキップソーンのメンバー全員から特別にコメントをもらっているので掲載させて頂く。

 長引くデフレ不況、失業者の増加、北朝鮮の脅威、テロの頻発、アメリカの軍事支配など、世の中の動きなんて 全然考慮に入れずに作った11曲のラブソング集です。「音楽にメッセージを込めて」なんて言わずに、「最近の流行の音楽は」なんて言わずに、「音楽や芸術ってものは」なんて言わずに、ただひたすら、聴いた人達の気持ちが幸せになるように願って、丁寧に音を紡いでいきました。昔ながらの職人さんのような手作り感を感じてもらえたら最高ッス。
中塚 武

 ひたすら音楽を奏でる楽しさを味わいながら作りました。2年間、僕も待ち遠しかったQYPの新作です。ひたすら音楽を聴く楽しさを味わって下さい。
石垣 健太郎

 私は、何年か前から、なにか特別な感動を得たときに、下腹(丹田)で感じるようになった。いつもってわけではないのである。感動しても、反応しない時は全く反応しないのである。自分の体なのに理由づけができないのである。だからこそ私は、その私の丹田の反応をとても信じている。今回のキップソーンのアルバムの曲は素直に感動して歌ったのだが、それだけではないのです。歌ったときもそうだし、聴いてみても(時に体調のいい時に聴くと)丹田に響くのです。それって私にとってはかな~り特別なことなのです。類まれなことなのです。そんなことをちょっとでも気に留めて聴いてもらえたらうれしいです。
大河原 泉

(ウチタカヒデ)



0 件のコメント:

コメントを投稿