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2002年9月4日水曜日

Melting Holidays : 『Cherry Wine』 (Sucre SCPN2)


 メルティング・ホリデイズは作詞とヴォーカル、コーラスを担当するタケモトケイと、作、編曲とヴォーカル、コーラス、全てのサウンドの演奏、プログラミングを担当するササキアツシの男女二人からなる、60sテイストを21世紀のツールでクリエイトするポップス・ユニットだ。 結成は2001年で、同年7月に自主制作のミニアルバム『BRASS!!』を発表、その後インディーのsucreレーベルに所属することとなり、今回の1stフルアルバム『Cherry Wine』のリリースへと至った。

 因みに二人はこのユニットの結成以前に開催していた60sイベントでDJをするなど当時のサウンドへの拘りは只ならぬものだった様だ。実際ササキは以前からVANDAの熱心な読者らしい。つまりその世界に迷い込ませた弊誌の責任は計り知れないのだ(笑)。

 さて、筆者が彼らのサウンドと出会ったのは非常に偶然的で、本アルバムのタイトル曲" Cherry Wine" をネットの試聴サイトで聴いた事に始まる。
 先入観無しにハートを鷲掴みにされるメロディー、それを包み込むコード進行とアレンジの巧みさは正にソフトロックそのもので、打ち込みとはいえオーケストレーションの構成力は熟練の域に達する。この音は80年代にトット・テイラーが主宰していたコンパクト・オーガニゼイションにも通じる。ムーディーなオルガンと何とも喩えがたいストリングスの副メロの美しさや艶やかなピチカートのオブリガート、淡いヴァイブの刻み、ブラスとティンパニー、クラップの躍動感はあの時代に誘ってくれるサウンドなのだ。
 主役であるタケモトのヴォーカルもアンニュイの一言では済ませられないウイスパー・ヴォイスで、まろやかなサウンドのワイン・グラスに漂うチェリーをイメージさせ、さながら" 溶け出していく休日" を気取る佇まいなのである。 実は筆者はウイスパー・ヴォイスを安易に使う輩には目もくれずにいた節がある。何故なら、声帯域ばかりかヴォーカリストとしての表現力をも狭めかねない危険性に陥るからだ。 アンニュイなテイストばかりに気を配っては仏作って何とやらだ。しかしそんな心配も彼女の表現力の前には無用の様である。
 タイトル曲がアルバムのトップを飾り、続く" Snippy Girl" はモータウン的センスのリズム・トラックに今度はササキのいわゆるハーフ・ボイス・タイプのヴォーカルが乗る。時折フックで見せるファルセットも嫌みが無く爽やかな風の様だ。 他に気になるのは5曲目の" Umbrella" で、2台のギターによる16ビートのカッテングにドライヴするベース、マージー・ビート系のドラミングと、まるで80年代初期のスミスを初めとするネオ60sのサウンドを打ち込みで解釈したトラックに、タケモトの一人多重録音の美しいヴォーカルが漂うといった秀作だ。 この様にアルバム全体に聴き所は多く、彼らが影響されたサウンドを一つ一つ分析してみるのも面白い。 最後にこのアルバムを聴き終えて思ったのは、昨今忘れがちだった、伝統的なポップスの方程式を大事にしながら、独自のセンスをちりばめられる若く有望な才能に出会ったという事だ。

(テキスト:ウチタカヒデ)


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