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2010年1月23日土曜日

manamana:『空のとびかた』(HAPPINESS RECORDS/HRAD-00041) 洞澤徹インタビュー


 ジャズヴォーカリストの伊藤ふうかと、作編曲家でギタリストの洞澤徹が2005年に結成したアコースティック・ユニット"manamana(マナマナ)"が初のフルアルバム『空のとびかた』をリリースする。2008年のミニアルバム『光る石』からサウンド的にも幅を持たせ、味わい深くなった今作は、これからの季節に聴くのにぴったりのアルバムかも知れない。
 ここではメンバーでアルバム全曲の作編曲を手掛けた、洞澤氏に話を聞いてみた。

ウチタカヒデ(以下U):先ず初のフルアルバムを制作するに当たって、全体的なテーマにしたのはなんでしょうか?



洞澤徹(以下H):特にはっきりとしたテーマはありません。あえて言えば「はじめまして、manamanaです」といった挨拶的な感じでしょうか。前作は完全自主制作で流通もごく一部のみでしたので、今回が全国的には名刺代わりになるのかなと。
昔からお世話になっているハピネスレコードからmanamanaで一枚出さないかとのお話をいただいたので、今までの自信曲をさらにブラッシュアップしたものと、できるだけ多くの人に受け入れられつつ、今やりたいと思う曲を数曲作り、manamanaらしさを全面に出すために仕上げようと思いました。


U:なるほど、では率直に言って、manamanaらしさとはどういったことだと思いますか?
結成時からヴォーカルのふうかさんとのコラボレーションで得られた世界観とは?

H:manamanaらしさとは、僕にとって伊藤ふうかの歌の魅力が一番伝わる形のポップスだと思っています。僕はコラボレーションするヴォーカリストにより曲やアレンジをかなり変えていくのですが、彼女の場合、言い方は悪いかも知れませんが、どこか枯れた感じというか、暖かさの中にある寂寥感を感じるので、それをうまく楽曲で活かすのが「らしさ」かなと思っています。
得られた世界観は"暖かさと寂寥感の狭間に揺れるノスタルジー"
ん~難しくなっちゃった。言葉が下手なものですみません(笑)


U:前作からサウンド的にもカラフルになっておりますが、曲作りやアレンジをする上でのヒントになったポイントや苦労話などをお聞かせ下さい。

H:いろんな曲を聴いて、アレンジや曲作りの参考にしましたが、フレーズや音色そのものを引用するというよりは、その曲を聴いて頭に残った残像の雰囲気を大事にインプットしました。アルゼンチン音響派のアーティストとかよく聴いていたような気がします。
参考にしたのはやはりアレンジそのものより、ちょっとした肌触りみたいなもの。
難しくならないように、聴き易さというポイントを重点に置いて。
本来アレンジに必要以上に凝るのはあまり好きじゃないです。歌がよく聴こえるアレンジは好きだけど。それと違う例としてはハピネスの平野さんと飲んでいるとき、「すごくいいチェリストがいるよ」って言われて、僕もチェロの音色が好きだから「じゃ、チェロが入るアレンジをやろうかな」というノリもなかにはありました。


U:アルゼンチン音響派というとファナ・モリーナやフローレンシア・ルイスですか。音像の感触には独特なものがありますね。
また外部スタジオのエンジニアである、平野さんからのヒントも興味深い話です。
今回ベーシスト(ウッドベース)とドラマーが参加した経緯も同じ様なエピソードですか?

H:ファナ・モリーナやリサンドロ・アリスティムーニョという人の「39°」というアルバムをよく聴きました。
ベーシストとドラマーも平野さんに紹介していただきました。ハピネスでは他のアルバムでもバリバリ録音されている方たちですので、腕も達者ですがこういった曲の雰囲気を理解してもらうのが早かったです。


U:作詞を担当している、ふうかさんとは分業作業だと思いますが、洞澤君から特にサゼッションしたことはありましたか?

H:基本的にデモを聴いてもらって、湧いたイメージで自由に詞を書いてもらいます。
言い方は悪いですが「丸投げ」です。特にできあがったものを「ここ変えたら?」ということもないですね。でも彼女は自分なりにとっても考え抜いて詞を書いてくる。
作詞の経験はmanamanaで初めてらしいですが、アーティストが考え抜いて出してきた詞はそれがすべてだと思います。一度くらいデモテープ渡すときに「この曲はこんな世界観でいったらどうだろう?」くらい言ったことはありますが。


U:レコーディング中のエピソードなどは?
それがアルバム作りに影響を与えたことなどはありましたか?

H:今回も前作に続き大枠は自宅録音なので、自分のパートにおいては気に入らなかったら延々録り直し、録音しながらミックスもまとめて、ミックスも延々直すといった宅録にありがちな延々地獄に一度ははまりました(笑)。
ミックスまでやるというのは大変ですけど(苦手意識もあり)、最初から自分でミックスダウンまで想定した段取りで進められるし、違ったらいつでも戻ってやり直しもできるのがよいところですね。おかげでイメージ通りにはなったと思います。
少し機材の話をしますと、アルバム制作のためにマイクを新調しました。楽器屋で5、6個マイクを並べて同行したふうかさんにサビのフレーズを歌ってもらい、一番しっくりきたAKGのC411Bというマイクを選びました。ちょっと高かったけど、このマイクのおかげでクオリティは確実に上がったと思います。ひとつでも新しい機材を用いることによってモチベーションも上がるし、新鮮さもできていますからやっぱり作り手にとって大事だと思います。商業スタジオのように一通りのマイクが揃うような環境ではないので、一つの買い物に気合いが入りますが、そこで愛せるものに出会うと作品も変わると思います。

U:アーカーゲー(AKG)のコンデンサーマイクですね。ヴォーカリストの声の特性に合わせて選ぶのは重要ですよね。その出費も報われると思います。
収録曲について少しお聞きします。「あの場所へ」で、メロディが下降して2トラックのコーラスが入るところが凄く素晴らしいんですけど、この曲のヴォーカルトラックはいくつ使っていますか? 曲毎で異なると思いますが、コーラスアレンジやヴォーカルトラックの構成などはどのように進めていますか?

H:「あの場所へ」のコーラスは同じハモリを2本重ねてプラグインで広げてあります。
なので、意外に少なく3トラックです。ヴォーカルトラックの構成とコーラスアレンジはすべて僕が考えてふうかさんに伝えます。
ヴォーカルテイクのディレクティングは、基本的にふうかさんを中心にやってもらって、気になるところは僕が意見を言う感じですね。


U:「雨音」の途中デュエットしている男性ヴォーカルはどなたでしょうか?
またこの曲の間奏や「微睡日和」の弦楽器はウクレレですか?非常に効果的だと思いますが、やはり洞澤君がプレイされているんでしょうか?

H:「雨音」のデュエットは恥ずかしながら僕です。歌は得意ではないのですが、サビの高揚感が欲しくて、ふうかさんの声に重ねてみたら結構悪くないなと思ったので録音してみました。「もしも」の2サビでも同じようにユニゾンで歌を重ねています。
レコーディングでは声の混ぜ具合で多少苦労しましたが、いまの録音ソフト(Protools)はいろいろ便利な機能があるので助かりました。とくにピッチ系(笑)。
ウクレレも僕が弾いているんですが、指摘していただいて素直に嬉しいです。自分でも気に入っているんです。思い出しました、「雨音」の間奏は某テレビ局のウェザーニュースのBGMを聴いてインスピレーションが湧いたんです。
そういえばウクレレは「微睡日和」用に購入し、一生懸命コードを覚えました(笑)


U:タイトル曲の「空のとびかた」は、ふうかさんのヴォーカルをよく活かした音域幅ではないかと思いますが、職業作曲家でもあるということで、ヴォーカリストの個性を活かす作曲方法で心掛けていることはなんでしょうか?

H:ヴォーカリストの個性を活かすという意味では、ユニットで作曲する者にとってもとても勉強になります。最もヴォーカルのおいしいところはどこかを探って、ここ一番で使うのが楽しい。しかしながらmanamanaの場合、ある程度こういうふうに歌うだろうと想定して作曲はしますが、ふうかさんがおもいっきり自分の解釈(僕の想定外)でデモを歌ってきたりすることがあるので面白い。それが素晴らしいときがあります。
ですから最近心掛けているのは「決めてかからない」ということでしょうか。もちろん仕事で違う女性ヴォーカルの方と仮歌録音するときは、イメージがかっちり決まっているので細かく指示しますが。


U:最後にリリース後のライヴスケジュールなどをお願いします。

H:直近のライブ予定は、1月28日に渋谷の「青い部屋」、2月11日にやはり渋谷のdressで演奏します。それ以降は詳細決まり次第ブログにアップしますので、チェックしていただけたら嬉しいです。
今後は地方でのライブも考えていこうと思っておりますので、是非イベンターさんはお声を掛けて下さい!

(インタビュー設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ


2010年1月21日木曜日

Radio VANDA 第118回放送リスト(2010/2/4)

Radio VANDA は、VANDA で紹介している素敵なポップ・ミュージックを実際にオンエアーするラジオ番組です。

Radio VANDA は、Sky PerfecTV! (スカパー) STAR digio の総合放送400ch.でオンエアーしています。

日時ですが 木曜夜 22:00-23:00 1時間が本放送。
再放送は その後の日曜朝 10:00-11:00 (変更・特番で休止の可能性あり) です。

佐野が DJ をしながら、毎回他では聴けない貴重なレア音源を交えてお届けします。


特集:Neil Sedaka Part1 1966-1973

 

1.Cellophane Disguise

2.The Answer To My Player

3.Blue Boy

4.The Answer Lies Within

5.Rainy Jane

6.Ebony Angel

7.Summer Symphony

8.God Bless Joanna

9.What Have They Done To The Moon

10.Rosemary Blue

11.That's When The Music Takes Me

12.Express Yourself

13.Trying To Say Goodbye

14.Little Brother

 

 

 







2010年1月2日土曜日

フレネシさんと相対性理論+渋谷慶一郎の『アワーミュージック』を聴く


ファーストフルアルバム『ハイファイ新書』(09年1月)で、キッチュなミューテーション型ポップスの魅力を開花させた注目バンド、相対性理論(そうたいせいりろん)が、電子音響系音楽の旗手としてアーティスティックな活動をしている渋谷慶一郎とのコラボレーションのトリプルシングル『アワーミュージック』を1月6日にリリースする。
ここでは一足早く、昨年7月にリリースした『キュプラ』が好評中で、相対性理論ファンを公言している、女性アーティストのフレネシさんと聴いてみた。

ウチタカヒデ(以下U):今回の『アワーミュージック』は、渋谷氏のピアノソロ・アルバム『ATAK015 for maria』(09年9月)収録曲を、相対性理論がバンドスタイルでリアレンジした2曲、「アワーミュージック」と「スカイライダーズ」が特に興味深いと思いますが、フレネシさんがお聴きになったファーストインプレッションではどのように感じましたか?


フレネシ(以下F):そうですね、「アワーミュージック」と「スカイライダーズ」はとりわけ興味深く拝聴しました。
「スカイライダーズ」のサビからのリズム展開、「アワーミュージック」の16ハネグルーヴは、バンドアレンジならではの聴きどころだと思います。

U:完璧に相対性理論サウンドにリアレンジされていて感心しますよね。因みにヘッドアレンジらしいですが、渋谷氏もピアノでプレイに参加していてアンサンブル的に違和感ないです。
また「BLUE」を加えた3曲では、ヴォーカルのやくしまるえつこをフューチャーした、渋谷氏のピアノ演奏によるシンプルなヴァージョンも聴けますが、そちらはいかがでしょうか?

F:マザーグース的韻踏み言葉遊びな歌詞がオリジナル曲のアブストラクトさを助長していて、「sky riders」と「our music」は日本語で言葉が乗っているにも関わらず受け手に映像的イメージを具体化させないのはさすがのセンスですよね。謎めいた余韻だけが残るというか。

U:ご自身でもシンガーソングライターであるフレネシさんに質問ですが、既存の完成されたインスト曲に歌詞を当てはめるという作業は、結構大変だと思われますがいかがでしょうか?
今回はやくしまるえつこのソロ活動でも作詞を手掛ける、ティカ・α名義になっておりますが。

F:難しいと思います。音符の数に合わせて詞を割り当てるという作業の中でどうしても字余りになったり、足りなかったりということが出てきますがかといって他の言葉では代用したくないフレーズもありますし。
また、曲そのもののリズムを損なわない譜割のセンスが問われますよね。
その上で、これまでの作品と同様に言葉遊びが盛り込まれているのには、流石としかいいようがないです。日本語版同韻語辞典、みたいなものがあるんじゃないかと思うくらいに。
私は、Cathy Claret「Les Roitelets」と、Michael Franks「Antonio's Song」に和訳ではない日本語詞をのせてカヴァーしたことがあるのですが、リズムにプライオリティを置いて区切る場所をまず明確にしてから言葉を選ぶという手順を取ることもあります。

U:恐らく渋谷氏は歌詞が乗るという前提で作曲している訳ではないから、言われるように譜割りは大変だったでしょうね。それと相対性理論ワードアーカイブからセンテンスやパンチラインを織り込んでいる点も本当に脱帽ものです。
音楽におけるアボルダージュ戦法というか、まだまだ可能性を秘めた才能だと思います。
今回のタイトルになっている「アワーミュージック」ですが、まさしく彼ら達、新たな世代による「わたしたちの音楽」という風に捉えていいでしょうか?

F:そう捉えてよいのかもしれませんね。
新たな世代の・・・という自意識はなくとも自然にそうなった的な。
00年代に湧き上がったシーンへのカウンターというよりは以前からずっとそこにあったもの、という感じもします。それをたまたま目撃した人が騒いでいるだけというか。

U:相対性理論に関しては自主制作のファーストミニアルバム『シフォン主義』(07年,リマスター盤08年)を初めて聴いた時、ポップスのミューテーションか?というほどインパクトを受けました。
単に私がこういったシーンに疎かったから余計に感じたのかも知れませんが、その後の展開を考えると彼らの出現は時代性と無縁とは思えないんですね。

F:私もこういうシーンにはめっぽう疎いのですが・・・。
00年以降台頭したほっこり系のカフェミュージックにも、またビートありきのエレクトロミュージックにもピンと来るものがそれほどなかったのですが、その理由はそうしたサウンドにポップである必然性がなかったからなのかも知れません。

U:そもそもフレネシさんが、彼らのサウンドに出会ったきっかけはなんだったのでしょうか?

F:あれは忘れもしない昨年の1月9日。会社の友人が「理論の新譜(『ハイファイ新書』)出たけど聴く?」と貸してくれたのが最初の出会いでした。実は『シフォン主義』がリリースされたとき、話題になっていたにも関わらず私は全くその存在を知らず「理論ってなぁ~に」という感じでした。
全くの後追いではあるのですが、このアルバムを聴いて以来すっかりファンになってしまいました。中でも『ハイファイ新書』の「ふしぎデカルト」がツボでした。電子音の使い方がお洒落で、歌詞も何とも掴みどころがなく、またギターのリフも素敵で「地獄先生」よりもこの曲がアルバムの肝だと勝手に思っていました。
そして、このアルバムを聴いた翌週に書いたのが「覆面調査員」でした。

U:凄い、そんな経緯があったんですね。「ふしぎデカルト」など『ハイファイ新書』に影響されて「覆面調査員」が生まれた訳だ。実にいい話です。
その『ハイファイ新書』から遡って『シフォン主義』を聴かれたご感想は?
またアルバム単位でのサウンドの変遷についてはどう考えますか?

F:『シフォン主義』では、「スマトラ警備隊」が特に好きです。
このアルバムは、オルタナに振り切ったサウンドであるにもかかわらず、この上なくポップな歌モノであることが素晴らしいと思います。
『ハイファイ新書』は、『シフォン主義』からは衝動と理性のバランスが大きく変わったのかな、と感じました。

U:そうですよね、『シフォン主義』ではオルタナ色が強いギターサウンドが利いていました。私が当時のレビューで指摘したのが、まるでジョニー・マーを彷彿させるギターサウンドの構築法だったんです。比較的アッパー・テンポの曲が多かったから、やくしまるさんの歌唱法には性急さを感じて辛そうな部分もありました。このアルバムの中では「おはようオーパーツ」が、後の『ハイファイ新書』のサウンドの布石になっていますか。
『ハイファイ新書』でフレネシさんが指摘される「衝動と理性のバランス」というのは、やくしまるさん(のヴォーカル)の魅力により比重を置きつつ、相対性理論サウンドを進化させた点ともいえますね。バンドとしてきちんと制御されているというか。
ではこれまでのお話を踏まえて、アーティストとして彼らに対するシンパシーとは具体的になんでしょうか?

F:うーん、何でしょうか。友達がいなさそうな音楽、という点でしょうか。
(実際彼等に友達がいないというわけではないと思いますが)
○○系やアンチ○○系など、群れることを目的とした音楽には、ここに属していますという符号ばかりが表立って強調されてパーソナルな部分があまり重視されていないように感じるのですが、彼等の音楽にはむしろそのパーソナルな部分だけがあるように感じたのです。
圧倒的なオリジナリティはそういうところから来るのかもしれません。
私もまた、そうでありたいと思っています。

U:面白い表現ですね(笑)。確かに相対性理論やフレネシさんのセンスは、マイノリティゆえに研ぎ澄まされた感性の賜じゃないかと思います。唯一無二のオリジナリティをクリエイトするには、知己を得るばかりではなく、自分自身の感性を磨くことが重要かも知れません。
最後に最近のフレネシさんの活動などについてお願いします。

F:『キュプラ』リリース後にライヴ活動をいくつかやっていましたが、当分はお休みということで、年明けからしばらくは制作に入ります。
出版物関係では『文化系女子のための少女漫画案内』に執筆参加しました。
Official HP:http://www.otomesha.com/frenesi/
official myspace:http://www.myspace.com/frenesifrenesi
official blog:http://blog.goo.ne.jp/frenesi