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2019年6月12日水曜日

宮田ロウ:『ブラザー、シスター』(ORANGE RECORDS/ORGR-55)


宮田ロウは神戸市出身のシンガーソングライターだ。十代の学生時代よりバンド活動を始めて、高校一年生の頃にはオリジナル曲をライブで披露するまでになっていたという。
関西をベースにワールプール、magictaxi等のインディーズ・バンドを経て、現在はソロ・アーティストとして活動している。2014年には自主製作でファースト・ソロアルバム『ゴリラ』をリリースし、音楽マニアの間では話題となっていた。その後18年11月にはUNCHANTABLE RECORDSより「悲しみはさざ波のように」の7インチ・シングルを枚数完全限定で発売するが、これは小西康陽氏の熱望により同レーベル主宰のグルーヴあんちゃんの尽力で実現したという。
 

そして満を持して、今年5月29日に同曲を収録したセカンド・アルバム『ブラザー、シスター』をORANGE RECORDSからリリースした。
全10曲中9曲は宮田のオリジナル曲で、残る1曲は彼が敬愛する小西氏が嘗てピチカート・ファイヴ時代に書いた「メッセージ・ソング」(シングル/96年)をカバーしている。
レコーディングには、ワールプール時代の同僚である杉本徹がキーボードで(全10曲中6曲)、関西のインディーズ・バンド、ロマンチップスのベースの光浩司とドラムの藤井秋平がリズム隊で(全10曲中8曲)、全面的に参加している。
では筆者が気になった主な収録曲を解説していこう。

   
冒頭の「悲しみはさざ波のように」は、前出の通り昨年11月に7インチ・シングルで先行リリースしたミディアム・テンポの詩情溢れるトーチソングである。
杉本による繊細なピアノとロマンチップス組のリズム・セクション、宮田自身のアコースティックギターという編成だが、このシンプルなサウンドゆえに時代を超越しており、近年のシンガーソングライター系の楽曲としては、白眉の完成度と言えるだろう。ジェームス・テイラーの「Music」(『Gorilla』収録/75年)を彷彿とさせて、じわりじわりと静かに心に浸透してくるサウンドと歌声は多くの音楽ファンに聴いて欲しい。
続く「旅人たち」は、ロストフィルム、カワムラユウスケ&フレンチソニックスのメンバー、落合悠によるペダルスティールと、シンガーソングライターの酒井ヒロキのマンドリンが利いたカントリー・タッチのフォーク・サウンドで、この曲でも恋人との別離を綴っている。
シャッフルの「こうしちゃいられない」は曲調、コーラス・アレンジ共にソフトロック・テイストのサウンドで、弊サイト読者にもアピールするだろう。ソングライティング的にはローラ・ニーロの匂いがする。


ピチカート・ファイヴのカバーである「メッセージ・ソング」は、アレンジ的には後年小西氏が『わたくしの二十世紀』(15年)でクリエイトしたサウンドに通じるシンプルな編成で、宮田のアコースティックギターの弾き語りに京都在住のテナーサックスプレイヤー、篠崎雅史のプレイをフューチャーしている。
酒井がエレキギターで参加した「やけを起こすなよ」も興味深いサウンドで、西海岸ロックの系譜になるのだが、サビのリフレインするコード感がビーチ・ボーイズの「Sail On Sailor」(『Holland』収録/73年)に通じて好きにならずにいられない。酒井のブルージーなギターソロも効果的である。

そして本アルバム後半のハイライトとなるのは、タイトル曲の「ブラザー、シスター」だろう。 杉本のピアノとハモンドオルガン、ロマンチップス組のリズム・セクションにゴスペル・フィールなコーラスが加わった感動的なポップスで、メッセージ性のある歌詞もじっくり聴いて欲しい。
また60年代ポップス・マニアは気付くと思うが、この曲はバリー・マンの作風をオマージュしているのは間違いないだろう。音楽マニアを自認している弊サイトの読者は必ず入手して聴くべき曲である。筆者も一聴して今年のベストソングにも入れるべきと確信した。

アルバム全体を通して、高品質のソングライティングとイノセントな歌声、それを際立たせている引き算の美学に満ちたアレンジは見事と言うしか無い。
(ウチタカヒデ)


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