2019年3月31日日曜日

集団行動:『SUPER MUSIC』 (ビクター/VIZL-1553/VICL-65158)


 ハイブリッドなロック・バンドとして知られる集団行動(しゅうだんこうどう)が、昨年2月のセカンドアルバム『充分未来』に続き、4月3日にサードアルバム『SUPER MUSIC』をリリースする。
 相対性理論(以降理論)の初期メイン・コンポーザーだった真部脩一が17年1月に結成したこのバンドは、某出版社主宰のアイドル・オーディション・ファイナリストの齋藤里菜をヴォーカリストに迎えるという発想からまず興味を惹く。そして真部の盟友で元理論のドラマー、西浦謙助(mezcolanza(メスコランサ)等にも参加)が合流しバンドはスタートした。
 セカンドアルバム・リリース後の昨年8月には、サポート・ベーシストで真部とはVampilliaで同僚のミッチーが正式加入し、現在の4人編成となっている。


 理論時代から耳の肥えた音楽通に定評があった真部のソングライティングは、このバンドでもアルバムを重ねる毎にブラッシュアップしており、ナンセンスな歌詞に潜むキッチュな感覚は彼ならではで、追随するソングライターを引き離して唯一無二の“真部ワールド”を展開している。
 アルバム先行で限定配信された「ティーチャー?」、「クライム・サスペンス」、「ザ・クレーター」の3曲にしても掴み所の無い独自の世界観を描いており、混沌としたこの平成下を締めくくるに相応しいアルバムなのかも知れない。
 ここでは筆者が気になった主な収録曲を解説していこう。

 冒頭のアルバム・タイトル曲「SUPER MUSIC」は、ライヴ映えする16ビートのファンキーなパワー・ポップで、齋藤の鼻に掛かったハスキーな声でリフレインされるタイトルが耳から離れない。
 続くリード曲の「1999(イチキューキューキュー)」は、ギター・ポップ調の爽やかなメロディを持つヴァースとサビにサンドイッチされたブリッジが、真部ペンタトニック・スケール(「ふしぎデカルト」等)で歌われ、いいアクセントになっている。詩の世界観と共に曲の構成的にも非常に練られている。

「1999」

 ハードなギターリフとタイトルの連呼が強烈なインパクトで迫る「皇居ランナー」もユニークな曲だ。歌詞とメロが同時に浮かんだとしか言えないこのラインにはアイディアには脱帽してしまったが、全体的にリズミックな歌詞のライム感も真部ならではというテクニックを見せている。
 「クライム・サスペンス」は集団行動としては珍しいブギから始まり三連符で跳ねるモータウン風ビートが曲を駆り立てる。西浦とミッチーのリズム隊のコンビネーションの素晴らしさやハードボイルドな歌詞を齋藤がキュートに歌うギャップなど聴きどころが多い。

「クライム・サスペンス」

 「ザ・クレーター」はUKギター・ポップ好きにはたまらないサウンドで、刹那的で映像が浮かぶ歌詞(新海誠監督の『君の名は』へのオマージュか?)と、性急的なギターのカッティングとアルペジオが実にマッチしている。全体のアレンジ構成的にも緩急あるドラマティックな展開で、筆者的にも本アルバム中ベスト・トラックである。

「ザ・クレーター」

 ラストの「チグリス・リバー」は、ネイティブなパーカッション(ロータム?)・パターンにメンバー全員の荘厳なユニゾンのコーラスが乗るというもので、収録曲のどのイメージからも裏切られるサウンドが真部をはじめとする彼等らしいアルバムの着地点ではないか。
 またこの曲のイメージは、アルバム・ジャケットで見せるフォトジェニックな齋藤のヘアスタイルや衣装に通じるオリエンタルなムードがあって興味は尽きない。
 なお初回限定盤は、ファーストとセカンドからセレクトされた6曲と、未発表曲「タイムリミット」のデモ音源を収録した別CDがセットとなった2枚組なので、初めて彼等に触れる音楽ファンには大いにお勧めするのでチェックして欲しい。

初回限定盤(VICL-65158)
(ウチタカヒデ)

2019年3月24日日曜日

Wake The World:The Friends Sessions (2018)

 

 レビューが年越しとなったが、2018年12月リリースの今や毎年恒例になったThe Beach Boysセッション集について紹介させていただく。
本作は1968年リリースのアルバム『Friends』のセッション(1968年1月〜4月)を収めたもので、アウトテイク集である。未公開であるがゆえにEU圏を中心とした地域では著作隣接権(※1)の時効が満了してしまう恐れがあり、これを回避するためにリリースが行われた。

 本作は全体に静謐感溢れるリラックスしたムードに満ち溢れており、ステレオ音源もあってか、クリアで聴きやすい内容となっている。
イラストもメンバーが世界に浮遊し見守っているイメージで、描いたのはDavid McMacken、後に『L.A(Light Album)』でも手がけている。他にFrank Zappaの『200 Motels,The Mothers』などのジャケットも有名だ。 LPでは裏側になる日の出または日没の浜辺の写真はGeorge Whiteman。多くのジャケットを手がけておりBarry Mcguireの『Eve Of Destructio』、Righteous Brothersの『You've Got That Lovin Feeling』が弊誌読者にはおなじみである。
また、アートディレクションはGeller and Butler Advertisingが担当し、前作『Wild Honey』から引き続き担当している。弊誌おなじみのジャケットデザインではThe MIlleniumの『Begin』、Sagitariusの『Present Tense』が有名だ。
 ちなみに上記のGellerとはArnie Gellerいう人物で当時のBrianの妻側の縁者である。当時The Beach Boysのロードマネージャーでありアルバム『Smile Smie』の収録曲「With Me Tonight」の冒頭でコーラスの合間に入るGood!の声は本人のものである。

 1968年のBillboardトップ10は以下のとおり。 

  ご覧の通り半数以上がイージーリスニングやポップス、その一方で弊誌でも取り上げる実験作が着々と製作されるという時代であった。
世代間や文化、そして政治・文化の衝突が社会の中でも顕著となる状況の中でThe Beach Boysも影響を受けざるをえなかったが、特に国内セールス面での不調、バンドの財務状況の悪化、という悪い影響ばかりである中での立ち位置の確保はかなり大変だったであろう。
 本作の方向性について言えば、当時(現在でも)深く関わっているTranscendental Meditation techniqueに基づく心理風景を元に構成されている。Transcendental Meditation(以下TM)は、Maharishi Mahesh Yogiが開発した瞑想法の普及活動の為の団体であり、宗教とビジネス又はサイエンスの間に位置している。
 Maharishiは一時The Beatlesのスピリチュアルアドバイザーとも言われ人気を博した結果、The Beatlesのメンバーも本人のレクチャー等のためインドへ渡航し、同時期にMike Loveも参加したので、本作にはMike不在のレコーディングも行われている。

 レコーディングはBrianの自宅を改装したスタジオとI.D Sound studioで行われた。I.D Sound studioはもともとLiberty Recordの関連スタジオであったが、1960年代中頃に会社売却のため売りに出されたのちI.D Sound studioとして発足した。
 本作以外にTodd Rundgrenの『Something/Anything?』,『Runt』のレコーディングでも有名である。
 レコーディング時期は1968年1月から4月まで、前作『Wild Honey』から引続く制作環境であり、Brian邸の運転手スペースを改装したスタジオで多くのセッションが行われた。
 コンソールは放送局を中心に使われていたGates社のDualuxを使用し、上部のハイ/ローパスフィルターと共にPultecやUreiなどのeqやコンプのアウトボートが使われた。
 機材のセッティングは前作から引き続きエンジニアのSteven Desperが担当した。
Gates Dualux 
 
 本作のあちこちで聴かれるオルガンはBaldwin社のもので、前年行ったハワイ公演でも使われたものと同型HT2Rと考えられている。 
Time To Get Aloneのプロモ・フィルムより  

 いよいよ本題の本作収録曲の解説に入らせていただく。 曲順はセッションの時系列順で紹介しよう。
 「本作のトラックナンバー/タイトル 画像は米国国会図書館のデータを使用」


「30 untitled 1/25/68」 
 ベースラインとキーチェンジが印象的な曲である。
 当時のベイエリアのバンドの 曲調らしいラフな雰囲気であるが、3/4にテンポを変えて「Be Here In The Morning」 に流用されている。
 1968年1月25日録音 ブライアン邸にて 

 「20 Away」
 Dennisの未発表曲で噂のみの存在であったが、今回収録された曲。
 Dennisの他に, Desi Arnaz Jr, Billy Hinsche, Dean Martin Jrのクレジットがあり共作となっているが、ご存知の通りDino,Desi & Billyだ。特にBillyの妹AnnieはCarlの妻だったこともありグループ同士のつながりは 深く、1969年リリースのシングル「Lady Love(Reprise 0965)」にBrianが クレジットされている。
 曲調はSmileセッションにインスパイアされたと思しきギターアンサンブル の小曲で歌詞もあったらしい。

  1968年1月??日録音 ブライアン邸にて

「11 Little Bird (Back Track)」
「12 Little Bird (A Cappella)」
 セッションの記録では「Little Fish In A Brook」となっており「Little Bird」に改題した ミュートトランペットとチェロのからみが印象的な曲。 
 後半から「Child Is Father Of The Man」に酷似する部分があるが、Smile セッションからサルベージしたものと推測される。
本作の音源はオリジナルのルームエコーや部屋鳴りだけのナチュラルな音像 であるのに対してプレートまたはエコーチェンバーによるリバーブが軽く かかっている点が異なる。
 


 共作者のStephen Kalinichは主に作詞を担当している。 Stephenはポエトリーリーディングなどのパフォーマンスをしていて西海岸に流れ 着きZarasthustra & Thelebiusというフォークデュオで活躍する、中途ソングライター 仲間からBrianを紹介され間もなくBrianと意気投合する。その後Brotherと契約し 各年代を通じて楽曲を提供している。
 70年代は未発表だが、「California Feelin'」、シングルリリースはあれど大惨敗 した「Child Of Winter」、 2004年にはBrianのソロ『Gettin' Over My Head』では「You've Touched Me' 'A Friend Like You」(Paul McCartneyとのデュエット)の二曲を 提供している。
 60年代はメンバーから重宝されたのかバンドのプレスリリースのスクリプトも 担当する。又、 1969年に彼自身のアルバムが制作され長らく未発表だったが 2014年にLight In The Atticより『A World Of Peace Must Come』がリリースされる。
 制作に際してはBrianも関与している。1968年当時に既に下記の通り 登記された曲があるがいくつかは今でも未発表である。
1968年2月29日録音 ブライアン邸にて

「21 I'm Confessin'」
「22 I'm Confessin'/ You're As Cool As Can Be 1 」
「23 You're As Cool As Can Be 2」 
 未発表曲のデモである。
 初期段階では67年以降お気に入りだった Baldwinのオルガンとタックピアノのコンビネーションが 無機的でありながら時折ユーモラスになる変わった音像である。
 1968年2月??日録音 ブライアン邸にて

「24 Be Here In The Morning Darling」 
 原曲「Be Here In The Morning」とテンポや様々な面で異なっている。アレンジもこちらの方が洗練されすぎており、アコーディオンが印象的である。
 ブラスはおそらくWesternなどでオーバーダブされている可能性がある。Lawrence Welk Showに流れていても違和感がない一曲。
 「Be Here In The Morning」は実父Murry Wilsonの参加もあり、『Freinds』の制作に影響があるようだ、アレンジ面でも何がしかの関与がうかがわれる。
 1968年3月6日録音 ブライアン邸にて 

「02 Friends (Backing Track)」
「03 Friends (A Cappella)」
 前作『Wild Honey』から三拍子がよく使われるようになり、『Friends』でも多用され ている。
 原曲と同様演奏終了まで収録されている。ベースハーモニカが印象的。
 Mikeがインドにいた関係なのかそれ以外のメンバー作となっている。
コーラスのブリッジ部分は中央に定位し、主旋律と装飾的なコーラスは左右に定位している、すなわち3chをコーラスに充てている。
 Brianのレコーディングはまずバックトラックを作成し2chにダビングした後 ヴォーカルとコーラスを重ねる手法が取られている。今回は歌とコーラスを同時に 録音しているようだ。歌+コーラスをもう一度別トラックに録音し 途中のブリッジのコーラスは別トラックに録音されている。
 おそらく8トラックのレコーダーを使用し、ストリングスを最後に録音している ようだ。


 1968年3月13日録音 ブライアン邸にて

「06 When A Man Needs A Woman (Early Take Basic Track)」
「07 When A Man Needs A Woman (Alternate Version)」
 BrianとDennisにAlという珍しい構成の曲 。
 他の共作者は当時のローディーSteve Korthof、John Parks SteveはWilson家の縁者でローディー以外にもアルバムParty以降 タンバリンなどで参加している。
 1968年3月18日録音 ブライアン邸にて 

「25 Our New Home」 
 作曲者不明だが、Brian節がうかがえる佳曲 。
またまた三拍子の曲となっており特徴的な一曲 この時期定番のあの無機質なBaldwinオルガンと不愛想なタックピアノの 音色がなくすっきりした印象となっている。
 後年この曲が改作されアルバム『Sunflower』の「Our Sweet Love」の一部となっている。
 1968年3月20日録音 ブライアン邸にて

「08 Passing By (Alternate Version)」
 LPA面の最後の曲 。
 当初歌詞があったがお蔵入りしたという曰く付きの曲。
 マスタリングの効果もあるが、こちらはクリアな音像となっている。
特に12弦ギターエッジの効いた音色がよく聞こえ、ドラムは中央に定位し、 ホームスタジオ特有の部屋鳴りの雰囲気がいい。
原曲とは違いベースハーモニカの入るタイミングや楽器のバランスが異なっている。ヴォーカルパートが原曲と異なり、バッキングトラックの方が先に終了。
 なんと1996年に日本のピチカート・ファイブがカバーしている。


 1968年3月22日録音 ブライアン邸にて 

「14 Even Steven (Early Version Of Busy Doin' Nothin')」 
 関係者で何人もStevenがいるので誰であるかは特定できない 仮歌の段階のため歌詞が少し違い、再生テンポも異なる。
 こちらもマスタリング時?にエコー成分が乗せられており 原曲よりややぼやけた印象。BPMを落としたバックトラックの マスターテープを切り貼りして、幾つかのオーバーダブを加え 翌月4月11日に歌入れを行った模様。(於 I.D sound studio)
  1968年3月26日録音 ブライアン邸にて

「04 Wake The World (Alternate Version) vocals」
 ヴォーカルトラックが原曲と異なっており、冒頭部のヴォーカルはダブルトラック で、曲中音声が抜けている。
 右から聞こえるタックピアノとファズをかけたようなチェロの音が印象的 ストリングスは原曲と違い左から聞こえて、トレモロの演奏がよく分かる 全体にマスタリング時?にエコー成分がかかっており、ベースの音が中央に 定位したため、左側にあった原曲と比べややぼけている。
 ドラムもベース同様の処理がされ奥に引っ込んでしまっている。
 3月30日に歌入れを行った(於 I.D sound studio) 
 1968年3月28日録音 ブライアン邸にて

「05 Be Here In The Morning (Back Track)」
 デモ段階のセッションは3月6日に行っており、こちらは最終版 またまた恒例の三拍子の曲である、間奏部が原曲と異なる。
 こちらのクレジットはメンバー全員となっている ハワイ風のモチーフは前年のハワイ公演の影響か? こちらもマスタリング時?エコー成分が乗っており、原曲のナチュラルな スネアの音色がWesternで録音した『Pet Sounds』時代のような音になっている。一方で右チャンネルではギターとエレクトリックハープシコードの組み合わせが よく聞き取ることができる。
 1:26頃からのブレイクでは原曲がオルガンに対してベールとウクレレに 切り替わっている。
 1968年3月29日録音 ブライアン邸にて

「19 My Little Red Book」
 Smile時代からよくあるタックピアノとベースのみのデモ。
 Burt Bacharch作曲Manfred Manの演奏を遅めにした感じである。
 当時のBrianは 何度かBucharch作品のカバーを行っている コードチェンジや変拍子など本作でも影響が少なからずある。
 1968年3月??日録音 ブライアン邸にて

「28 Rock And Roll Woman」
 Buffalo Springfieldの曲のリフを繰り返している ライブのリハーサル?
意図は不明ではあるが、当時のツアーで Buffalo Springfieldとは共演している。
 まだ映画『American Band』でこの曲をライブで演奏するシーンも見ることができる。
 Monterey Pop Festival出演辞退後、ライブのオファーが激減し興行マネジメント 会社を自ら設立したり自前で公演のブッキングをするなどするもセールは 惨憺たる結果であり、バンドの財務状況は悪化の一途をたどり、国内の不足分を なんとか海外の売り上げで埋めあわせる状態であった。
 1968年3月??日録音 ブライアン邸にて 

「29 Time To Get Alone (Alternate Version Demo)」 
 ここまでくると定番となった三拍子! 
 The Beach Boysの三拍子好きはどこから始まったかは不明であるが、 Bruce Johnstonが一時期結成したBruce and Terryの人気曲「Don't Run Away」 のシングルA面の「Girl,It's Alright」 (Barry Mannの曲だが)は三拍子だし、 アルバムSurf's Up 収録のDisney Girlsでは三拍子魂が遺憾なく発揮されている。
 1968年3月??日録音 ブライアン邸にて 

「16 New Song (Transcendental Meditation) [Back Track With Partial Vocals]」
「26 New Song」 
「17 Transcendental Meditation (Back Track With Session Excerpt)」
 LPであればB面ラスト。
 静謐な瞑想の世界と異なりビッグバンドのジャムセッションのような曲でタイトル負けしているような意表をつくTM賛歌。
 このノスタルジックな趣味はMurryの関与があるのだろうか?
 トラック26は曲中の一部をリフとして延々として演奏している。
 日本の二時間ドラマの劇伴めいた雰囲気。
 以下連日のセッションが集中的に続くことになるが、Mikeの三月下旬の帰米に よってもたらされたインドでのTMの影響が色濃くでた作品が続く。


 1968年3月??日録音 ブライアン邸にて

「01 Meant For You (Alternate Version With Session Intro)」
 LPであればA面一曲目。
 原曲より長く新たなメロディもあり表現豊かなサウンドである。
本作ではコーラス部の広がりが原曲より増えソフトなハーモニーがより深く 聞くことができる。
 バックのピアノとオルガンの位置は原曲は右と左だが、本作では逆になっており コーラス+ヴォーカルもほぼ真ん中だが、コーラス部は完全に左右に別れパートが 聞き分けられる。原曲のルームエコー成分をよく生かした処理になっている。
 スタジオ内のMurryの声が聴こえ、指示を出していることがわかる 他のトークバック音声はエンジニアのJim Lokert 。
 1968年4月1日録音 I.D Sound にて

「09 Anna Lee The Healer (Session Excerpt)」
「10 Anna Lee The Healer (A Cappella)」
 LPであればB面一曲目。
 楽器のバランスは原曲と同じだが、時折入る装飾的なオルガンやギターは 本作のみでしか聞くことができない。
 Mikeのインドで体験した内容の歌でありTM賛歌となっている セッションの過程で様々な楽器の組み合わせを試した様子がうかがうことができる。コーラスに2ch使いダブルトラックであるかに見えてエンディングは左右別々の 歌唱となっている 。


 1968年4月2日録音 I.D Sound にて 

「27 Be Still (Alternate Track)」 
「13 Be Still (Alternate Take With Session Excerpt)」
 当初はバンド形式の演奏であったが、完成版は聖歌のようなテンポになり トラック13ではテンポを試している様子が分かる。
瞑想状態から覚醒にいたる心理を表現しようとしているものと思われる。原曲ではほぼモノに近い(リバーブを除く)音像であるがこちらは 全体にリバーブと立体感のあるサウンドとなっている。
 1968年4月3日録音 I.D Sound にて

「18 Transcendental Meditation (A Cappella)」 
 Brianによる多重録音?妙にハイテンションなのが気になる一曲 。
1968年4月4日録音 I.D Sound にて

「15 Diamond Head (Alternate Version With Session Excerpt)」
 Brianと当時のセッションミュージシャンが作曲者となっている。
スティールギターが印象的な曲で演奏しているのはAl Vescozo。
ハワイ公演の影響が色濃く出ているエキゾチカである、 録音場所がLiberty Record関連のスタジオであったことが縁なのか? 
 Martin Dennyを彷彿とさせる一曲。
Jim AckleyはOregon出身のミュージシャンで、Thirteenth Storyを結成し The Beach Boysともツアーを行い、その関係からか何度もセッションに参加し 1968年Ron Wilsonの「We're together again」で参加している。
 原曲の冒頭部分のスプリングリバーブを叩く効果音なしで始まり 同じく波の効果音は入っていない。
 パーカッションは原曲では左に定位しているが、こちらでは真ん中 スティールギターは原曲ではやや真ん中だが、右側で ハープシコードは原曲では右だが左に定位する。
 1968年4月12日録音 I.D Sound にて

「31 Passing By (Demo)」
 70年代にオーバーダブされた様で歌詞付きとなっている 。
A&Mから過去のBrian作品のリメイク企画があったようでそのためのデモ 音楽出版社Sea Of TunesがA&M系列のIrving/Almoへ売却された関係らしい 。
 振られた男が未練がましい哀情を歌っており、声の質もしまりがない。



 「32 Child Is Father Of The Man (Original 1966 Track Mix)」
 1966と保護期間満了なのではと勘ぐるが、収録の意図不明。
 エンディングの数十秒間で聞こえるループが1968年編集?
 『Smile』時代の「I'm In Great Shape」の一部らしい。 

 『Friendsに関するセッションは以上の通りであるが、オリジナルの自作『20/20』 までは編集盤『Best Of vol.3,Stack O' Tracks』リリースが続く。
 本作以降Brianの制作におけるリーダーシップは低下してくことになるが、各メンバーの成長がバンドの 存続を助けることとなる。
マイクと共にインドに渡ったThe Beatlesは帰国後 バンドとしてのまとまりが失われ解散に向かって行ったのとは対照的だ。

 
※1:2013年にEUは著作権保護期間を従来の50年から70年に延長した、これはミュージシャンの老後の生活保障とリンクしており、Cliff RIchardを中心に延長の訴えがあり一部ではCliff法とも言われている。ただし公開音源の保護期間であって未公開音源には適用されない運用となっている。
そのため、1962年以前の公開音源に対しての保護期間が期間満了となってしまう EU圏内の最大の被害者はThe Beatlesで楽曲「Love Me Do」はパブリックドメイン化してしまった。

 (text by Masked Flopper / 編集:ウチタカヒデ



2019年3月22日金曜日

The Pen Friend Club Presents 【Add Some Music To Your Day Vol.22】

昨年『Garden Of The Pen Friend Club』『Merry Christmas From The Pen Friend Club』と2枚の強力アルバムをリリースした平川雄一率いるThe Pen Friend Club(ザ・ペンフレンドクラブ)が、来たる6月15日に彼らが主宰のライヴ・イベント【Add Some Music To Your Day Vol.22】を開催する。
ライヴ・ゲストには昨年12月の【Add Some Music To Your Christmas】でも共演した4人組アルドル・ヴォーカル・グループのRYUTist(リューティスト)が。そして注目のSpecial DJとして、元ピチカート・ファイヴという肩書きは不要なクリエイターでDJの小西康陽氏が参加する。
To Your Christmasの感動をもう一度、そして小西氏のDJで会場は熱くなるだろう。
なお現在ペンフレンドクラブは次作の準備中で、RYUTistは7枚目のシングル『センシティブサイン』を4月23日にリリースする予定だ。

●2019年6月15日(土) @青山 月見ル君想フ
The Pen Friend Club Presents 
【Add Some Music To Your Day Vol.22】 
 Open/11:00AM  
前売/3500円 当日/3800円 (共に+1drink:600円)
※このイベントのチケット販売はLivepocketにて 
◆販売ページ https://t.livepocket.jp/e/addsome22
 

 [Live] 
The Pen Friend Club 

RYUTist 

 [Special DJ] 小西康陽

 [DJ] aco&GALLA-O


(テキスト:ウチタカヒデ)

2019年3月17日日曜日

We Love Hal Blaine ~ 追悼ハル・ブレイン


 既に各メディアで報道されている通り、アメリカの偉大なスタジオ・ミュージシャンでドラマーのハル・ブレイン氏が、3月11日にカリフォルニア州のパームデザートで亡くなった。90歳だった。
 1929年2月9日にマサチューセッツ州ホルヨークでHarold Simon Belskyとして生まれた彼は、19歳からプロのドラマーとして活動を開始した。
 弊誌監修書籍の読者にとっては説明不要だが、61年にロサンゼルスでフィル・スペクターがフィレス・レコード設立後には、レコーディング・セッションの要となるスタジオ・ミュージシャン集団「The Wrecking Crew(レッキングクルー)」のリーダー格としてそのサウンドに大きく貢献した。
 その後もファーストコール・ミュージシャンとして、レコード会社を超えて多くのポップス、ロックのレコーディングに参加し、その数は150曲のトップ10ヒット・シングルを含む約35,000曲におよぶと言われているが、実際はそれ以上のレコーディングに関わっていると思われる。

 より詳しく知りたい読者は、関係者のインタビューを中心に構成され2015年に公開された映画『The Wrecking Crew』の映像ソフトでチェックして欲しい。
 この様に輝かしいキャリアを持ったミュージシャンは古今東西未来永劫現れないだろう。
 ここではハル・ブレイン氏を心より敬愛し、筆者と交流のあるミュージシャン達と共に彼のベストプレイを挙げてその偉業を振り返りたい。



 

【ハル・ブレインのベストプレイ5】
●曲目 / ミュージシャン名
(収録アルバムまたはシングル / リリース年度)
◎選出曲についてのコメント


【桶田知道】
オフィシャルサイト: https://www.kouhando.com/
 

●Something Latin / Martin Denny
(『Latin Village』/ 64年)
◎マーティン・デニーを聴く時にハル・ブレインを意識したことがなかったので少し吃驚しました。聴くと確かに初期ビーチ・ボーイズに通ずるプレイがあります。

●I Just Wasn't Made For These Times / The Beach Boys
(『Pet Sounds』/ 66年)
◎本曲の中でのパワーワードとともに刻まれるビートが、ただ悲惨ではなく「悲壮」的な印象を残してくれました。ちなみにティンパニとボンゴもプレイしているそうです。

●Moog Power / Hugo Montenegro
(『Moog Power』/ 69年)
◎終始躍動的なプレイですが、その中でもドラムがかなりフィーチャーされている曲です。月並な表現ですが、まさに60’sサウンドの集大成のような印象です。

●Goodbye, Columbus / The Association
(『Goodbye, Columbus』/ 69年)
◎メロディに沿いながらもよく聴くとかなり激しいドラミング、その一方で流れるようなリムパートもあり、静的、且つ動的という美味しすぎる楽曲です。

●Bridge Over Troubled Water / Simon & Garfunkel
(『Bridge Over Troubled Water』/ 70年)
◎だんだんアグレッシヴになるガーファンクルのヴォーカルと共鳴するように打たれる、というより打ち放されるようなスネアは、本楽曲において最も特筆したいポイントです。



【角谷博栄(ウワノソラ)】
オフィシャルサイト:https://uwanosora-official.themedia.jp/ 
 
 

●Be My Baby / The Ronettes
(『Presenting The Fabulous Ronettes Featuring Veronica』/ 64年)
◎ハル・ブレインですぐに浮かぶものはやっぱりこの曲です。
このリフは、もし自分が影響を受けたとしても、手を出してはいけない聖域的なものだと感じております。

●Wouldn't It Be Nice / Beach Boys
(『Pet Sounds』/ 66年)
◎世界でもおそらく最も有名なロックの一曲。
4小節目のスネアの一発からシャッフルに乗せてトキメキが雪崩れ込みます。

●California Dreamin' / The Mamas & the Papas
(『The Mamas & The Papas』/ 66年)
◎初めて聴いたハルのドラムはカーペンターズかこの曲だったと思います。
小学生の頃、親父と卓球をする為に近くの地区センターへ向かう車中でかかっていた記憶があります。
この曲を聴くと、親父に勝てなくて拗ねていた卓球の事を思い出します。

●MacArthur Park / Richard Harris
(『A Tramp Shining』/ 68年)
◎作曲はJimmy Webb。
Hal Blaine、Larry Knechtel、Joe Osborn、Thomas Tedesco。
沢山の感動をありがとうございました。

●Ventura Highway / America
(『Homecoming』/ 72年)
◎中学生の頃に試験勉強の為に夜なべをしていて、目覚ましの為に聴いていました。
50年がたった後でも彼のビートで少年は日本の片隅から70'sのL.Aのハイウェイへとトリップをしていました。青春の一曲。




【近藤健太郎(The Bookmarcs / the Sweet Onions)】
オフィシャルブログ:https://note.mu/kentarokondo 


 ●The Last Of The Secret Agents / Nancy Sinatra
(7”『How Does That Grab You?』B面 / 66年)
◎ひたすらかっこいい、サスペンス映画風味のロックナンバー。
踊らずにいられない。これぞグルーヴ!

●Wouldn’t It Be Nice / The Beach Boys
(『Pet Sounds』/ 66年)
◎外したくない、外せない曲。ただただ好き。美しいメロディとハーモニー、ドラマティックに魅せるドラミングの究極のアンサンブル。

●Up,Up and Away / The 5th Dimension
(『Up,Up and Away』/ 67年)
◎やっぱり心踊りますね。リム・ショットとクラシックギターの小粋な絡みから一転、爽快なドラムとソフトロックなコーラスワーク。素敵です。

●The Boxer / Simon & Garfunkel
(『Bridge Over Troubled Water』/ 70年)
◎心地よいフィンガーピッキングのギターを軸に、突如現るスネア(オーバーダブ)が印象的。
歌詞と相まって、胸が締め付けられるような曲です。

●Saturday / Carpenters
(『Carpenters』/ 71年)
◎リチャードがリード・ボーカルをとるジャジーで軽快なナンバー。
ハルの小気味よいドラミングがたまりません。


【hajimepop】
オフィシャルサイト:https://www.hajimepop.com/ 


●Santa Claus is Coming to Town / The Crystals
(Various Artists『A Christmas Gift For You From Philles Records』/ 63年)
◎フィル・スペクターの大名盤クリスマス・アルバムから。
深いリヴァーヴと豪快なハルのドラムが、更なる華やかさを加えている。

●I Saw Her Again / The Mamas & The Papas
(『The Mamas & The Papas』/ 66年)
◎彼らは、60年代のアメリカにおける象徴的なグループの一つ。
ハルが「その時代の空気を作った」一人であることを再認識させられる。

●Good Vibrations / The Beach Boys
(『Smiley Smile』/ 67年)
◎映画『Love & Mercy』では、ハルが優しくブライアンに語りかけるシーンに、彼のパーソナリティの一端を垣間見た気がした。

●Wedding Bell Blues / The 5th Dimension
(『The Age of Aquarius』/ 69年)
◎計算し尽くされたカラフルなポップスを奏でる彼ら。これはローラ・ニーロのデビュー曲のカヴァーで、ハルの跳ねたリズムが心地良い。

●(They Long to Be) Close to You / Carpenters
(『Close to You』/ 70年)
◎オールタイム・ベストで、個人的に大きな影響を受けた曲。
ジョー・オズボーンとのコンビは、ポップスにおけるリズム隊の理想形だ。






【平川雄一(The Pen Friend Club)】
オフィシャルサイト:https://the-pen-friend-club.wixsite.com/the-penfriendclub  
  
 

 ●How Does It Feel? / The Ronettes
 (『Presenting The Fabulous Ronettes Featuring Veronica』/ 64年)
◎全てが最高ですね。(祥雲貴行のプレイも一聴の価値アリですぞ)

●Do I Love You / The Ronettes
(『Presenting The Fabulous Ronettes Featuring Veronica』/ 64年)
◎『Be My Baby』よりも、これ。

●Green Grass / Gary Lewis & The Playboys
 (『Hits Again』/ 66年)
◎ハル・ブレインって、こういう普通のエイトの刻みが気持ちいいんですよね。
ドラムが歌って踊っているんです。リズムが体の中にある人が叩くエイトだと思います。
あと「アラヨット」的な小気味いいフィルが上手い。笑
こういうセンスのドラマー、すごい信用できますね。

●Aquarius/Let the Sunshine In / The Fifth Dimension
 (『The Age Of Aquarius』/ 69年)
◎そもそも曲が良すぎるんですが、ドラムも最高ですね。
フロアの音がたまりません。ライドのカップも踊ってていいですね。

●(Last Night) I Didn't Get To Sleep At All / The Fifth Dimension
(7”『(Last Night) I Didn't Get To Sleep At All』/ 72年)
◎本当に上手い。


【松木MAKKIN俊郎(Makkin & the new music stuff / 流線形 etc)】
オフィシャルブログ:http://blog.livedoor.jp/soulbass77/  
   

●It's going to take some time / CARPENTERS
(『A SONG FOR YOU』/ 72年)
◎細かい小技を連発しながら、そよ風のように撫でるように過ぎていく。なによりドラムが歌ってる。こんなドラムはハルにしか叩けない。

●GOODBYE / AMERICA
(『HAT TRICK』/ 73年)
◎グッバイ、グッバイというリフレインのフェイドアウトと共に、素晴らしいフィルインが寄せては帰す。まさに真骨頂。

●WHO 'S FOR COMPLAININ? / JIM GRADY
(『JIM GRADY』/ 73年)
◎キラリというライドシンバルの比類なき美しさ。トトトトトトと六連で降りてくるタム。
そしてステディなビート。100点満点のポップス。

●恋時計 / 高木麻早
(『TAKE A TEN』/ 74年)
◎萩田光雄アレンジでビーマイベイビーのビートを本人再現。
70年代のクリアなサウンドと大きなドラムセットで聴けるのが嬉しい。

●SAD SONGS / ALESSI
(『ALESSI』/ 76年)
◎ハル流ミディアム16ビート。よく聴けば手数王だが喧しさは微塵も無い。彼の音の一つ一つが音楽そのものだからでしょう。



【Masked Flopper(BB5数寄者)】

●Run-Around Lover / Sharon Marie
(7”『Run-Around Lover』/ 63年)
◎1963年6月Brian Wilsonが憧れのGold Star で初のセッションを行った時の一曲。
ドラムは当然Hal!

● Banzai Washout / The Catalinas
(『Fun Fun Fun』/64年)
◎Terry Melcherプロデュースで、Bruce Johnston-Hal Blaine-Steve Douglas-Leon Russell-etc参加

● Topsy '65 / Hal Blaine
(『Drums! Drums! À Go Go』/ 65年)
◎当時の西海岸のいなたいノリとHal自身の演奏が詰まった名曲!65年当時の空気が真空パックされたような気分に浸れる一曲。

●旅立つ朝 / 江利チエミ
(7”『旅立つ朝』/ 71年)
◎東京キューバンボーイズをバックに民謡を歌う見事な歌唱力の持ち主が、この曲でもHalのドラミングにがっぷり四つで東西共演。

● Night Lights (1965 Version) /  Gerry Mulligan Quintet
(『Night Lights』/ 94年再発)
◎師匠のRoy C Knapp門下からはGene Krupa, など多くのJazz ドラマーが巣立っている。
再発CDのボーナストラックのみ演奏はHal!! 


【ウチタカヒデ(WebVANDA管理人)】

●Not Too Young To Get Married / Bob B. Soxx And The Blue Jeans
(7”『Not Too Young To Get Married』/ 63年)
◎初期フィレスの男女ヴォーカル・ユニットのラスト・シングルで、ハルは結構大胆なプレイをしており、コーダではキック(バスドラ)を連打しまくって足跡を残している。とにかくウォール・オブ・サウンドでも決して埋もれないのが彼のプレイなのだ。

●Let Him Run Wild / The Beach Boys
(『Summer Days (And Summer Nights!!)』/ 65年)
◎天才ブライアンの独創的サウンドに応えるべく、ハルはドラム・キットの概念に縛られないダイナミックなプレイを発揮している。その柔軟なスタンスはBB5黄金期に欠かせない存在だった。

●Along Comes Mary / The Association
(『And Then...Along Comes The Association』/ 66年)
◎このソフトロック・バンドの出世曲は比較的ストレートなリズム構造なのだが、もたったクラップとハルの強烈なグルーヴのコントラストが不思議なサイケ感覚を生み耳に残る。フィルのバリエーションも尋常じゃなく見本市状態。

●A Little Less Conversation / Elvis Presley With The Jordanaires
(7”『Almost in Love』B面 / 68年)
◎02年にリミックスVerがリバイバル・ヒットしたのが記憶に新しい、映画『バギー万才』挿入歌として主演のエルヴィスが歌ったナンバー。
躍動感溢れるシェイクのグルーヴで親の仇のようにスネアを連打するハルのプレイがたまらない。

●MacArthur Park / Richard Harris
(『A Tramp Shining』/ 68年)
◎ジミー・ウェッブが手掛けた7分半のこのポップ・ソナタで、ハルは自らの全演奏テクニックを駆使しドラマティックに演出している。彼の膨大なワークスの中でも後世に語り継がれる名演ではないだろうか。




(企画 ・メインテキスト/ 編集:ウチタカヒデ