2017年10月9日月曜日

☆Favorite Musician全音源コレクティング邦楽編第12回:L-R


1991年にレコード・デビューしたL-Rは、グループのほとんどの曲を書きリードヴォーカルも担当していた黒沢健一、その弟の黒沢秀樹、ベースの木下裕晴の3人がメンバーで、92年から2年間、嶺川貴子がキーボードで参加していた時期をはさみ、97年までに9枚のアルバム、13枚のシングルを残して、正式ではないが事実上解散している。
メンバーはそれぞれその後、ソロ活動をはじめ、旧メンバーどうしのユニットもあったが、音楽的中心である天才、黒沢健一は2016年に病気のため僅か48歳で他界してしまった。そのためL-Rは永遠にもう再結成することはない。

デビューのミニアルバム『L』は9111月にリリースされた。冒頭の「Bye Bye Popsicle」で度肝を抜かれた。小手先だけのバンドが多い中、これだけ力強くポップなチューンで、中間部のオルガンの遊びの高度なセンスなど、いったい彼らは何者と驚くばかりだった。この曲は健一、秀樹兄弟の共作で、デビューシングルB面に配された。(A面は次作の「Lazy Day」)そして全編ファルセットの幻想的な「Love Is Real」を聴き、L-Rの音楽は黒沢健一という優れたミュージシャンでシンガーが生み出したものと分かった。
924月にすぐにフル・アルバム『Lefty In The Right~左利きの真実』がリリースされる。3曲は『L』から引っ張ってきたが、冒頭の「Lazy Girl」の冒頭のフィリップス時代のフォー・シーズンズのような雷鳴のようなドラムからスタート、曲は遊び心たっぷりで、ファルセットのハーモニーも素晴らしく聴き込んでいたら次の曲へのつなぎが、私がフーのアルバムでも3本の指に入るほど好きな『Sell Out』の曲のつなぎにつかった~wonderful radio London~が出てきて、もう泣けた。このポップセンスはまったく自分の好みと同じ、いやこれから自分でソフトロックと名付けていった音楽をいち早く送り出していたのだ。そして山下達郎、大滝詠一という我々も最も好きな日本のミュージシャンを目指すというだけあってア・カペラで「With Lots Of Love Signed All Of Us」を残すなど、意欲的である。
そして9211月はサードのフル・アルバム『Laugh+Rough』をリリース、冒頭の「Laugh So Rough」は持ち前の完璧なハーモニーを生かして、ホリーズのようなアコギでスタートした「Laugh So Rough」でまたやるなと心を掴まされる。続く「Younger Than Yesterday」は、また明快なポップ・ナンバーで、ファルセットのリードも素晴らしい。
Rights And Dues」はその流暢な英語と凝りに凝ったメロディ、ハーモニーで日本のレコードに見えないくらい。ただ私はポップな曲が好きなのでやはりセカンドシングルになった「(I WannaBe With You」がポップでハーモニーに溢れ爽快そのもの、ラストを飾るに相応しい。
なおこのアルバムから2年、女性メンバーの嶺川貴子が加わっている。936月にリリースした『Lost Rarities』は『L』に未発表曲をプラスした11曲仕様で、大滝のナイアガラの影響か、イントロの曲は英語のジングルで、その後に黒沢秀樹作のキャッチーな快作「Tumbling Down恋のタンブリングダウン」で、秀樹のベスト作品が登場する。この曲はL-Rのシングルで唯一の黒沢健一ではないA面曲だ。
以降は次の曲間に必ず20秒くらいの英語での様々なパターンのジングルが入る。英語なので大滝のナイアガラ時代よりセンスが上。自分は黒沢のポップな曲な大好きなので、アルバムにはロックナンバーも多くあるのだがそれは飛ばさせてもらい、アルバムのハイライトの「Raindrop Traces君に虹が降りた」の登場だ。この流麗なメロディとオシャレな感覚は、黒沢健一のセンスの凄さが溢れる傑作。中間のオルガンの間奏のアレンジが牧歌的でいいスパイスになっていてセンスがいつもいい。
9312月に時間を置いて2枚組の大作『Land Of Riches』をリリース、2曲目の「Now That Summer’s Is Here-君と僕と夏のブルージーン」はビーチボーイズ風と言われるが、曲自体はL-Rの曲の中でも最上級のポップチューンであり、ビーチボーイズ風は間奏での遊びのみであり、『Pet Sounds』風のベースとキーボードからみと「Good Vibrations」をワンフレーズ入れただけなのにそう書いてしまうライターが低レベル。4枚目のシングルとしてカットされている。
「American Dance」はジャズタッチのポップチューンでアルバム曲ではもったいない。ミディアムのバラードの「Rad & Blue」は、黒沢のヴォーカルの上手さが際立つ。メロディもいいし、聴き惚れた。

ディスク2では「Equinox」が素晴らしいゴージャスなバラードに仕上がっているなとうっとり聴いていたらオーケストラアレンジがDavid Campbellだった。
アコギをバンドのビートサウンドへの乗せ方が巧みだった「Telephone Craze」もいい出来だ。作曲は黒沢健一と木下裕晴の共作。このアルバムで嶺川は脱退し、L-Rはデビュー時の男3人に戻る。
9410月にリリースされた『Lack Of Reason』はやはり5枚目のシングルとしてヒットした「Remember」が、L-Rマジックというか、黒沢健一マジックというか、ビートが効いていてこれほどキャッチーというのが本当に見事。そして個人的な好みなのがギターのリフがカッコいい「It’s Only Love Song」。ハーモニーもいいし、もっともリフを生かしたアレンジにすればさらに良かったが…。健一&秀樹兄弟の共作だ。エンディングはビートルズお得意のコードで締める。
アップビートで快調な「Seventeen」もアルバム曲として気分よく聴けるが、間奏がオルガンが少しダサい。ラストは大ヒットした6枚目のシングル「Hello It’s Me」で、明快でポジティブなメロディ、メリハリが付いたサウンドと、L-Rの王道シングルで文句なし。9512月にリリースされた『Let Me Roll It』は、7枚目のシングルでなんとミリオンセラーを記録した「Knockin’ On Your Door」がやはり素晴らしい。キャッチー、パワフルなシングル用L-Rサウンドに、バックにリフが潜んでいたり、雷鳴のようなドラムを入れたり、総集編のような曲だ。このアルバムは11曲中、黒沢秀樹の単独作が1曲、木下裕晴の単独作が2曲収録される。しかし実際には黒沢健一の曲がその他3枚シングルカットされた。
8枚目のシングル「Bye」は歯切れのいいビートに載せたポップチューンでシングルとしては合格、9枚目のシングル「Day By Day」はアコースティック感を生かしたサウンドに、サビで厚くキャッチーに盛り上がっていく構成が良く、アソシエイション風のコーラスを織り込んだりさすが。10枚目のシングル「Game」は、最もキャッチーなサビを頭に持ってきた構成が良く、これも合格点と、ポップで質の高い黒沢健一のナンバーが並んだ。
974月リリースの『Doubt』は12曲中、黒沢秀樹が2曲、木下裕晴が3曲作曲し、黒沢健一の曲は6曲となる。他の2人の曲作りの能力はアップしたものの、黒沢健一のレベルにはやはり遠く及ばず、11枚目のシングルは健一の「Nice To Meet You」で、インド音楽の楽器のようなギターを使いながらポップな曲で快調そのもの、12枚目のシングルも健一の「アイネ・クライネ・ナハト・ミュージック」で、今までのL-Rのシングルと違ってビートが強く歌もR&B調だった。
13枚目のラストシングル「Stand」は、ポップなビート・ナンバーで、サビスタートのイントロの後のAメロの展開とパーカッションの使い方が面白い。この曲は前作よりよりシングル向け。
結局、この最後のアルバム2枚は他のメンバーの曲の比率が大きく増したがシングルは7枚全て黒沢健一で、アルバム曲でも、いいフックがあっていいなと思った「First Step」やトロピカルな異色作で面白いなと思った「Couch」は黒沢健一の曲で、L-Rの音楽的中心は変わらないということを逆に証明してしまった。
7年間の活動だが、これだけのクオリティの楽曲を作り続けた日本のバンドは例を見ない。今になってその思いはさらに強くなった。
(佐野邦彦)
LR


☆オリジナル・アルバム

1991  L』※5曲入りミニアルバム

1992 『Lefty In The Right』(ポリスター)84

1992  Laugh+Rough』(ポリスター)※嶺川含むメンバー4人。97

1993 『Lost Rarities』(ポリスター)54

1993 『Land Of Riches』(ポリスター)※嶺川含むメンバー4人。47

1994 『Land Of Riches Reverse』※前作のアウトテイク「Telephone Craze」「Equinox」「Red Blue」「Land Of Riches-2」の4曲のみ。※嶺川含むメンバー4人(ポリスター)

1994 『Lack Of Reason(ポニーキャニオン)14

1995 『Let Me Roll It(ポニーキャニオン)5

1997 『Doubt(ポニーキャニオン)9

1997 『Live Recordings 1994-1997』※4枚組のライブ(ポニーキャニオン)


☆必要なコンピレーション

1994 『Singles & More(ポニーキャニオン)※「Laugh So Rough」は『Laugh+Rough』収録のものに比べ歌が始まる前のドラムの2拍がない。「Younger Than Yesterday」は『Laugh+Rough』収録のものは前の曲の「Laugh So Rough」のエンディングがイントロと被るようにつながっていたため、0.5秒くらいイントロが長い。そしてバッキングのドラムの大きくミックスされ、特に後半はかなり曲にメリハリが出ている。40

1995 『四姉妹物語』(ポニーキャニオン)※同名映画のOSTL-R4曲参加。L-Rの「Dream On」はこれのみ。「Hello It’s MePiano Version)」も収録され、ピアノはMasahiro Hayashiでクレジットされている。ちなみに「Hello It’s Me」はSingle Versionで収録されている。

1997 『L+R』(プロモ盤『R』(「Lazy Girl」「Motion Picture」「7Voice」「I Love To Jam」「With Lots Of Love Signed All Of Love」「Dounuts Dreams」)とセット。初回限定盤には「Paperback Writer」「Both Sides Now」のCDシングル付でリリースした。ビートルズのカバー「Paperback Writer」は他では聴けない。「Both Sides Now」は4枚目のシングル「君と夏と僕のブルージーン」に収録)

1997 『Singles & More Vol.2(ポニーキャニオン)※「Knockin’ On Your DoorSingle Version)」は17秒から33秒までのホーンのミックスが大きい。「ByeSingle Version)」はイントロのギター、エンディングのピアノが大きく間奏のオルガンが小さい。「Day By DaySingle Version)」は1分から15秒くらいの間のオルガンがほとんど聴こえない。「GameSingle Version)」はギターが大きくミックスされているがアルバムより11秒短い。「Nice To Meet YouSingle Version)」は歌のAメロなど電気処理したようなミックス。その他「DaysAlternate Mix)」「僕は電話をかけない(Alternate Mix)」収録。なお「Hello It’s M」はAlbum Versionだった。

2012  Who Is The Stars? Wits+Z Compilation Vol.2-20th Anniversary Edition(ウルトラ・ヴァイヴ)93年のライブ6曲収録


☆必要なシングル ※重要なのは★の14

1992 ★「Bye Bye Popsicle[Version]Single Version)」※最後が『Lefty In The Right』収録のものと同じエンディングがシンフォニックなアレンジのヴァージョンだが、ドラムが『Lefty In The Right』は左なのに比べ、シングルは右。そして15秒から21秒までの間奏のドラムが僅かに大きくミックスされた。(ポリスター)

1992 ★「Passin’ ThroughSingle Version)」※314秒以降のエンディング部分はこのシングルのみ。A面の「(I WannaBe With You」は222秒から53秒までと、310秒から33秒までをEditしたSingle Version。(ポリスター)

1993 「恋のタンブリングダウン」のシングル:「恋のタンブリングダウン(Edit)」※『Lost Rarities』よりフェイドアウトが16秒短く、その後、間をおいての24秒のジングルがない。「君に虹が降りた(Edit)」※『Lost Rarities』でのフェイドアウト後、間をおいての14秒のジングルがない。★「恋のタンブリングダウン(Reprise)」は1分の後の「素直になれたなら君のそばに届く笑顔を見せておくれ」の歌詞の部分はこのシングルのみ(ポリスター)

1994 ★「夜を撃ちぬこう」※アルバム未収録。A面は「Remember(ポリスター)

1994 ★「Hyper Belly Dance」★「Hello It’s MeInstrumental Version)」※2曲ともアルバム未収録。A面は「Hello It’s MeSingle Version)」で2017年版『Lack Of Reason』にもボーナス収録。シングルは『Lack Of Reason』収録のものに比べヴォーカルにエコーがかかっておらず310秒から30秒弱く続くシンバルが小さくミックスされている。(ポリスター)

1995 ★「Music Jamboree ‘95」※アルバム未収録。★「It's Only A Love Song」は『Lack Of Reason』収録のものと比べ曲が終わった後に8秒、アナログのプツンプツンという針音が加えられている。A面は「Knockin’ On Your DoorSingle Version)」で『Singles & More Vol.2』にもボーナス収録。(ポニーキャニオン)

1995 ★「Chinese Surfin‘」※アルバム未収録。A面は「ByeSingle Version)」で『Singles & More Vol.2』にもボーナス収録。(ポニーキャニオン)

1995 ★「Cowlick(Bad Hair Day)」※アルバム未収録。A面は「Day By DaySingle Version)」で『Singles & More Vol.2』にもボーナス収録。(ポニーキャニオン)

1996 ★「Good Morning Tonight」※アルバム未収録。A面は「GameSingle Version)」で『Singles & More Vol.2』にもボーナス収録。(ポニーキャニオン)

1996 ★「Game(Live Version)」※1994年のライブでアルバム未収録。A面は「Nice To Meet You」の5インチシングルに収録。「Nice To Meet YouSingle Version)」は『Singles & More Vol.2』にもボーナス収録。(ポニーキャニオン)

1997 ★「そんな気分じゃない ("JAM TASTE" Version)」※『Doubt』収録のものとはまったくの別ヴァージョン。演奏もアレンジも別物で、例えば間奏がブルースハープではなくボトルネックギターであったり、アルバムのヴァージョンは完奏するがこちらは37秒短くフェイドアウトする。

1997 ★「Stranded(Single Version)」※『Doubt』収録のものは冒頭9秒間にスタジオチャット的なギターが聴こえたがシングルではそれがなく、シングルのエンディングは逆に演奏が3秒長いが、パッと終わる演奏の後のカセットのスイッチを切るような音がカットされている。そしてシングルのみ312秒から32秒までのギターにジェットマシーンのようなシュワシュワした音がかかっている。A面は「Stand」。(ポニーキャニオン)


参考チャート・イン・シングル

94 Remember 42位、Hello It’s Me 10位、95 Knockin’ On Your Door 1位、Bye 6位、Day By Day 15位、96 Game 10位、Nice To Meet You 14位、97 Stand 26


●参考:サンプル盤のみ

1992 『Rough And Rough』(ポリスター)※「What "P" Sez?Long Version)」「Laugh So RoughRough Version)」

1993 『Land Of Riches Edit Sampler』(ポリスター)※「Both Sides Now(Long Version)」「Telephone Craze(Alternate Mix)

1994 『Listen To The Disc(ポニーキャニオン) ※『Lack Of Reason』より。「Easy Answers(Out Take)」「It’s Only A Love Song(Out Take)

1995 『Hello It’s Me Rare Tracks(ポニーキャニオン)※グリコの抽選でもらえる『四姉妹物語映画先取り缶』に入っていたCD。「Hello It’s Me(Strings Version)」「Hello It’s Me(Alternate Piano Version)」「Making Of Hello It’s Me(ナレーション入りだがDemo Track)

1997 『Doubt Promotion Sampler(ポニーキャニオン)※「僕は君から離れてくだけ(Alternate Version)」「アイネ・クライネ・ナハト・ミュージック(Alternate Mix)」「そんな気分じゃない(Alternate Mix)」


(作成:佐野邦彦)


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