2017年7月2日日曜日

☆Beach Boys:『1967 Sunshine Tomorrow』(Capitol/00602557528534)



唯一残されていたビーチ・ボーイズのトゥルー・ステレオ計画の『Wild Honey』が、セッション・ハイライトや当時のライブに、『Smiley Smile』のセッション風景なども入れてCD2枚に貴重なテイクを詰め込んでリリースされた。ファーストの『Surfin’ Safari』は技術的にステレオは無理と言われていたので、これでビーチ・ボーイズもステレオ&モノ仕様で、1963年―1967年という両仕様並列時代が楽しめるようになったのである。特にステレオ好きの私には本当に嬉しい。こういう形で聴けるのは他にビートルズ、ローリング・ストーンズ、フー、キンクス、ホリーズ、ヤング・ラスカルズ、アソシエイション、クリームなど僅かな大物バンドだけだが、ただひとつ違うのはビーチ・ボーイズの『Today』『Summer Days』『Pet Sounds』『Smiley Smile』『Wild Honey』はマーク・リネットらが「存在しなかったステレオを作った」のであり、これは凄い偉業だ。

さてでは初のステレオ『Wild Honey』から。1曲目の「Wild Honey」は2012年にステレオミックスが作られているが、モノ、2012ステレオが233秒に比べ2分40秒と最長。ヴォーカルをオンにしたミックスだ。「Aren’t You Glad」は初のステレオ。『Wild Honey』全般に言えるが、少ない楽器とドライなエコーでモノが作られているので、劇的な変化は起きない。サビで楽器が重なる時に厚みが出るなと言う感じぐらい。「I Was Made To Love Her」も初ステレオ。この曲はモノ時代から楽器が多くコーラスがカウンターでずっと入ってきているので、ステレオ化でバッキングが華やかになった。「Country Air」も2012年に『Made In California』でステレオが作られたが、モノ、2012ステレオ、2017ステレオで劇的な差はない。ただ少ない楽器なのでクリアに聴こえるので、フェイドアウト寸前のピアノなど耳になぜか残る。「A Thing Or Two」は初ステレオ。シンプルな曲なので、ロックンロールのパートのモノでは貧弱なコーラスがステレオでは左右で分かれて出てくるので広がりが少しある。アルバム一のベストナンバー「Darlin’」は2012年に『Made In California』と『50 Big Ones』で2012ステレオが作られており、2017ステレオもミックスは大きく違わないが、モノとの違いは段違いで、特に曲のホーンセクションの厚みが素晴らしく別の曲のよう。なお2017ステレオはほかより2秒長く、タタラタッターのフレーズが僅かに聴こえる。「I'd Love Just Once To See You」は初ステレオ。シンプルな曲だが、アコースティックギターとメロディが美しいアルバムでもお気に入りの佳曲。最後のコーラスがステレオだと聴きやすい。「Here Comes The Nice」の初ステレオは、やはり楽器とカウンターコーラスが多いので、ステレオで広がりが出た。「Let The Wind Blow」は2001年に『Hawthorne, CA』でステレオ・リミックスが作られていたが、ピッチが遅く10秒も長かった。2017ステレオは通常スピードであり、薄っぺらなモノのサウンドより音に温かみが出て聴きやすく仕上がった。「How She Boogalooed It」は初ステレオ。シンプルなロックンロールだが、ステレオにすると広がるが出てよりダンサブルになった。ラストのア・カペラの「Mama Says」はモノのまま。

続くは『Wild Honey Sessions September-November 1967』でまず「Lonely DaysAlternate Version)」。『Hawthorne, CA』で歌の部分のみ発表されたが、ピアノ中心のサウンドで明らかな『Smiley Smile』以降のサウンドで作者も不明。本CDではその後の歌の入っていない演奏だけが1分プラスされている。この時代のメロディのクオリティで可もなく不可もない。「Cool Cool WaterAlternate Early Version)」はあの呪文のようなハーモニーだが、コーラスパートがはっきり聴こえる別ミックス。その後は『Sunflower』の明るいコーラスパートにつながる。「Time To Get AloneAlternate Early Version)」は、サビでホーンや口笛が登場する『20/20』にはないアレンジが入った『Hawthorne, CA』の時の初期アレンジのテイク。あのびっくりコーラスもない。こちらには『Hawthorne, CA』の最後のア・カペラがないのでその分短いが、ストリングスも入っているので、初期のテイクとは思えない。「Can't Wait Too Long (Alternate Version)」は2テイク目のブライアンの歌が入るテイクでのギターの入り方や、ブライアンの自然な歌い方、スムーズやリフなど初めて聴くテイクだった。「I'd Love Just Once To See YouAlternate Version)」は『Wild Honey』ではフェイドアウトで終わっていく部分のコーラスがはっきりと聴こえ、30秒以上歌が続くが最後はでたらめなので、このテイクをフェイドアウトしたものではないか。「I Was Made To Love Her (Vocal Insert Session)」はハーモニーのインサートの練習。『Beach Boys Rarities』収録の25秒からのパートがこれで、本CDで『I Was Made To Love Her (Long Version)』で次に収められている。「Hide Go Seek (Backing Track Master Take - Instrumental)」はシンプルなロックンロールインストでHoneysの曲とは無関係。「Honey Get Home (Backing Track Master Take - Instrumental)」は前者より工夫されたインスト。

ここからは『Session Highlights』が続く。まずは「Wild Honey」でパーカッションとオルガンは入るが、キーボードとテルミンはないインスト。後半はテルミンも入りコーラスも付くがリードヴォーカルが入っていない。「Aren't You Glad (Session Highlights Instrumental)」はキーボードだけのシンプルなインストが続き後半はホーンがフィーチャーされる。「A Thing Or Two (Track And Backing Vocals)」はインストだがハワイアン風の演奏にアルバムにも入っていないファルセットのハーモニーが入っていてビックリ。「Darlin' (Session Highlights Instrumental)」はまずピアノのバッキングのインスト部分が3回、その後ホーンが入ってのインストが1回。「Let The Wind Blow (Session Highlights Instrumental)」は1回失敗、2回目のインストにはコーラスも加わる。

続いて『Wild Honey Live 1967-1970』で671117日デトロイトのライブ。カールの熱唱が楽しめるがあのカッコいい間奏のオルガンはギターのフレーズのみ。同日の「Country Air」はアコースティックギターとピアノの歯切れがよくアルバムより明るいが適当に終わる。「Darlin’」は671122日のピッツバーグのライブで、ホーンはなくオルガンのバッキングだが歌とコーラスがしっかりしているので出来はいい。前と同じく671117日デトロイトでの「How She Boogalooed It」は、オルガンをフィーチャーしたロングヴァージョンのライブで、ドライな雰囲気がなく別の曲のような雰囲気がある。70年の「Aren’t You Glad」は、『Live In London』でも披露したようにミディアムで安定の出来。ホーンアレンジが違う。ディスク1ラストの「Mama SaysSession Highlight)」はこのア・カペラを、テンポを変えて歌う半分おふざけ。

さてディスク2は『Smiley Smile Sessions June-July September 1967』で、まずは「Heroes And Villains (Single Version Backing Track)」で、シングル・ヴァージョンとあるが、66年暮れから67年の録音で『Smile』ヴァージョンの方のバッキング。「Vegetables (Long Version)」だが、『Hawthorne,CA』のStereo Extended Mixは尺が最長で効果音とかも大きめレコードより49秒長い。このLong Version1はやや控えめにミックスされ前者より4秒短い。。「Fall Breaks And Back To Winter (Alternate Mix)」はコーラスが入っていないテイク。「Wind Chimes (Alternate Tag Section)」はエンディングへ入る時の美しい短いア・カペラ。「Wonderful (Backing Track / Instrumental)」は『Smiley Smile』の時のバッキング。なぜここにあんな囁き声のような変な歌を付けたのか。「With Me Tonight (Alternate Version With Session Intro)」は『Smiley Smile』で使わなかった明るいアップテンポのア・カペラ。「Little Pad (Backing Track / Instrumental)」はトロピカルでとても心地よい仕上がりで、ウクレレ、スチール・ギターがとてもいいが、アルバムでは笑い声や話し声で台無しになっていた。「All Day All Night (Whistle In) (Alternate Version 1)」は「Whistle In」の事でハーモニーも入り爽やかな出来。「All Day All Night (Whistle In) (Alternate Version 2)」はより完成されたハーモニーが付いている。最後は「Untitled (Redwood) (Instrumental)」はブライアンによくあるリフのような35秒のインスト。

次はリリース予定も計画されたというライブアルバム『Lei’d In Hawaii LIVE Album』で、67911日にハリウッドのWally Heiderでレコーディングされ、929日に追加レコーディングされたがボツで終わった。The Letter(Alternate Mono)(※『The Beach Boys Rarities』と音源は同じ)The Letter(Alternate Stereo)」、「You’re So Good To Me」、「Help Me Rhonda(※『Made In California』と同じ)、「California Girls(※『Made In California』と音源は同じ)、「Surfer Girl」(※『Good Vibrations: Thirty Years Of The Beach Boys』と音源は同じ)、「Sloop John B」、「With A Little Help From My FriendsMono Mix)」(※『The Beach Boys Rarities』と音源は同じ)、「With A Little Help From My FriendsStereo Mix)」、「Their Hearts Were Full Of Spring(※『Hawthone,CA』『Smiley Smile/Wild Honey』のボーナストラックと同じ音源でこれのみミックスも同じ)、「God Only Knows」(※『Endless Harmony Soundtrack』と音源は同じ)、「Good Vibrations(※『Hawthone,CA』のものは最後にYeahの声が入りドラムのロールと本CDとは別テイク)、「Game Of Love (Outtake)」の13曲はどれもオルガン中心のビートがないサウンドに覇気がないハーモニー、これじゃボツで当然。「〇と音源は同じ」と書いているが、本CD以外はヴォーカルがとてもオンになっているので聴いた感じが明らかに違い、処分はどしないこと。なおこの中の「Game Of Love」はブライアンとマイクのコーラスによるBallard作のカバーだ。(ちなみに『Made In California』の「The Letter」は歌、ギター、ドラムなど明らかに違う別テイクのリハーサル)

次は『Live In Hawaii,August 1967』で、67825日と26日にホノルルでレコーディングしたライブとリハーサル。ライブは挨拶とインスト「Hawthorne Boulevard」のあと「Surfin’」、そしてぶっ飛んだ「Gettin Hungry」は凄い組み合わせ。そしてリハーサルが安定感のある「Hawaii」と繊細なハーモニーの「Heroes And Villains」だ。

ラストは『Thanksgiving Tour 1967』で、671119日ワシントンの「California Girls」と「Graduation Day」、671123日ボストンの「I Get Around」。プラス1967年の『Wild HoneySessionで録音された少し雑な「Surf’s Up」と、1967年の「Surfer GirlA Cappella Mix)」で終わる。

こうして聴くと『Smiley Smile』も素材はいいのに、レコーディングで『Smile』の呪いを払うかのように、新しい曲もわざとグチャグチャにしたような気がしてならない。

(佐野邦彦)

 





 



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