2016年11月6日日曜日

ヒゲの未亡人:『ヒゲの未亡人の休日』 (VIVID SOUND / HIGH CONTRAST / HCR9670)



岸野雄一とゲイリー芦屋が01年に結成した“ヒゲの未亡人”の02年のミニアルバム『ヒゲの未亡人の休日』(永らく廃盤だった)が、既発曲5曲のリアレンジ及びリマスタリングと、新曲6曲を追加したコンプリート・フルアルバムとして、11月16日にアナログ盤でリリースする。
ご存じの読者もいると思うが、ゲイリー芦屋は90年代に弊誌の定期誌VANDAや『ソフトロックA to Z』初版本に関わりつつ、多くの映画音楽やテレビドラマの劇伴、CM音楽で活躍している作・編曲家として知られ、各メディアでその楽曲を耳にしていると思う。
一方、岸野雄一はスタディスト(勉強家)として、俳優、声優、音楽家、著述家等と多彩な顔を持ち、お茶の間的には13年にNHK・Eテレの音楽番組『スコラ 坂本龍一 音楽の学校』にゲスト講師として出演し、自前のヒゲに喪服の女装姿という突飛な出で立ちで話題となったことも記憶にあると思う。
(ホストである世界の坂本龍一氏は、その格好に一切突っ込まず)
やや脱線したが、筋金入りの音楽通である二人ならではのユニット・ヒゲの未亡人は、スタンダップ・コメディ風のミュージカル・ショー仕立てのライヴ・パフォーマンスを各地で展開し、熱心なフォロワーも多い。近年は映像作家のAliを加え映像音楽ユニットとして発展しているらしい。

さて本作『ヒゲの未亡人の休日』コンプリート・フルアルバムだが、ライヴ・ショーのスタイルを活かした構成からなり、ソフトロックはもとより、バカラック~筒美京平サウンド、ハリウッド風のビッグバンド・スタイル等々とバラエティに飛んだ内容になっている。
ここでは筆者が気になった曲を中心に紹介していきたい。
冒頭の「前奏:いつも同じ場面で」は、セルジュ・ゲンズブール作「ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ」(69年)を想起させるサウンドに岸野の巧妙なモノローグが乗る。またアニメ『宇宙戦艦ヤマト』のサントラ曲「無限に広がる大宇宙」(宮川泰氏の大名曲)で知られる川島和子のスキャットが格調を高めており、これ以上の幕開けはないと感じさせる。
続く「毎日」は、岸野やゲイリーとも関係が深い、山口優(京浜兄弟社~マニュアル・オブ・エラーズ代表)が、ビーイング・ビューティアス(西岡由美子(本曲の作詞も担当)、磯部智子)に提供した曲のカバーで、ここではゲイリーと岡村みどりによる目眩くアレンジが光っており、フェデリコ・フェリーニの映画を観ている様である。(つまりニーノ・ロータ的サウンド)
「お友達でいましょうよ」は、曲調アレンジ共に70年代の筒美京平オマージュのアイドル歌謡風でゲイリーが得意とするサウンドであるが、自ら弾くチェレスタのフレーズやプログラミングしたパーカッションの配置などは見事である。岸野のヴォーカルとの絶妙なギャップも深い味わいだ。

以上3曲は新曲で、オリジナルのミニアルバムに収録された既発曲の内、「三十路の小娘」はリアレンジされた2曲の内の1曲で、バート・バカラック~筒美京平の流れを汲むサウンドが耳に優しい。岸野のヴォーカルは佐川満男の「フランス人のように」(69年)のような小粋さも感じさせる。
なおこの曲と「お友達でいましょうよ」のミックスは、今年7月にセカンド・アルバム『シー・ガット・ザ・ブルース』をリリースしたマイクロスターの佐藤清喜が手掛けているのも大きなポイントだ。
 「I Married Myself」(『Lil' Beethoven』収録02年) は、ロンとラッセルのメイル兄弟によるスパークス(『Kimono My House』(74年)で特に知られる)のカバーとして新たに収録された1曲で、ここでは岸野が日本語訳を担当し、ゲイリーによるアレンジは「Strawberry Fields Forever」(67年)など中期ビートルズを想起させるサウンドでドラマティックだ。
 「さよならがいえなくて」はリアレンジされたもう一つの曲で、バカラックへの愛に溢れたオマージュであることは分かる人が聴けば理解出来るだろう。「Raindrops Keep Falling On My Head」「This Guy's In Love With You」「Promises, Promises」などなど、2分40秒弱の曲にこれほどのエッセンスをちりばめた日本の音楽家を僕は他に知らない。

   
このアルバムのリード・トラックと思われる「ヒゲの未亡人の休日」は、ヴォーカルとコーラスが新録されたソフトロック曲で、WebVANDA読者に最もお勧めしたい。全体的なサウンドはジミー・ウェッブ(フィフス・ディメンションのあの曲だ)へのオマージュ、多彩なコーラス・アレンジはフィフィスもだが、ザ・スウィングル・シンガーズや日本のNOVOなど想起させる。
セッション・ヴォーカリストの成瀬統理と野村聖子に、ゲイリーと岸野の4名から構成されるコーラスはそれだけでも素晴らしい。
 「前奏:いつも同じ場面で」とブックエンドの関係になるのが、ラストの「終奏:いちばんうまい愛の演じ方」で、岸野が哲学的に愛を語っている。ここでも川島和子のスキャットの存在感は大きく美しい。

ここの読者には垂涎ものと思える濃い内容であるが、アナログ盤という関係上プレス数が限定となるので、興味を持った方は早急に予約入手して聴いてほしい。
なお本作リリースに合わせた国内ツアーも敢行されるので、興味を持った方は下記リンクよりチェックしてほしい。

(ウチタカヒデ)

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