2016年11月29日火曜日

☆『冨田勲 手塚治虫作品 音楽選集』(日本コロムビア/COCX39821-5)5CD ☆『冨田勲映画音楽の世界』(松竹レコード/SOST3025)


CD5枚組の『冨田勲 手塚治虫作品 音楽選集』はおススメだ。作品や曲のセレクションに少しクエスチョンマークはあるが、90点あげてもいい。というのも私は昔から「シンセサイザー時代より前の子供番組の曲を作っていた冨田勲」の熱烈なファンだからだ。宮崎駿らのアニメーションが好きな自分は、マンガと180度逆でアニメの手塚治虫にはまったく興味がないのだが、冨田は手塚アニメの音楽を多く担当しているので、自分の冨田コレクションに手塚作品は多い。こうして音だけあればいいのでDVDは不要で大変助かる。この時代の冨田作品は今のなお、他を寄せ付けないハイセンスで優美、荘厳、そして高揚感のある曲が作れる第一人者だった。山下毅雄、宇野誠一郎という日本のトップ3の作曲家の中でこの時代の冨田はずば抜けている。私はこの時代の冨田の音楽は全てコレクションしているので、本ボックスの素晴らしい点と惜しい点がよく分かるのでそこを紹介しよう。もちろん素晴らしい点の方が遥かに多い事は保障する。CD5枚組。ディスク1は『ジャングル大帝』。冒頭はあの平野忠彦(シングルは三浦弘名義)による壮大なオープニングテーマ。放送は1965年、日本最初のカラーTVアニメで、家に届いた、まだ珍しい(1968年でも普及率4.4%。ただし1971年には85.8%と急増)到着したカラーテレビで、「ジャングル大帝」のオープニングを見た時の感激は覚えている。この頃のカラーテレビは相当な高額だったが、それだけのお金を払ってもカラーでTVを見たい!という気持ちを大きく助長したのがこの『ジャングル大帝』だったという。知らない方に話しておきたいのはこの『ジャングル大帝』と『リボンの騎士』は、マンガで超売れっ子だった手塚治虫が、自分のマンガの儲けをアニメーション作りに回して、その潤沢な資金で、TVシリーズなのにフィルムを先にアップしてそれを見ながら冨田勲がその都度曲を作って録音するという贅沢な方法で作られたことだ。クラシック好きの手塚は、壮大なスケール感のある冨田を高くかっていて多くのアニメの音楽を冨田に依頼した。手塚の虫プロダクションが満を持して制作したカラーTVシリーズの第1弾第2弾はこうして冨田にまかされ、その期待をはるかに超える音楽を作った。

ディスク1のジャングル大帝の音楽は、その当時LPが出て後にCD化された、リレコされた『ジャングル大帝ヒットパレード』というアルバムがあったがTVシリーズの音楽とは雰囲気が大きく違ってこれを除外したのは正解だ。ようやく当時の曲を集めたのが1998年の『懐かしのミュージッククリップ35ジャングル大帝』(東芝EMI)で、歌の入った部分の曲が22曲(「ジャングル大帝進めレオ」のタイトル曲含む)収められた。そして2007年にCD4枚組の『ジャングル大帝』(Emotion)では先のミュージッククリップの内容を含みつつ(2曲少ないが、別の2曲が入った。歌は21曲)遂に当時のBGM88曲を中心に109曲が収録されたが、冨田勲がこの頃の音質が満足いくものではないということで回収騒ぎとなり一部にしか出回らなかった。それで今度のディスク1は60曲、内歌が入っているものは既発表の12曲でBGMが中心、ようやく万人に『ジャングル大帝』のBGMの素晴らしさを誰でも味わってもらうことができた。この48曲のBGMは、先のCD4枚組のBGM88曲とダブりがたった2曲!特に「きちがい雲」3曲、「さすらいの死神」7曲は本作のみで、美しいバイオリン中心のストリングスで彩られる曲や、冨田の真骨頂の金管楽器が響く曲など、素晴らしい曲ばかりを堪能できた。おしむらくは、この『ジャングル大帝』と『リボンの騎士』のテーマソングは、TVサントラとは別ヴァージョンのフルコーラスだが、演奏の緻密さはこのレコード・ヴァージョンが群を抜いていいので、他のCDで聴けるとはいえ収録してほしかった。またミュージッククリップ収録の挿入歌で落ちた弘田三枝子が歌う「たまごの赤ちゃん」は美しいメロディと優しい歌声の名作なのでこれは落とすべきではなかった。続けて放送された「ジャングル大帝進めレオ」のBGMは初収録で貴重でありここに記すことにする。「大草原の対決」6曲のうち進めレオのフレーズも一部入れた荘厳なM-13M-14、「月光石の秘密」1曲のあとは「密猟者の森」2曲で勇壮なM-1,M-4が光る。「石のとりで」2曲のうちM-7は心惹かれるパートがあり。6曲の「王城に陽は昇る」はM-14が金管のメロディが光っていていい出来だった。ただこの主題歌は三木鶏郎が担当したが壮大なオープニングは冨田のアレンジで、ミュージッククリップには2ヴァージョン入っていたがここには収録されず。

ディスク2は嬉しい1967年『リボンの騎士』のほぼ初といってもいいBGM集。昔1997年に『懐かしのミュージッククリップ28リボンの騎士』で31曲収録、歌が入ったものが12曲で残りはBGM、しかしセリフが入っているものもあった。今回はディスク2全部とディスク56曲で計72曲収録、主題歌「リボンの騎士」のインスト版と歌入り王女編、「リボンのマーチ」のTVサイズはダブったが、王女編インストルメンタルは初収録、「リボンのマーチ」もTVサイズの別ヴァージョンが加わった。BGMでコーラス付3曲があったが、ミュージッククリップの挿入歌の「囚人のうた」「チンクのうた」「使用人たちのうた」「うれしいたいかん式」「王子入場」「サファイヤのうた」「リボンの騎士はチャンピオン」とTVで使われたセリフ入りの王子編歌入り「リボンの騎士」とTVサイズより30秒長い(しかしレコードよりは1分短い)「リボンのマーチ」の9曲は落ちた。特にスティールギターを使った愛らしい「チンクのうた」は傑作だったので惜しい。さてBGM68曲もあり壮大な「王子と天使M-4‘’」と美しいワルツを使った「踊れフランツM-4」、そして本作のハイライトBGMであるサファイヤとフランツがカーニバルで踊るときのバイオリンによるあまりに甘く美しいワルツの「サファイヤのカーニバルM-7」、王宮の宮廷音楽のように華麗な「サファイヤのカーニバルM-10」はBGMのレベルをはるかに超え、まさにクラシック。楽しいカーニバル音楽「サファイヤのカーニバルM-13M-13‘」、あのワルツをさらにゆったりと演奏した「サファイヤのカーニバルM-15」も後半が素晴らしい。牧歌的でストリングスが美しい「七匹の仔やぎM-15」、BGMの中に華麗さがちらつく「王様バンザイ!!M-6」と荘厳な「王様バンザイ!!M-21」、前述のワルツをアレンジした美しい「燃えるシルバーランドM-14」、後半の新しいワルツが魅力的な「シルバーランド幸せにM-2’」、バイオリンの高音の旋律に心を奪われる「シルバーランド幸せにM-2’’」、後半が荘厳でかつワルツのメロディも使った「シルバーランド幸せにM-10」、まるで「キエフの大門」かのような荘厳な「シルバーランド幸せにM-11’」と名曲BGMがズラリ。ディスク5ではアコーディオンがフランスをイメージさせる美しい「ふしぎなカガミ」、壮大なイメージの「おちゃめなテッピーM-18」が光る。ここで手塚作品での冨田は頂点を迎えた。

ディスク3は初登場の手塚アニメの快作1969年「どろろ」のBGM集なんと68曲。コアな手塚ファン、そして映画音楽まで好きなコアな冨田ファンにはここは一番待ち望んだディスクだろう。マンガは手妻作品の中でもベスト5に入れる大好きな作品だ。これをアニメで表現するとビワの音と低い男性コーラスのハミングで、応仁の乱で乱れた世の中、妖怪と戦って妖怪に奪われた自分の体を取り戻していく百鬼丸を描こうとすればこういう重く陰鬱なサウンドのBGMになるのは当然の帰結であり、こういう曲は冨田が映画音楽で得意とするサウンドである。しかし私は残念ながらこの手の曲はあまり好きではない。コミカルながら歌の裏のコーラスがその異様な世界に誘ってくれる主題歌の「どろろ」は大好きだが。その中、美しいメロディを持つ「みおの章2M-78」、「ばんもんの章2M-79」、哀愁漂う「どろろの歌ヴァリエーション3M-28T2」、浮き浮き感もある「二人旅の章3M-5T5」、日本的な哀調を帯びたメロディが美しい「妖怪かじりんこんの章 3M-1」、どろろの主題歌をスローなインストにした「妖馬みどろの章 3M-30 T2」が個人的には気に入っている。メインテーマは「メインテーマ2 (百鬼丸のテーマ) (1M-1 T2)」の方が重々しさがあって雰囲気が出ているが、この作りはまさに後述の時代劇の映画音楽の冨田そのもの。ディスク5にもパイロット版用BGM6曲と葵交彦が歌う「百鬼丸の歌(別ヴァージョン)」があり後者はどこが違うか聴き比べたがイントロでレコード版は13秒過ぎにコーラスが入って21秒から始まるのに対してこの別ヴァージョンは13秒から歌が始まっていた。

ディスク4は映画1969年の『千夜一夜物語』のサントラだ。当時、この映画はサントラ盤LPが出ていたが、12曲中A2曲目の「アルディンのテーマ」のオリジナル・ヴァージョンではなく別ヴァージョンが収録されたが、もう1曲を除いて他は全曲収録された。入れなかった理由はレコード用のマスターが見つからなかったというが、盤おこしをすればいいだけで、本ディスクではマスターでも盤おこし以下の音質のものもあり、こういう変なこだわりは迷惑だけという事が分かっていない。14曲がヘルプフル・ソウル、1曲はヘルプフル・ソウル+フール・サンズ、フール・サンズは24曲で39曲の構成だ。ヘルプフル・ソウルはあのチャーリイ・コーセイ(宮崎駿・大塚康生・高畑勲の名作『旧ルパン三世』のオープニング・エンディングを歌ったヴォーカリスト)がいた伝説のブルース・ロック・バンドで、冨田に気に入られ本アルバムは8曲とアルバムのメイン、そしてオリジナル・アルバム1枚をリリースしてたった2年で解散した。冨田色が出るのはフール・サンズ(オーケストラ)が担当した曲で、アラビアン・ナイトの世界を彷彿とさせるエキゾチックで荘厳な「メイン・タイトル」「エンド・タイトル」、用いられたのは濡れ場のシーンだが、美しいバイオリンによる「魅惑の夜」とコーラスが入った「いとしのミリアム」がアルバム曲ではいい。ただし今回マスターで収録された映画用の「ミリアムのテーマ」の方が、後半がストリングスで出来は上。ミリアムの娘のジャリスの曲は3曲あるが、対位法のコーラスが耳障りなので初音盤化の短いシンプルな「ジャリスの竪琴」がベスト。ヘルプフル・ソウルの曲は「アルディンのテーマ」のようなベースのリフガカッコいい曲が多いがアルバム曲の「モーレツ男」は歌の入ったVocal Mix Versionに変えられているのでこれも注意。余談だが、この映画は1969年でこの年にヘルプフル・ソウルは解散したが、翌1970年に大阪万博の東芝IHI館のための曲で、非売品EPで作られた12分の大作「東芝IHI館グローバル・ビジョンのためのマルチプル・サウンズ」には壮大なフール・サウンズ・オーケストラの演奏の後、六文銭の演奏、そして中盤からチャーリー・コーセイ(当時はチェイ光星と名乗っていた)の歌が入ったバンド演奏で、この大作がCD化されないのはあまりに惜しい。

ディスク5はまず1962年東映動画長編アニメーションの『アラビアン・ナイト シンドバッドの冒険』から4曲入っているが、これは1996年リリースの『東映動画長編アニメ音楽大全集』に23曲入っていてそこからのセレクション。エキゾチックで転調が見事な「サミール姫のうた」がないのは納得いかない。この10枚組の『東映動画長編アニメ音楽大全集』には、まず宮崎駿・高畑勲・大塚康生の3人が初めて中心になって作った1968年の日本アニメーション史上に輝く最高傑作『太陽の王子ホルスの大冒険』、この作品のヒルダを描いた森康二の奇跡のアニメーションが見どころで間宮芳生の一世一代の音楽の美しい音楽のもほぼ全体が収録されていた。さらに宮崎駿がアイデアの中心の担い森康二が作画監督を担当した傑作1969年の『長靴をはいた猫』と1971年の『どうぶつ宝島』、さらに森康二が中心となり大塚康生、月岡貞夫が持てる力を発揮、音楽が伊福部昭という1962年の『わんぱく王子の大蛇退治』という東映動画長編アニメーション4大作品を含む全ての音楽が収録された最重要CDボックスだったが、長く廃盤なのがあまりに惜しい。本ボックスには冨田が音楽を担当した1965年の『ガリバーの宇宙旅行』のBGMも入っていてこちらの方が魅力的な曲を書いていたが、坂本九が主人公で歌を歌っていたからか一切歌が入っていないセレクトだった。ほとんどの作品はTVサイズ&劇場サイズの方が耳に馴染んでいるし出来もいいのだが、冨田の場合タイトル曲はシングルになるので気合が違うというか、レコード用のヴァージョンの方がステレオで広がりがあって出来がずっと良かった。『ジャングル大帝』『リボンの騎士』がそうであったように、この主題歌の「ガリバー号マーチ」もレコード・ヴァージョンの方がはるかに上(ただし気合が入っているのはA面のみ。必ずTV・劇場と同じ歌い手を使うのがポイント)で、1991年の『オリジナルアニメ原盤によるアニメ主題歌メモリアル1』にはその金管の広がりが素晴らしく高揚感に溢れたレコード・ヴァージョンと、カップリングの劇場版とは違う本間千代子&高橋元太郎が歌う「遊園地のうた」が収録されていた。でも実は1998年の『東映動画アンソロジー劇場編1958-1971』(日本クラウン)では劇場版サイズの「ガリバー号マーチ」と「遊園地のうた」をコロムビアのレコードのクレジットを付けて入れたのは確信犯?というのも後者の歌はサントラなので歌は坂本九…。まあどちらにしてもDVDでは坂本九の歌は全て聴けるがCDは全て廃盤だ。本ボックスになぜ『シンドバッド…』だけ入れて『ガリバー…』を入れなかったのは全く納得できない。次いでこれも嬉しい1964年の『ビッグX』、かつて1997年にリリースされた『懐かしのミュージッククリップ22ビッグX』(東芝EMI)からの抜粋でオープニングとエンディングの歌とBGMを細かく分けて14曲にしていれた。M-7M-9のような西部劇調のBGMが魅力的だがBGMは全部で14分ちょっと。それに比べミュージッククリップは40分もあり、ここを手抜きにしたのはもったいない。ミュージッククリップにはあの胸の高鳴るテーマ曲の色々なアレンジを集めたインストルメンタル集やBMG集2の金管を生かした勇壮なマーチもあったのに収録せず惜しいことばかり。ここでも出来のいい主題歌のレコード・ヴァージョンを落としていた。初収録は手塚のデビュー作を劇場作にした1965年『新宝島』から「タイトル~出航」。曲ではなくBGMで特に胸躍るものではない。同じく劇場作の1966年『展覧会の絵』から「プロムナード」と「キエフの大門」。もちろんムソルグスキーの傑作で、後者の方が、出来がいい。その後の『ジャングル大帝進めレオ』『リボンの騎士』の補遺、『どろろ』の補遺は前述のとおりで、最後は『千夜一夜物語』に次ぐアニメラマ、1970年『クレオパトラ』より主題歌の由紀さおりが歌うエキゾチックな「クレオパトラの涙」が収録されていた。かつて1991年の『ぼくらのテレビ探偵団Vol.4』だけに入っていた曲なので未入手の方には貴重だ。

続いて『冨田勲映画音楽の世界』(松竹レコード/SOST3025)を紹介しよう。まず重厚で重々しい1965年の『飢餓海峡』より2曲、1968年の美輪(丸山)明宏主演の『黒蜥蜴』からはサスペンス風の2曲、1970年「座頭市あばれ火祭り」1971年「新座頭市・破れ!唐人剣」は1曲づつでこれぞ『どろろ』のBGM(この2作品は『座頭市音楽旅其之参』(キング)に8曲、7曲収録)1972年の『びっくり武士道』はコミカルな作品に合わせてシンセサイザーを使ったコミカルなものを2曲、1973年の『しなの川』は作品世界に合わせて哀調溢れる2曲、これが入ったおかげで『しなの川』のDVDを処分できた。『同棲時代』との2枚組、どちらも由美かおるのヌードが売りのDVDセットだったが、病気で既に女性への煩悩が消滅した自分にはまったく興味がなくなり瞬時に処分、まあ楽で良いともいえる。1974年の怪作『ノストラダムスの大予言』はシンセサイザーも使った大袈裟な感じの曲だった。残りはもうどっぷりシンセサイザー時代以降の1990年以降なので『学校』4作、『たそがれ清兵衛』『隠し剣鬼の爪』『武士の一分』『母べえ』『おとうと』『おかえり、はやぶさ』などあるが調査担当外なのでこれまで(佐野邦彦)

 
 
 
 
 

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