2016年3月21日月曜日

☆大滝詠一:『DEBUT AGAIN(初回限定盤)』(ソニー/SRCL8714~5)


大滝詠一が他アーティストに提供した曲のデモ等を集めたセルフ・カバー集に、オマケとして1997年の再活動開始期にソニーでのリハビリ・セッションを初回限定でプラスしたアルバムだ。ライナーがあるので枝葉末節な細かい情報を入れながら紹介しておこう。やはり男性に書いた曲はキーがドンピシャ、冒頭の1985年に小林旭のために書いた「熱き心に」がまずこの盤のハイライトの1曲。大滝の歌声は本当に魅力的で、日本のナンバー1ヴォーカリストだなと改めて思う。ソフトで癖が無く、誰でもうっとりとさせてしまう魔法の声だ。1994年に渡辺満里奈が歌ったというより、「ちびまる子」のテーマソングの「うれしい予感」は、キーがオリジナルなので非常に低い。よくこんな低音でもきれいに歌えるものだ。ミニアルバムでは222秒から35秒に登場する大サビの入っていない、短いシングル・ヴァージョンを使っている。1998年の「怪盗ルビイ」は2002年リリースの『Kyon3』に、小泉今日子と大滝の細かいつなぎ合わせのデュエット・ヴァージョンが収録されていたが、こちらは初登場の大滝のソロ・ヴァージョン。ラッツ&スターに提供した「星空のサーカス」と「Tシャツと口紅」はさすが男性用、キーが合うのでバックコーラスも完璧、自家薬篭中の出来でやはり“提供先”より魅力的に仕上がった。薬師丸ひろ子に提供した1983年の「探偵物語」「すこしだけやさしく」は、大滝が同年724日に西武球場で行ったコンサート「オールナイトニッポン・スーパーフェス’83」用に作ったオケで録音したソロで、アレンジから全く違う。前者は、ほぼオーケストラをバックにした薬師丸に比べ大滝はピアノのイントロからオーケストラが入りビートも感じられるアレンジで仕上げている。ただ大滝のソロ作品として見ると歌謡曲っぽさが強い曲想だ。後者の大滝ヴァージョンはカスタネットが加わりより大滝らしいサウンドになっていた。このコンサートでは大滝はなんと嬉しい「オリーブの午后」からスタート、「ハートじかけのオレンジ」「白い港」「雨のウェンズデイ」と続きその後がこの2曲の登場、そして「夏のリビエラ」「恋するカレン」「FUN×4」「Cider’83~君は天然色」で「夢で逢えたら」のインストがラインナップだった。そしてこの本編CDでもこのライブと同じ流れで次は『Snow Time』で既に披露済みの「夏のリビエラ」だったのは偶然か。そして曲の魅力度ではこのアルバムの目玉である「風立ちぬ」の大滝ヴァージョンが登場する。使用したのは松田聖子に提供した1981年の123日に渋谷公会堂で行われた観客は与えられたFMWalkmanに各自のヘッドフォンをつないでライブを聴くという「ヘッドフォンコンサート」のライブ音源だった。キーを変えバッキングは新しく作られたが、基本的なアレンジは松田聖子ヴァージョンで、「探偵物語」ほどの違いはない。やはりソロだと歌声にはつらつさが欠け、なにやら照れくさそうな感もある。この音源にはブートで一部に出回っている松田聖子と同じキーで歌うデモヴァージョンがあり、そちらが収録されると思っていたが、よりキーが低く、歌声が地味だったので使われなかったのか。このブートには大滝本人が歌う「冬の妖精」のデモも入っていたがこれも収録されていない。ちなみにこのライブは第1部が「FUN×」「Pa-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語Velvet Motel」「スピーチ・バルーン」「外はいい天気だよ」「青空のように」「カナリア諸島にて」「指切り」「雨のウェンズデイ」「恋するカレン」「ナイアガラ・ムーンがまた輝けば」の11曲、第2部が「恋はメレンゲ」「想い出は霧の中」「Confidential」「Blue Velvet」と続き16曲目にこの「風立ちぬ」が登場した。その後は杉真理の「街で見かけた君」、佐野元春の「Someday」となり、Niagara TriangleVol.23人による「A面で恋をして」(アンコールも同じ)、「君は天然色」「さらばシベリア鉄道というラインナップだった。最後は『Best Always』『Niagara Song Book2』を買って応募した人300人にもらえたシングルに入っていた「夢で逢えたら(Strings Mix)」が収録された。ハープシコードからスタート、その後はストリングスのバッキングなのでドリーミーな仕上がりでラストに相応しい。そしてオマケのディスク2。1997年に大滝がソロ活動再開をするためにソニーのスタジオで2ヶ月に渡って続いた「リハビリ・セッション」からの音源が続く。1928年のジミー・オースティンのカバー“My Blue Heaven”のカバー「私の天竺」で、中間に“Home On The Range”を入れるセンス、まさにナイアガラだ。楽しいカバーでディスク2では一番好きかも。続く「陽気に行こうぜ~恋にしびれて」(2015松村2世登場!version)は、ご存じエルヴィス・プレスリーのカバー・メドレーで、昨年リリースされた『佐橋佳幸の仕事1983-2015』に収録されたものから冒頭の30秒のスタジオでのやり取りをカットしたものだ。その後はカントリーのロジャー・ミラーとジョージ・ジョーンズのカバーのメドレー「Tall Tall TreesNothing Can Stop Me」と軽快なカバーが続いた。このリハビリ・セッションは、その後に大ヒットとなる「幸せの結末」が生み出され、曲のタイトルのとおりとなる。最後はディスク1の「うれしい予感」のB(扱い)で、植木等が歌った「針切じいさんのロケン・ロール」の大滝によるセルフ・カバー。このディスク2に回されたのは、オリジナルが1958年のノヴェルティ曲でそこにさくらももこが歌詞を付けたものだから。大滝が歌うとまさにナイアガラ。ロンバケ以前の未発表曲と言われればすぐに信じちゃうね。(佐野邦彦)

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