2016年2月28日日曜日

『Chocolat & Akito meets The Mattson 2』(Rallye Label / RYECD237)


 12年の『GREAT3』から活動を再開し14年の『愛の関係』も好評であるGREAT3の片寄明人と、女性シンガーソングライターのショコラによる夫婦デュオ Chocolat & Akitoが、12年の『Duet』に続く4作目になるアルバムを3月2日にリリースする。

 本作はそんな彼らと8年の交流を持つ、カルフォルニア在住の若き双子デュオ The Mattson 2(ザ・マットソン2)とのコラボレーションという形態を全面に出しており、双方が持つ音楽センスの化学反応も楽しめる好盤となったのだ。
 前作までのChocolat & Akitoのサウンドは、大人のためのMOR&ソフトロックと二人のヴォーカルが醸し出す美しいハーモニーが最大の魅力であったが、本作ではThe Mattson 2が持つ60's西海岸ポップやジャズや後のNew Waveからの要素をうまく内包した新たなサウンドをクリエイトしている。

 The Mattson 2について紹介しておこう、カリフォルニア州サンディエゴ出身の20代の双子デュオで、ギター担当のジャレットとドラムスのジョナサンからなる。ローティーンの頃にパンク・バンドを手始めに音楽活動を始めるが、父親の影響もありジャズ・プレイヤーとして目覚める。
 その後00年代の西海岸カルチャーの重要人物とされた映像作家でレコード・レーベル、"Galaxia"のオーナーでもあるトーマス・キャンベルに認められ、同レーベルで既に活動していたSSWのレイ・バービーとのコラボで07年に『Ray Barbee Meets The Mattson 2』、09年には1stアルバム『Introducing』をそれぞれリリースしている。
 ジャズ・ピープル・マナーと西海岸のストリート・カルチャーをうまく融合させたサウンドは本国の他日本でも注目され、精力的に来日公演もおこなって耳の早い音楽通にも知られた存在なのだ。

 因みに本作の主なバックトラックのプレイはThe Mattson 2の2人によるもので、一部の曲でショコラがキーボードとパーカッションを担当しているが、Chocolat & Akitoとしてはヴォーカル&コーラスに徹しており、合理的に分担しているのが海外レコーディングらしい。
 エンジニアリングとミキシングには片寄と『HEY MISTER GIRL!』(00年)からの付き合いになる、トータス及びザ・シー&ケイクのジョン・マッケンタイアが参加し、ジャケット・アートは同じくトータスのメンバーであるジョン・ハーンドンによるものだ。

 では主な収録曲を解説していこう。
 冒頭から4ADサウンド(コクトー・ツインズ等)をジョン・マッケンタイアが音響処理し結晶させたような「Graveyard Has No Color」から始まる。続く「Nothing to Fear」は80年代英国ネオ・アコースティック・シーンにも通じる、ギターのマルチ・トラックで構築されたサウンドが懐かしくも新しい。
 「Sakura」もサウンドの中心はジャレットのスリリングなギターのであるが、この曲では一級のジャズ・ピープルがバックを務めていた頃のジョニ・ミッチェルの匂いもして興味深い。
従来のChocolat & Akitoサウンドに最も近いのが「Everlasting Mind」かも知れない。とにかく曲の完成度が高く、ジャレットのギターは元スミスのジョニー・マーを彷彿とさせる。筆者的には以上の2曲をベスト・トラック候補として挙げたい。



 インスト・ナンバーの「Earland」は、The Mattson 2の演奏にショコラがキーボードで加わっている。リードメロを取るシンセサイザーが彼女のプレイなのかも知れないが、ジャズ・ロック風という意外性があって面白い。
 「Velvet in Room」はGREAT3における片寄のカラーが色濃く出ている曲で、『愛の関係』に収録されても違和感がない独特な世界観が美しい。二人のコーラスと音響の処理も非常に効果的で、欲を言えば尺がもう少し長ければと思うばかり。



 文化の異なる若いアメリカンとのコラボレーションながら、アルバム全体的にセンシティブ且つプログレッシヴなサウンドを構築しているのは、世代を超えた2組が持つ美意識へのシンパシーの賜物だろう。
(ウチタカヒデ)





2016年2月27日土曜日

☆Brian Wilson etc:『George Fest』(Sony/30028-30)CD+Blu-ray


2001年にジョージ・ハリスンが亡くなり、翌年にはエリック・クラプトンが中心に、ポール、リンゴなどの超豪華メンバーによって追悼コンサート『Concert For George』が行われ、ソフト化された。そしてそれから12年。今度はジョージの息子のダニーが中心となり、2014928日にロサンゼルスのフォンダ―・シアターで追悼ライブ『George Fest』が行われた。この日はジョージのワークスの残る総決算ともいうべき『The Apple Years 1968-1975』のボックスのリリース日であり、前回ほどの派手さがない中、ダニーが一生懸命、タイアップを行った。そうしてコンサートから15か月後に、ようやくCD+Blu-ray(DVD)に仕様でリリースにこぎつけた。選曲はダニーが担当、『Concert For George』では半数がビートルズ・ナンバーで、ポール、リンゴ、クラプトンによる「While My Guitar Gently Weeps」が目玉だったが、ダニーはあえてこの名曲を外し、ビートルズ・ナンバーは9曲、ソロ・ナンバーを17曲に配分を変えた。ただし超名盤『All Things Must Pass』から12曲セレクトしたので、多くのジョージ・ファンに馴染み深いコンサートになっている。まずはブライアン・ウィルソンが歌う「My Sweet Lord」で、アル・ジャーディンやダリアン、スコット・ベネットを始め多くのメンバーに囲まれ、ほぼ忠実なカバーだった。スピリチュアルなものへ傾注するブライアンにとって、ジョージのこの曲は衝撃だったようで、心底好きなようだ。最後はア・カペラになってエンディング。歓声の中、すぐに退出していくのはいかにもブライアン…。歌はノラ・ジョーンズの「Something」「Behind The Locked Door」がさすがに素晴らしい。そしてアン・ウィルソンの「Beware Of Darkness」に心を捕らわれた。ジョージのソロ曲でもコード進行の見事さはこの名曲で止めを刺すだろう。この繊細な曲をパワフルなヴォーカルで彩った。その他「Ballad Of Sir Frankie Crisp」「Wah-Wah」「Let It Down」「What Is Life」「Isn’t It A Pity」「I’d Have You Anytime」がいい出来で、ほぼ『All Things Must Pass』の曲ばかりだ。1970年にこのアルバムがリリースされた時にあまりに素晴らしい曲で埋め尽くされていたので、みなビートルズ解散後はジョージが最高なんじゃないかと大きな話題になったものだ。1970年当時はジョンとポールは期待値が高すぎたので、『ジョンの魂』に今ほどの高い評価はなく、ポールに至っては「Another Day」から『McCartney』『Ram』とまあ酷評の嵐だった。どうして「Every Night」や「The Back Seat Of My Car」に気付かないんだろうと当時から思っていたが、ジョンでも「Love」くらいしか評価されていない時代が、今では考えられないだろうが確かにあったのだ。そしてジョージの次作の『Living In The Material World』は「Don’t Let Me Wait Too Long」という個人的な超名曲を始め、美しい曲が多く好きなアルバムだが評価は一気に下がり、ジョンは『Imagine』で一気に回復、ポールも少し遅れて『Band On The Run』で天才の評価が戻って、ジョージはやはり3番手のいう位置に戻っていくのだが、アルバムには必ず光る曲があったので、それを聴くのが楽しみだった。そんなジョージだが、ガンには勝てず、私の今の歳と同じ58歳にこの世を去っている。自分も部位は違っても同じ病気で同じ歳。このアルバムを聴きながら、自分にはズシンと応えた。来週はまた抗がん剤で34日入院。ベッド上だけの毎日であまりに時間があるので、個人番号カードを作ろうと妻に介護用ベッドに寄りかかった状態で写真を撮ってもらって申請した。しかし写真をみて衝撃。なんとも精気に乏しく老けた感じなのだ。そうだよなあ。髪の毛も細くなって毛量がない。でも逆転の発想で35回も抗がん剤やってまだちゃんと髪の毛があるんだから感謝くらいしておくか。食欲はあるので、体重が増えていて、訪問医の先生には「体重を増やさないように管理してという患者は佐野さんだけ」と言われる始末(笑)「先のことを考えない」ことが私の生きる極意なので、好きなものを食べて、好きな事をして、ストレスを出来るだけ減少して過ごそうっと。1日中ベッドの上なんだからそれしかないよね。(佐野邦彦)
GEORGE FEST:ジョージ・ハリスン・トリビュート・コンサート(完全生産限定盤)(Blu-ray Disc付)

2016年2月19日金曜日

amazonのみ発売のBeach Boys: 『Live At The Fillmore East 1971』(Iconography/ICONO54)はブートなので注意


昨年末、amazonのみのダウンロード販売商品としてビーチ・ボーイズのライブ4種を紹介したが、どれも音質がブートレグと書いたばかり。グループの許諾など得ていないのは明白だが、あろうものかダウンロード販売の時『Fillmore East, New York, June 27th, 1971』(Doxy)のタイトルで出していたもとと同一の思われるこのCDを購入してみた。ダウンロード版では特に最後の「It’s About Time」が、ほぼリード・ヴォーカルが聴こえないという致命的なミキシング状況だったので、CD版では少しは改善したかと淡い期待をかけたが、まったく同じ音質だった。来月には1985年のライブを『Ringing The Liberty Bell』のタイトルで出すようで、これもまったくダウンロード版をただCDにしただけのブート、注意しよう。(佐野邦彦)
Live At The Fillmore East 1971

2016年2月13日土曜日

小林しの:『Looking for a key』(philia records/PHA-13)

 
 ギターポップ系バンドharmony hatchの元メンバーで、女性シンガー・ソングライターの小林しのが、初のソロアルバム『Looking for a key』を2月24日にリリースする。 
 筆者が06年に共同プロデュースしたコンピレーション・アルバム『Easy living Vol.1』にも楽曲を提供していたが、10年に活動を休止しておりその動向が注目されていた。 今回のリリースを機に音楽活動を再開することは非常に喜ばしい。アルバムにはWebVANDA読者にもアプローチする、ソフトロック系の曲も収録されているのでここで紹介したい。

  小林しのは99年にharmony hatchのヴォーカリストとしてデビューし、ソングライティングも手掛けるなど中心メンバーであった。空気公団が所属したことで知られるcoa recordsより『ケーキケーキケーキ』と『苺苺苺苺』の2枚のアルバムをリリースし、02年にバンドは解散する。 その後ソロへと転身し、多くのコンピレーション・アルバムに楽曲提供するなどそのキャリアは順調であったが10年に活動を休止していた。
 それから約6年を経て、初のソロアルバムとしてリリースされたのが本作『Looking for a key』である。『~心の鍵を探して~ すべてのファンタジーポップファンに贈る14枚の地図』という副題を持つこのアルバム、思春期の少女が抱く夢想性をバックグランドにした世界観が遺憾なく発揮されている。

 トータルサウンドプロデューサー(アレンジや主な演奏含む)にthe Sweet Onionsの高口大輔を迎え、共同ソングライターには同じくthe Sweet OnionsやThe Bookmarcsで活動する近藤健太郎(アレンジ含む)をはじめ、元harmony hatchの宮腰智子、職業作詞家として多くの楽曲を手掛けている磯谷佳江などが参加している。またmelting holidaysのササキアツシがアレンジャーとして2曲に参加しているのにも注目したい。


   

 アルバムはアコーディオンをフューチャーしたシャッフルの「雨をひとさじ」からはじまる。リズム・セクションの全てを高口が演奏しており、先月リリースされたThe Pen Friend Clubのサード・アルバム収録の「街のアンサンブル」にも似たサンシャインポップが心地よく、冒頭のナンバーとして相応しい仕上がりである。 
 続く「解放区」はVOXコンチネンタル・オルガン風の音色が象徴するブリティッシュ・ビート系のポップスだ。初期のエルビス・コステロにも通じる親しみのある曲調も好感が持てる。
 そして筆者がアルバム中ベスト・トラックと挙げたいのが4曲目の「Yes, my lord」だ。イノセントな歌詞に呼応するエヴァーグリーンなサウンド、打ち込みで構築させたソフトロックの理想的な姿がここにある。アレンジと全インストルメンツはササキアツシということで納得のクオリティーだ。08年にWebVANDAで絶賛したmicrostar(マイクロスター)の「東京の空から」の世界観にも近い、一聴して心を鷲掴みにされる名曲であり、ソングライターとしての小林の高い才能を感じさせる。
 共作では宮腰が曲を提供したサイケデリックなムード「幻の森」、近藤が提供したラストの「記憶のプリズム」が出色だ。前者は中期ビートルズ、後者には大滝詠一のエッセンス(「幸せな結末」etc)が見え隠れして面白い。両曲ともサウンドプロデューサーである高口のアレンジ・センスが光っている。
 小林の声質は飯島真理(このアルバムで「夢色のスプーン」をカバーしている)にも通じる、幼さの中に艶を持ったスウィートなものでアルバムを通して幸福感に満ち溢れている。

(テキスト:ウチタカヒデ



2016年2月6日土曜日

☆Who:『The Who Sell Out(Stereo)(ハイレゾ版)』(Universal)※Download Only


遅い紹介でちょうど一年前にハイレゾ版がリリースされたフーの名盤『The Who Sell Out(Stereo)』には2曲の違いがあった。この情報は、ブリティッシュ・ロックの伝道師として右に出るものなどいない犬伏巧さんに教えていただいたものだ。いつも貴重な情報、ありがとうございます!まずボーナストラックの「Odorono(Stereo Version)」、従来216秒で曲が終わりストリングスへ移行するが、このヴァージョンはOdoronoのコーラスが入って歌のサビを239秒まで新たに聴くことができる。あと「Rael - Naive (Stereo Version)」だがDeluxe Editionでは51秒で曲が終わり、その後数秒のセリフで59秒だったが、こちらでは52秒から133秒まで、クラシカルなオルガンの演奏が入っていた。(セリフは無くなったがどうでもよい)その他の細かな違いは「JaguarStereo Version)」はDeluxe Editionに入っていた曲の終了後の短いWonderful Radio Londonのジングルは切られていた。そしてラストの「RealPt. 1 & 2/ Remake Stereo Version)」もDeluxe Editionに入っていた曲の終了後の口だけのジングルはカット。ただしどちらもどうでもいい、気にする必要のない代物である。ボーナスも含め全30曲だ。同じくMonoもハイレゾでリリースされたが、こちらに新登場はない。(佐野邦彦)
The Who Sell Out(Stereo Version)/The Who