2015年6月13日土曜日

☆Rolling Stones: 『Sticky Fingers(Super Deluxe Edition)』(ユニヴァーサル/UICY77211)☆Rolling Stones: 『From The Vault:The Marquee Club Live In 1971/The Brussels Affair 1973』(Ward/GQXS90009-12)

さて、病院から退院してきたら凄い事になっていた。分かってはいたけど、ストーンズの中でも最も好きな時代である1971年の貴重な音源と映像がてんこ盛りで届いていたからだ。この2枚のリリースが一致したのは偶然ではないだろう。そしてどちらもローリング・ストーンズの伝道師、寺田正典さんが、いつものように、例をみない長文の解説で楽しませてくれる。その背景を詳しく語るだけでなく、音源ひとつひとつに、比類なき知識で分析してくれるので、読んでいて楽しい限りだ。あの有名なエリック・クラプトンが参加した未発表の「Brown Sugar」の分析だけで5000字を軽く超えていたのだから。ではまずはArchiveシリーズの『Sticky Fingers(Super Deluxe Edition)』から紹介しよう。この盤はSuper Deluxe Edition以外は買ってはダメだ。というのもSuper...だけにディスク3として『Get Yer Leeds Lungs Out』と題された1971年のリーズ大学でのライブ13曲が入っているからだ。この中で最後に演奏された「Let It Rock」だけは当時の「Brown Sugar」の英国盤シングルに入るなど知られた音源だが、残りの12曲は初登場だ。そしてそのライブのクオリティが極めて高い!オリジナルのアルバムについては当然知っているものとして省略、ディスク2のボーナス・ディスクから。まずは冒頭に書いたエリック・クラプトンがスライドギターで参加した「Brown Sugar」だ。このイントロのリフはちょっと弾き方が違っていて、この頃のライブではこのリフが多い。ミックのヴォーカルも演奏も激しく、これはこれで非常に魅力的なテイクだ。ボビー・キーズがこのセッションに参加して吹いたサックスが気に入られ、本テイクも始め、ストーンズのセッション・マン、ライブ・メンバーとして必要欠くべからない人間になっていく。なお、米盤『Hot Rocks 1962-1971』のごく初期プレスに入っていた別ヴァージョンは、このセッションのさらに前の、ボビー・キーズの言葉のとおり、サックスが入っていないとても荒っぽいテイクだった。次の「Wild Horses(Acoustic Version)」はその名のとおりアコギとミックの歌という極めてベーシックなトラックでこれはこれで味わいがある。これまた米盤『Hot Rocks 1962-1971』のごく初期プレスに入っていたが、寺田さんの指摘どおり、間奏のピアノが僅かにしか聴こえないミックスだった。「Can't Hear Me KnockingAlternate Version)」は、オリジナル曲のパーカッション以降の長いアドリブパート(別の録音を継ぎ足したもの)がない、初期ヴァージョンだが、ミックだけの歌のあとに2分のキースのアドリブギターが聴けるのでなかなかよい。「Bitch(Extended Version)」はカッコいい。2分も長くこの名曲を楽しめるだけでなく、ミックのヴォーカルもワイルドだし、キースはアドリブを自由に弾きまくる。最後のHey Hey Heyのコーラスはまだ作られていない。「Dead Flowers(Alternate Version)」はこの時期のライヴ・ヴァージョンを彷彿とするミック・テイラーのカントリー・ギターが光る。(レコードではコード弾き)そして次の5曲が素晴らしい。同じく1971年、ストーンズが最高98%という当時のイギリスの超高額納税を避けるためにフランスに移住するGoodbye Britainツアーの最終日のラウンドハウスでのライブから5曲セレクト。素晴らしい音質で、スタジオ・ライブを聴いているかのよう。選曲が「Live With Me」「Stray Cat Blues」「Love In Vain」「Midnight Rambler」「Honky Tonk Women」の5曲が収められたが、ボビー・キーズ&ジム・プライスのホーン・セクション、ニッキ―・ホプキンスのキーボード、そして何と言ってもミック・テイラーのギターが入ったストーンズのサウンドは最強だ。個人的にはこのメンバーのサンサンブルが一番好きだ。ついでに見た目もカッコいい。特にキースとミック・テイラーのギター・アンサンブルが最高で、そこにさらにホーン・セクションが強力なエンジンとなって補強するんだからため息をつくしかない。ミックのヴォーカルもよりワイルドになって迫力を増している。チャーリーとビルのリズム隊は鉄壁で、そこにニッキ―・ホプキンスとイアン・スチュワートのキーボードが支えているのだから。ディスク3の『Get Yer Leeds Lungs Out』はディスク2のラウンドハウスでのラスト・ギグの前日にリーズ大学でのライブである。Live At Leeds...といえばあのザ・フーのライブの名盤中の名盤だが、ストーンズも意識していてフーの上回るライブを狙っていたようだ。事実こうやって全13曲聴いて見ると、ザ・フーを上回るとは言わないが決して劣ることもない、まさに匹敵するライブの熱演だ。ミック・テイラーが初めてライブに参加した14か月前の『Get Yer Ya-Ya's Out』を遥かに上回る充実したライブで、その時とは「Live With Me」「Stray Cat Blues」「Midnight Rambler」「Little Queenie」「Street Fighting Man」などアレンジを変えアタックが強くなっていて魅力的なライブになっている。「Satisfaction」に至ってはあのリフもほぼ封印するというファンクな仕上がりでビックリだ。なおお馴染みのオリジナル盤の解説は犬伏巧さんの再掲である。加えて日本盤のみのオマケのアナログ・シングルだが、「Brown Sugar」は残念ながらalrightではなくyeahで終わるいつもの奴だった。さてここで1971年の超貴重映像に話を移そう。ディスクも変わる。『From The Vault:The Marquee Club Live In 1971/The Brussels Affair 1973』である。このアルバムもミック・テイラー在籍時の最強のライブと言われる19731017日にベルギーのブリュッセルで行われたライブを完全収録でカップリングにしたこの日本のみの仕様のディスクを買わないと意味がない。(ブラッセルズ・アフェアが許可されたのは日本のみ)マーキーの方は1971326日にテレビスペシャル用に録音された伝説のマーキークラブで行われたライブで、先のラウンドハウスが314日、リーズ大学が313日のライブなので全て同じ月の収録なのである!このマーキーではひともんちゃくあり、キースがトラブルを抱え収録に4時間遅れ、観客で込み合う開演直前に現れ、ここでマーキーの看板が動いて見えないと文句を付けるマーキーのオーナーに対して、キースは初期ストーンズが昔辛く当たられていた積年の恨みとばかりにそこをどかないと殴るぞとギターを振り下ろしたが当たらなかった...というような凄みのある当時の様子が寺田さんの解説で読める。まだまだあるが、なにしろこのマーキーだけで36千字を超えているのだから私ごときが書く必要などない。解説を読みながらまだ20代後半から30代に入ったばかりの若く美しいストーンズのライブをブルーレイの高画質で見て欲しい。ただカメラワークであまりにミック・テイラーが抜かれないのは残念。ボビー・キーズの方がはるかに抜かれている。最後の「Brown Sugar」あたりにやっとミック・テイラーのギターソロに気づいてカメラで追い出したって感じがした。面白いのは、収録用ということで気にいらないテイクがあると2回演奏していて、これがライブの初演だと言う「I Got The Blues」はエンディングが気に入らずもう1回、「Bitch」は最後でキースがピックを落としてしまい一瞬キースのギターが消えためこれも2回撮られていてが、放送版(前者はつなぎ合わせた)の他に、ボーナス映像でその失敗したものもそのまま全部収録されている。もっとも「Bitch」はミック・テイラーがリフを正確に刻み、キースは自由に弾いていたので最後のミスも刺して目立たず、そのまま乗りのいいテイク1がそのまま放送されている。「Brown Sugar」はここでもエリック・クラプトンが参加した時と同じ、上に跳ね上がるリフで始まる。間奏はホーンではなく、ミック・テイラーのソロ、これはこの時期のものなので楽しめる。そしてやはり「Midnight Rambler」、キースとミック・テイラーのギターの応答にミックのブルース・ハーブが切り込むこの曲はいつもハイライトになる。放送は8曲で、取り直しのボーナスの4曲(2テイクずつなので実質2曲)が入り、最後にボーナスで、BBCで放送された「Brown Sugar」のスタジオ・ライブが収められている。このテイクは演奏がオケでミックの歌だけがライブだった。そして最後はミック・テイラー最後のツアーと言ってもかまわない19731017日にフランス人のためにフランス語圏であり、フランス近郊のベルギーのブラッセルズ・アフェアで開催されたコンサートの模様を収録した『The Brussels Affair 1973』だ。移住したフランスなのにフランスでコンサートができないのはキースに麻薬の逮捕状が出ていたからで、まあご存じのとおり、この頃はトラブル続き。ボビー・キーズもドラッグに溺れ大きな交通事故を起こすなどライブから外れ、ニッキ―・ホプキンスは麻薬から逃れられないキースについての舌禍をおこしてビリー・プレストンにその座をとって変わられた。しかしこの頃人気者だったビリーはコンサートでバッキングより目立つボリュームで演奏してキースに脅されたり...とまあ枚挙にいとまがない。「キング・ビスケット・フラワーアワー」とのいきさつなどたくさん話題はあるのだが、このあたりのいきさつは寺田さんの3万3千字超えのライナーに全て書いてあるのでおわりにする。肝心なライブはCD2枚に全15曲。ミック・テイラーのギター・ワークはさらに進化していて、「無情の世界」の後半のギターソロとか聴きどころ満載。しかしなんといってもスピード全開、演奏時間12分超えながらあまりのスリリングさにあっという間に終わってしまう感覚を埋める「Midnight Rambler」は、今回の音源で最も充実したライブであることは間違いない。キースとミック・テイラーのギター同士のレスポンスは本当に凄いの一語。こんな上手いギタリストがあと1年で去ってしまうのだからもったいないが、キースとの関係でやはりロン・ウッドの方が合ったのは確か。在籍はブライアン・ジョーンズ9年、ミック・テイラー5年、そしてロン・ウッドは40年だ。最後の怒涛のようにプレイされる「Street Fighting Man」を聴いて、ああ、このライブは本当だったら日本で見られたかもしれないのに...と頭をよぎった。ストーンズの日本公演はこの1973年に予定されていたものの過去の逮捕歴でビザが下りずにキャンセルされた。自分は高校1年だったので必ず見に行った。そうしたらこの目でミック・テイラーのいたストーンズを見られたんだ...なんて夢想をしたが、これだけの音源と映像があれば今はもう十分だ。このストーンズの「ミック・テイラー祭り」。必ず両方セットで買うしかない。(佐野邦彦)

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