2015年5月31日日曜日

ウワノソラ'67:『Portrait in Rock'n'Roll』(UWAN-001)

 
 昨年7月にバンド名をタイトルにしたファースト・アルバムでインディーズ・デビューしたウワノソラから、いえもとめぐみと角谷博栄が二人組のユニット"ウワノソラ'67"として自主制作アルバム『Portrait in Rock'n'Roll』を6月10日にリリースする。
 『ウワノソラ』(14年)でもそのソングライティング・センスと洗練されたサウンドを高く評価したが、本作では角谷が敬愛する大滝詠一氏を追悼するというコンセプトの元、ナイアガラ・サウンド及びその背景となっている60、70年代サウンドを意識した内容になっているのが大きな特徴となっている。
 今回も約1ヶ月前からラフミックスとマスタリング音源を入手して聴いているが、10代にリアルタイムで『A LONG VACATION』(81年)や『EACH TIME』(84年)を夢中で聴き込んだ筆者も納得させる内容で、WebVANDA読者にも大いにお薦めできるので嬉々として紹介したい。

 ウワノソラ'67はウワノソラのメンバーの内、ヴォーカルとコーラスのいえもとめぐみとソングライティング(全曲の作詞作曲を手掛けている)とアレンジを担当するギタリスト兼コーラスの角谷博栄の男女2人によるユニットで、ストリングス及びホーン・アレンジ、エンジニアリング、プロデューサーも角谷によるものだ。
 自主制作ということでレコーディング・セッションは、奈良在住の彼らの主な活動地である関西でおこなわれ、参加ミュージシャンも『ウワノソラ』に参加したプレイヤーを確認出来る。
 基本リズム・セクションはキーボードの宮脇翔平、ドラムの鳴橋大地、ベースには熊代崇人と深町仰が各参加しており、深町は全曲でコーラス、一部のストリングス・アレンジ(共同)も担当しているので角谷のよき理解者と思われる。

では主な収録曲の解説をしていこう。
 リードトラックの「シェリーに首ったけ」は、ずばり「君は天然色」(つまりフィレス・サウンドからThe Pixies Threeの「Cold Cold Winter」やロイ・ウッド(ウィザード)の「See My Baby Jive」等)を意識したアップテンポのシャッフルだが、バックビートにアクセントを持つヴァースのベースラインは「青空のように」(『NIAGARA CALENDAR』収録・77年)からの影響を感じさせる。
 いえもとのヴォーカルは難しいラインのピッチも安定していて、全体的にチャーミングな雰囲気で非常に魅力的だ。
 ホーンはテナー・サックスが2管、バリトンとアルト、トロンボーンが各1管の編成で、ドラムとピアノはダブル、エレキとアコースティック・ギター、12弦ギターを20本分、スレイベルとタンバリンは20回のオーバーダビングを施し、カスタネットは5人!でプレイしているというから恐れ入谷の鬼子母神である。




 続く「年上ボーイフレンド」は「恋するカレン」(サーチャーズ(アーサー・アレキサンダーVerよりこちら)の「Where have you been all my life」やウォーカー・ブラザーズ(フランキー・ヴァリVerよりこちら)の「The Sun Ain't Gonna Shine Anymore」等)タイプのバラードで、「シェリーに首ったけ」と共にこのアルバムを象徴するシングル・カット候補の曲といえる。
 セカンド・ヴァース頭のエレキのリフや本編のリズム感はフォー・シーズンズ・サウンドからの影響を感じさせるし、サビのメロディーライン(前出の「The Sun Ain't Gonna Shine Anymore」や「銀色のジェット」のそれを彷彿とさせる)に呼応するグロッケンのオブリとティンパニーのアクセントなどアレンジ的にまったく隙がない。秋の潮風のように漂う、印象的なストリングスは角谷と深町のアレンジによるものだ。また歌詞の世界には松本隆氏作の「雨のウェンズデイ」や安部恭弘の「Rainy Day Girl」(84年)等の影響が垣間見える。
 とにかくバリー・マン&シンシア・ウェルやボブ・クリュー&ボブ・ゴーディオのソングライティングにも負けていない、色褪せない名曲であることは間違いない。




 ソウル・ミュージックからのエッセンスが希薄な本アルバムでは珍しく、カーティス・メイフィールド風のギターリフのイントロから導かれる「雨降る部屋で」は、ビーチ・ボーイズのハチロク・バラードを心から愛する角谷が「Your Summer Dream」を意識して作ったという。メロディーラインにはロージー&オリジナルズの「Angel Baby」(フィル・スペクターのプロデュースによりジョン・レノンもカバーしている)のそれを感じさせるが、コーラス・パートはヴェロニカの「I'm So Young」とライチャス・ブラザーズ「( I Love You ) For Sentimental Reasons」(有名なスタンダード・ナンバーでもある)を意識したという。
 サビに絡む美しい対位法のストリングス(アレンジ:角谷&深町)からアルト・ソロに雪崩れ込む時ピークとなり、一流ジャズ・サックス奏者である横山貴生による見事なプレイに耳を奪われる。
 ユーミンの「やさしさに包まれたなら」に通じる「葉っぱのように」は、角谷が高校生の時に作った曲でウワノソラの未発表ナンバーとしてストックされていたらしい。前編パートは2ビートのカントリー・スタイルのアレンジだが、後半のインストルメンタル・ブリッジを経由したパートはビーチ・ボーイズの「Sloop John B」風だ。ここでは角谷本人によるマリンバのオブリが聴ける。またこの曲ではアルバム中唯一角谷がベースをプレイしている。
 マイナーキーの「Station No.2」は、「さらばシベリア鉄道」(ジョー・ミークが手掛けたジョン・レイトンの「Johnny Remember Me」等)や「バチェラー・ガール」(ブライアン・ハイランドの「Stay And Love Me All Summer」等)をイメージすることは容易いだろうが、「恋するドレス」で披露していた角谷らしいメロディー展開が素晴らしい。いえもとがファルセットで歌うサビのオリエンタルなラインは非常に独特だが、真部脩一在籍時曲作りの中心だった頃の相対性理論にも通じる。同パートでコーラスをバックに横山がバリトン・サックスのソロを披露している。
 また音圧を誇るツイン・ドラムは鳴橋大地と池内渓次郎によるもので、全編で聴けるカスタネットは50回!ダビングされているという。
 「レモンビーチへようこそ」は、山下達郎の「土曜日の恋人」(ゲイリー・ルイス&ザ・プレイボーイズの「We'll Work It Out」、ボビー・ヴィーの「The Night Has A Thousand Eyes」等)に影響されたらしき60年代ポップス・ファンを唸らせる曲で、このアルバムのラストに相応しく、ビーチ・ボーイズの「Wendy」や「Girls On The Beach」(コーダのコーラス)のエッセンスもちりばめられていそうだ。イントロの波の音に忍ばせたオルゴールのメロディーを注意して聴いて欲しいが、ナイアガラーなら気付く洒落た演出である。

 とにかくアルバム収録の全曲を解説したい程なのだが、これから聴く方の楽しみを阻害する可能性もあるので曲毎の解説はこれまでにしておく。
因みに今回不参加とアナウンスされている桶田知道(『ウワノソラ』から7インチでシングル・カットされた「摩天楼」の作者)だが、セカンドライン・ファンクの「Hey×3 Blue×3」(イントロに山下達郎の「ジャングル・スウィング」風フレーズが聴ける)のファースト・ヴァースで密かにヴォーカルを取っており、ドクター・ジョンよろしく渋い声を聴かせている。現在彼はソロ・アルバムを制作中でそちらも楽しみである。

 追悼という崇高な思いだけでこれだけのサウンドを再現することはなかなか困難である。しかも若干24、5歳の若者達によってクリエイトされている点は特筆すべきことだ。
 何より「大滝死すとも ナイアガラ・サウンドは永遠なり」という言葉が浮かんで感動してしまった。
 自主制作アルバムということで初回プレス枚数は非常に少ないので、興味を持った読者の方は下記のリンクから早急に予約して欲しい。
 繰り返しになるが、本作は大滝詠一ファンや多くのポップス・ファンなら聴くべきアルバムであると保証するので必ず入手して聴くべきだ。

ウワノソラ'67 HP・オンラインストア

(ウチタカヒデ)




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