2014年11月24日月曜日

Kerry Chater:『Part Time Love』『Love on a Shoestring』(Real Gone Music/RGM- 0273, 0274)

 

60年代後半にゲイリー・パケット&ユニオン・ギャップのベーシストとして活動し、その後ソングライターとして成功を収めたケリー・チェイター。彼が70年代後半にワーナーからリリースした2枚のソロ・アルバムが米Real Gone Musicからリイシューされた。
ファーストの『Part Time Love』(77年)は世界初CD化で、セカンドの『Love on a Shoestring』(邦題『ちぎれそうな恋』 78年)は2000年に日本国内で一度リイシューされたが、現在廃盤で中古市場ではプレミア価格で取引されていただけに、70年代ポップス~ブルー・アイド・ソウル&AORファンはこの機会に入手すべきなので紹介したい。

まずゲイリー・パケット&ユニオン・ギャップについて少し触れておこう。
リーダーでヴォーカル兼ギタリストのパケットは42年ミネソタ生まれで、カリフォルニア州サンディエゴのカレッジ在学中の66年にThe Outcastsなるバンドを結成し、翌67年に発展して組まれたのがユニオン・ギャップである。
45年カナダはバンクーバー生まれのケリー・チェイターはThe Outcasts時代からのメンバーで、67年全米4位のヒットとなったシングルをタイトル名にしたファースト・アルバム『Woman, Woman』(68年)ではベーシストの他、ソングライターとして2曲を提供(1曲はキーボードのゲーリー・ウィッテムと共作)している。



同年のビートルズのSgt. Pepper'sからヒントを得たと思しき、南北戦争時代のアーミー・ルック(一部のGSグループも彼らを参考にしたのかも知れない)という特異なコスチュームも相まって、「Woman, Woman」の後も「Young Girl」 (68年・全米2位)、「Lady Willpower」(68年・同2位)、「Over You」(68年・同7位)、「This Girl Is a Woman Now」(69年・同9位)と、結成2年の間に5曲のベスト10ヒットを放った。この内3曲のソングライティングも手掛けたプロデューサーのジェリー・ファラーの手腕は大きい。全米1位のヒットとなったリッキー・ネルスンの「Travelin' Man」(61年)の作者でもある彼は、シンガーソングライターとしてChallenge Recordsで様々なタイプの楽曲をリリースするなど時代を先行した才人だった。チェイターはそんなファラーに認められ、サード・アルバム『Incredible』(68年)では名匠アル・キャプスと分担してアレンジを手掛けており、バンド内クリエイターとしてメキメキ成長していたらしい。

しかし69年プロデューサーがファラーからディック・グラッサーへとチェンジしたのが災いして、同年12月にリリースされた4作目の『The New Gary Puckett and the Union Gap Album』がユニオン・ギャップの事実上のラスト・アルバムとなり、翌70年にチェイターはゲーリー・ウィッテムと共にバンドを脱退してしまう。その後ブロードウェイ・ミュージカル、映画やテレビの劇伴作編曲家として名高いレーマン・エンジェルが設立した"BMI Lehman Engel Musical Theater Workshop"にて5年間学び、リリースされたのが今回リイシューされた『Part Time Love』(77年)と『Love on a Shoestring』(78年)である。
ソングライターとしてのチェイターは、ポップ・ロックバンドのエアウェーブズの「So Hard Livin' Without You」(78年)をはじめ、カントリー系女性シンガーのジェニファー・ウォーンズの「I Know a Heartache When I See On」(79年)や同じくタニヤ・タッカーの「Love Knows We Tried」(80年)などのヒット曲を数々提供したが、WebVANDA読者やポップス・ファンに最も知られるのは、カーペンターズのカレン生前最後のアルバム『Made in America』(81年)に収録されシングル・カットされた「(Want You) Back in My Life Again」かも知れない。



さて本題のチェイターのソロ・アルバムであるが、両作品ともスティーヴ・ヴァリとマイケル・オマーティンアンの共同プロデュースで、この時期スティーリー・ダンの『Katy Lied』(75年)と『Aja』(77年)、ボズ・スキャッグスの『Down Two Then Left』(77年)などブルー・アイド・ソウル~AORの傑作といわれるアルバムに参加し、キーボード・プレイヤーとしてばかりではなくアレンジングでも貢献を果たしたオマーティンアンは、後年プロデューサーとしてクリストファー・クロスのファースト・アルバム『Christopher Cross』(79年)でグラミーのアルバム・オブ・ザ・イヤーに輝いている。
因みにファーストの『Part Time Love』には上記作品にも参加しているドラマーのジェフ・ポーカロ、ベーシストのデヴィッド・ハンゲイトという後のTOTO組、ギタリストのディーン・パークス、パーカッショニストのヴィクター・フェルドマン(ジャズ・プレイヤーとしても高名である)などが参加している。
オマーティンアン夫妻のソングライティングによるタイトル曲の「Part Time Love」はこの時期のボズ・サウンドに通じるが、ここではポーカロのドラミングにシンセベースという珍しい組み合わせのリズム・セクションに、チャック・フィンドレー、ジム・ホーン、スティーヴ・ダグラス!という名手達がプレイするホーン・セクションが新鮮だ。
チェイターのヴォーカルはアルバム全編を通して控えめながら味わい深い声を聴かせてくれるが、バラードの「No Love On The Black Keys」や「Here Comes The Rain」でより発揮される。
特に74年にゲイル・マッコーミックに提供後、B・J・トーマスやケニー・ロジャースなど数多くのシンガーに取り上げられた名バラード「Even A Fool Would Let Go」のセルフ・カバーは、ヴォーカルとサウンド共に非常に完成度が高い。



翌年の『Love on a Shoestring』にはポーカロやハンゲイトのような手練なスター・プレイヤーの参加こそないが、『On The Waters』(70年)からブレッドに参加したドラマーのマイク・ボッツと、
79年にモータウンからファンク・バンド、ドクター・ストラットとしてデビューする、ベーシストのピーター・フレイバーガーとギタリストのティム・ウェストンらが参加している。
アルバム中スローなバラードが6曲とソング・オリエンテッドだった前作に比べ、今作は参加ミュージシャンのカラーもあり、バネのあるリズムを持ったブルー・アイド・ソウル系の曲が際立っている。冒頭の「Well On My Way To Loving You」や「No Room In My Life (For Anyone Else But You)」など聴くと、オマーティンアンのアレンジと人選は間違っていなかった。
アルバム中筆者が最も好む「Leave Well Enough Alone」は、面白いことに同年レオ・セイヤーが『Thunder In My Heart』で取り上げており、こちらのリズム隊はポーカロとハンゲイトという逆転現象で、同アルバムの他曲で参加しているオマーティンアンのプレイこそないが、この曲をチェイターと共作しているトム・スノウがピアノとシンセサイザーで参加している。またセイヤー自身のプレイによるハーモニカが入るパートなどは、後のドナルド・フェイゲンの「New Frontier」(『The Nightfly』収録・82年)を彷彿させる。
いずれにしても手練プレイヤーによるシャープなセイヤー・ヴァージョンより、独特なシンコペーションのマジックが面白いチェイターのセルフ・ヴァージョンをお勧めする。



他にもイントロが後のポール・マッカートニー&ウイングスの「Arrow Through Me」(『Back To The Egg』収録・79年)を彷彿させる 「Ain't Nothin' For A Heartache」や、79年にシングル(アルバム『Make Your Move』にも収録・80年)としてキャプテン&テニールが取り上げたAORバラードの「Love On A Shoestring」など聴きどころが多い。
やはりチェイターの魅力はメロディアスなバラードにあるため両作品とも聴いて欲しいが、強いて選ぶとなると『Love on a Shoestring』になるので予算に合わせて入手して欲しい。
(ウチタカヒデ)


2014年11月23日日曜日

☆Barry Mann:『Barry Mann』(Vivid Sound/VSCD2388)


これは価値あるリイシューだ。バリー・マンはプロ最高峰の作曲家だが、その魅力が最も伝わるのはシンガー・ソングライターとして出した3枚のアルバムであり、特に1975年にRCAイクイノックスからリリースしたサード・ソロ『Survivor』を最高峰として一押ししてきた。このアルバムはビーチ・ボーイズを離れていたブルース・ジョンストンが盟友テリー・メルチャーと作ったイクイノックスのプロダクションでリリースしたアルバムで、カリフォルニア・ミュージックからカリフォリニアなど、ブルースが最もクリエイティヴな時期のワークスだったので、力強く渋みのあるバリー・マンの歌声、ドラマティックなメロディ・ラインに、ブルース達の繊細で緻密なプロダクションが施され至高の1枚に仕上がった。このアルバムはシングルのみの曲やアルバムが2種類あって選曲が違ったが、それらとアリスタのシングルまで(「Jennifer」が嬉しい)収録されたCDが出て、またもう1枚の傑作1971年のセカンド・ソロ『Lay It All Out』もシングル曲2曲を入れて(ただし「Carry Me Home」は中間の上昇部が長い別ヴァージョンだったが)リリースされ、残るは1980にカサブランカからリリースされたこの4枚目のソロ『Barry Mann』だけが残されていた。今回のリリースで、シンガー・ソングライター、バリー・マン黄金時代の3枚のソロ・アルバムが全てCD化されたことになる。全て日本のみのCD化で、高く評価したい。さて、この4枚目、出来はいいのだが、前の2枚が素晴らし過ぎたので比較するとちょっと見劣りするのは事実。まあ比較する相手が悪いのだが...
個人的なお気に入りは「Don't Know Much」と「In My Own Way」。前者はリンダ・ロンシュタットとアーロン・ネヴィルのデュオで全米2位まで上がった大ヒット曲、後者は洒落たバラードだが、シンプルな演奏の中に光るホーンやシンセのアレンジはどちらもフリー・デザインのクリス・デドリック。ヒットには縁遠かったクリスだが、ちゃんとバリー・マンのお眼鏡にはかかっている。いい仕事だ。B.J.トーマスが歌った「We're Over」も落ち着いた静かなバラードで、なかなかいい。ブリル・ビルディング時代の盟友、キャロル・キングと歌もピアノも共演した「You're The Only One」は、アップテンポで2人のエモーショナルなハーモニーが楽しめ、曲の出来よりも、この2人の共演というだけでも満足。2人のデュオはもう1曲ある。これでバリー・マンのソロでみんなに聴いてもらいたいのは同時期のワーナーのシングル「Almost Gone」と、セプターからのシングル「Feelings」、そしてキャピトルからの「I Just Can't Help Believing」。あとキャピトルのシングルでは「She Is Today」と「Angelica」あたりもCD化して欲しいところ。歌手バリー・マン卒業後のシンガーソングライター・バリー・マンは、ヒットがほぼないだけに、シングルごとレーベルが変わる感が強いので、残りはコンピに入れてもらうしかないのかな。しかしCDが売れないこの時代、昔のようなヒットしなかった曲でも選曲してくれたコンピなどもう出ないかもしれない。レーベルがカタログを順に配信してくれる時代は十分想像できるので、そちらに期待した方がいいのかも。(佐野邦彦)

 





 

2014年11月21日金曜日

☆John Andrews Tartaglia:『Tartaglian Theorem』(ユニヴァーサル/ UICY-76754)


このCDはユニバーサルミュージックの「Soft Rock Best Collection 1000」として50タイトルまとめてリリースされものの1枚だ。ただし私のようにソフト・ロック系を昔からコレクションしている人には全て不要。だから初CD化だからという理由で表記のこの1枚だけを紹介しておくことにした。1080円だから初めて聴く人には有難いシリーズだが、企画自体は超イージー。このために編集した盤はなく、アルバムそのまんまのリリースか、単独盤でないものはかつてリリースした企画盤をそのまま出しただけの値段相応のCDだ。(企画盤のClassicsⅣやKeithはこのシリーズのものがベスト)持っていない人と買い逃した人だけに必要だが、単独盤の中には曲が少なすぎ、1080円でも損するものがあるのでその注意盤だけ5枚、後半に挙げておこう。もちろん現在、アマゾンで曲数がはるかに多い盤が買えるものだけを確認したのでご心配なく。
さて、このアルバムは1968年にCapitolからリリースされたアルバムで、アレンジャー/プロデューサーで知られるタータグリアのソロ作品。オーケストラを指揮し、1曲だけ歌のカバーアルバムで、ビートルズの「Good Night」「I Am The Walrus」や「Wichita Lineman」「Light My Fire」「America」など有名曲のカバーが並ぶが、必要なのはただ1曲、ロジャー・二コルズ書下ろしの「Poto Flavus」。勇壮で複雑な構成を持つこの曲は、是非聴いておくべき1曲だ。後のカバーはSpanky & Our Gangの「Like To Get To Know You-Give A Damn」ぐらいがまあいい程度で、「Good Night」に至ってはハミングのパートのメロディがカットされていて超ガッカリ。昔『Mondo For Flower Age』というコンピCDに「Poto Flavus」が入っていたので、その盤を持っている人は余裕があればといった所。
さて絶対買うと損なのは

    Peppermint Rainbow...ペパーミント・レインボーは名曲が多いのだが、その名曲はシングル曲に限定されるので、アルバムのみ復刻のこの盤では名曲の大半が入っていない。同名のRev-Ola盤に比べ10曲も少なく、このグループのハイライトとも言えるニール・セダカ作の「Good Morning Means Goodbye」、ポール・レカ作の「You're The Sound Of Love」と「Don't Love Me Unless It's Forever」が聴けないので、1080円でも価値なし。

    Roger Nichols & The Small Circle Of Friends...ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズのこのアルバムは30数年前から数限りなく復刻され、ある時期からはこのグループのハイライトのシングルオンリーの超名曲「The Drifter」や、「Let's Ride」「The Trust」、ロジャー・ニコルス・トリオ時代の「Love Song Love Song」「Our Day Will Come」は必ず入っていたのにそれまでもカットされていて驚いた。せめてこの5曲でも入っていれば1080円盤でも評価ができたのにこれでは価値ゼロ。同じユニヴァーサルから2年前に紙ジャケでステレオとモノラルのどちらも入れた24曲多い2枚組盤を買おう。

    Critters...クリッターズのこの盤はアマゾンで買えるNow Sounds盤の『Younger Girl: The Complete Kapp And Musicor Recordings』に比べ、Kapp前のMusicor音源5曲がなく、また「He'll Make You Cry」はまったく違うアルバムとシングルの両方のヴァージョンが入っているNow Sounds盤に比べ、片方のみ。要注意。

    Parade...Now Soundsからリリースされている『Sunshine Girl:Complete Recordings』にはデモやスモーキー・ロバーズなどのソロ、ロジャー・二コルズ・トリオで録音された曲など9曲多いのでこっちを買うべき。これもアマゾンで買える。

    Cowsills...Now Soundsからリリースされている同名のアルバムにはこのアルバム以前のシングルなど網羅した『The Cowsills Plus The Lincoln Park Zoo album』から6曲プラスシングルヴァージョン2曲が入っているので絶対お得。蛇足だがRazor & Tieから出て、日本でも帯付日本盤で出たものには「Love American Style」と「The Impossible Years」というテレビ用の音源が入っていたが、こちらは入手困難だ。

後は、ベスト盤仕様のJay & The TechniquesRPMリリースの『Baby Make Your Own Sweet Music: The Very Best of』の方が8曲多いが、ユニヴァーサル盤で十分。White Plainsはセカンド・アルバムと後半のシングルがまったくCD化されないが、もう20数年前から出ているこの定番ベストにいい曲はほぼ集中しているので十分だろう。最後にアマゾンで中古盤では変えるが、Spanky & Our GangHip-O-Selectの『The Complete Mercury Recordings』、Cass Elliotも同じくHip-O-Selectの『Solo Sessions 1969-1971』がはるかにお得なので、余裕があったらどうぞ。(佐野邦彦)

 



 

2014年11月10日月曜日

☆宮崎駿監督、日本人2人目のアカデミー名誉賞受賞!


宮崎駿監督が日本人2人目のアカデミー名誉賞を受賞した。1人目の受賞者は黒澤明。宮崎駿は黒澤明と肩を並べたわけで、実写、アニメーションのそれぞれ頂点に立ったこの2人の受賞に誰も異論はあるまい。ただし残念ながらこの2人に続く才能は、現在の日本には誰もいない。みな小さな自分の世界を構築するような監督ばかりで、この2人のようなダイナミズム溢れる作品を作れる人材はいないのだ。他の監督には「想像力」が決定的に欠けている。自分が宮崎作品に出会ったのは1976年に池袋の映画館で見た「太陽の王子ホルスの大冒険」だった。東映動画に入社してまだ日がたっていない新人の宮崎駿が、親友である高畑勲が初監督、大塚康生が初作画監督を任されたこの作品で、映画のイメージをストーリーボードにして次々と描きあげ周囲を圧倒、「画面設計」という特別のクレジットをされる。この作品では作品の核である悪魔の妹と信じ込まされているヒルダという少女の揺れ動く心を、ほんのわずかな表情の変化で描きわけた森康二の奇跡のアニメートもあって、アニメーションとはこれだけの世界を作ることができるのかと衝撃を受け、自分でミニコミを作る原動力になった。それから30数年、形は変わったけどミニコミを作り続けるのだから人生を変えた映画といって間違いない。
自分にとって人生を変えてくれたのはアニメーションが「ホルス」、マンガは手塚治虫の「W3」、音楽は最初に買ったビートルズのレコード(「抱きしめたい」が入ったコンパクト盤)だった。


宮崎駿は続く長編「長靴をはいた猫」でも数々のギャグの大半のアイデアを描きあげ、森康二は宮崎駿の出現に「諸君、脱帽したまえ」という感じだったと述懐している。写真は自分が1982年にそのミニコミでインタビューした時のもの。(左から宮崎駿氏、マンガ家の高橋葉介氏、佐野、演出家の岩本保雄氏)宮崎駿はこの頃気難しいと言われていて、その前にインタビューした森康二、大塚康生、両氏に頼んでも尻込みされ、ええい、ままよと、その頃宮崎駿がいた制作会社に直接「佐野と申しますが、宮崎さんお願いします」とさも知り合いのように電話をして、すぐに取り次いでくれたので、そこで「はじめまして。私は...」と挨拶、インタビューをお願いしたら快く受けていただいたという今考えると冷や汗ものの図々しさで実現できた。この頃、制作していたシャーロック・ホームズ(2年後に「名探偵ホームズ」としてやっと放映)の権利関係がクリアにならず、せっかく作ったアニメーションが塩漬けになっていた。「世界の宮崎駿」の作品があわやオクラ入りなんて、今では信じられないだろうが、そんな時期が宮崎駿にもあったのだ。そのインタビューの中で心に残った部分を紹介しておこう。「こういう時期に一番大事なことは、風刺したりなんかすることじゃないんですね。一番大事なことは何かっていうことを...。つまり子供に向けて作るんだったら根源になるものは何かっていう...。何が美しいのか、何がすばらしいのか、何が楽しいのか...それが一番大事だっていうふうに。どれほどこの世相は暗くて、お前ら学校で飼育され、管理されたんだから反乱して立ち上がれ、なんてアピールを送ったところでね、それはうまくいって利用されるだけの話で、言い訳のために使われるだけでね。そうじゃないだろうと思うんですね。」「本当の冒険物語っての凄く難しいんですね。今、ますます難しくなっている。世界の果てに行ったら地球の裏側があるだけじゃないっていうかっていうね、受け手の精神の構造の中に荒野が無いっていう...。だけどそれはこの世の中が平和だった事にも関係あるって思うんですね。あらゆる情報が、受けきれないくらい流れ込んできてる。で、だからみんな分かったような気になっちゃう。テレビの疑似体験で、なんかもう、女と別れた経験も何度もあるような気になってくるしね。たいていの事はたいてい...。そういうふうになってんですよ。やらないうちから。だからだいたい自分がやる事分かっているからね。あとはもう、いかにふざけて遊ぶかって事になってるだけでしょう。だけど違うはずだと僕は思うんです」「昔から伝えられた物語というのはみんな、実ははじまる前の話なんですよ。本当の人生というのはメデタシメデタシの後から始まっていくんですね。そこでオムツを洗ったりね、そういうことが実際にはじまるのは、それは皆さん、自分で体験しなさい。物語はここで終わりにします...。だけど、要するに、子供に対して、そういうふうにやっていけるもんですよという、はげましなんですね、じつは。そのままいじけてね、ずーっと今の子供のまま親の言う事をきき、まわりのいう事をきき、いじけて生きていくんじゃなくて、必ずあなたのすばらしさを見つけてくれる人がいるもんだとか、それからあなたを助けてくれる魔法使いが出てきたりするもんですよ、この世の中には...。そういうふうな、こう、メッセージが込められているもんだと思うんですよ。で、そのメッセージを受けとって、それでメデタシメデタシから実際人生始まって、だからそのあとは自分で体験しなさい、死ぬまで幸せで暮らしましたでいいんですね。だからあのーそうじゃなくなっているんですね、今の世の中ね。じゃ何故そうじゃなくなったかっていったら、たいしたこともどうせ、起こらないと思っているからなんです。どうせこんなもんだと思っているから。だからそうじゃない事を考えている人間が許せないんですね。」(佐野邦彦)


 



 

2014年11月8日土曜日

☆Rolling Stones:『From The Vault:L.A Forum(Live In 1975)(Special Box)』(Ward Records/WADZZ-163)4CD+1DVD+4LP


ローリング・ストーンズの音源発掘シリーズFrom The Vaultは、立て続けに1975年のアメリカ・ツアーの中から712日に収録された「L.A.Forum」をDVD化してくれた。そして今、amazonでも買えるCD付ヴァージョンは、先に配信販売された713日収録のCD2枚が付属されていた。そう、それを最初に買ったのだ。もちろん解説はストーンズの第一人者の寺田正典氏。また1万字をゆうに超える素晴らしい解説を読みながらDVDなどを堪能していたら、前述のとおりDVDCDは収録日が違い、712日のCD(2)は日本のWard Recordsからのスペシャル・ボックス『From The Vault:L.A Forum(Live In 1975)Special Box)』(1000セット限定)しか入っていないと書いてあるではないか。こりゃまずい!と注文してやっと届いたのが今日のため、紹介が遅くなってしまった。またまた日本のみのリリースでファンには嬉しいのだが、713日のアナログを完全版で入れたのでプラスLP4枚。さらにTシャツ2種類(サイズ選択)にメモラビリアで厚さ数センチの分厚いLPサイズのボックスに。さらに1975年の原寸大復刻ツアーパンフが付いて、送料を入れると22000円超...。音源と映像だけが欲しい音源派の自分としてはLPTシャツ、パンフなどは全て要らないのに...。またこのデカ箱、どこにしまえばいいいのかと頭を悩ませる。2万円超えの高額商品なのに送料700
円が別というのも、「○○円以上は送料無料」というのが当たり前の現在としては、なんだかケチくさい気がしたのも確か。まあ価格に乗せこむかだけのことなので正直っていえば正直だが。さて内容に移ろう。
本作はDVDのみでBlu-rayはない。というのは画質的にBlu-rayにまでする必然性がないということで賢明だ。画質は悪くないんだけどね。ミック・ジャガーはバッチリとメイクして、時代を感じる。最初はジャケットを着ているキースが若い!この公演は、ミック・テイラーが脱退しロン・ウッドが加入した最初のライブで、お披露目でもあった。寺田さんの解説では24人の候補がいて、その中からロンになったのであり、候補の中にはジェフ・ベックやスティーブ・マリオット、ピーター・フランプトン、レズリー・ウェストなどそうそうたる面子が並ぶが、シャドウズのハンク・マーヴィンはいたのには笑った。オープニングBGMは龍の舞が会場をうごめく「庶民のファンファーレ」からスタート、メンバーは巨大な花びらを模したピラミッドのような「ロータス・フラワー・ステージ」が5枚にゆっくりと開き、その中からミックが現れるというど派手な演出。エンターテインメントを意識したストーンズはあきらかに「昔」とは違っていて、未来を見据えていた。全21曲(メドレー含む)にバッキングに参加したビリー・プレストンのソロが2曲、中間に入った計23曲の仕様。ビリー・プレストンはこの時代に大ヒットを連発していたので、特別扱いだった。21曲中、本作だけでCD化されたライブ・ナンバーは「Ain't Too Proud To Peg」「Fingerprint File」「Rip This Joint」の3曲。全体的には「If You Can't Rock Me」などこの当時の最新盤『It's Only Rock'n' Roll』から4曲入っているのが嬉しいところ。その前の『Goats Head Soup』から3曲、『Exile On Main Street』から4曲、『Sticky Fingers』から3...と、最新曲中心に勝負しているのがこの頃のストーンズらしくて良い。「Star Star」ではペニスを模した巨大な風船がステージから現れ、ミックがそれにまたがったりするが、有名なシーンだ。このあたりの演出も派手。「Fingerprint File」ではミックがギターを弾きながら歌うが、今では自然なこの光景も、これがライブでは初めてだった。「You Gotta Move」でのミック、キース、ロンにビリーなど5人でキースのリードギターに合わせて歌うシーンもインパクト十分だ。「Angie」では2回目の間奏でビリーがオルガンを弾くのを忘れバックのピアノだけになりミックに「Put them in later」と言われ、ちょっと可笑しい。最後の「Sympathy For The Devil」で、ラテンパーカッションが鳴り響き、タンバリンやクイーカなどを持った男女が踊りながら合流し、カーニバル状態になって終わる様は実に楽しい。あのロータス・フラワー・ステージが曲の終わりで閉じていき、最後は姿がもう見えなくなったミックの声だけが聴こえる演出がいいなあ。CDでは収録日が違うので「Angie」では無事、ビリーが間奏でオルガンを弾いており、「If You Can't Rock Me」のイントロではキースが間違えて半音低いフレットで弾くがすぐにスライドさせて正しいキーで弾く部分が逆にカッコ良く聴こえる効果を出していた。寺田さんの詳細な解説ではこういった事以外に、特に有名なブートレグ映像だった本作のブートレグタイトル「L.A.Friday」だったことに注目し、金曜日は711日だったが、収録映像は712日土曜日、配信は713日日曜日ということをミックが着ていた服の色の記録から判別していくこだわりが、実に面白い。さすが一騎当千のファンだ。ロン・ウッドが加入する前のギタリスト候補が最初はスティーブ・マリオットで、そのあとジェフ・ベック、エリック・クラプトン、ロンに絞られ、最後にキースがロンに「お前がバンドに入るんだ」「(ロンがフェイセスのメンバーだったので)何年かは誰にも言わないつもりだ」言うあたりも、有名な話だが、寺田さんの流れを追った文章で読むと生々しくていい。寺田さんの解説だけでも十分価値があるので、このボックスにまで手を出さずとも、日本盤を是非買うべき。(佐野邦彦)



st1975_box.jpg