2014年6月18日水曜日

☆Helen Reddy:『Ear Candy/We'll Sing In The Sunshine』(Raven/312)

なんと4年前、2010年のCDを紹介するなんて気がひけるが、気づいてしまったのだから仕方がない。70年代に3曲の全米ナンバーワンヒットを放ったヘレン・レディだが、この2イン1は彼女の人気が下火になってきた77年と78年のカップリングだ。肝心なのは『Ear Candy』で、この中の3曲をあのリック・ヘンが書いているのだ。みな素晴らしい曲だが、中でもシングル・カットされた「The Happy Girls」はソフト・ロックの名曲である。
リック・ヘンが活躍していたサンレイズは、マリー・ウィルソンのでっち上げグループ扱いで、長く不当な扱いを受けていたが、未発表曲も多く収められた3枚組ボックスの『The Sunrays Vintage Rays』で、リック・ヘンの書く曲の素晴らしさを知った人は多いはず。転調が見事なソロの「Girl On The Beach」(ブライアンの曲ではない)などご存じの方もいるだろう。ただリック・ヘンはブルース・ジョンストンと同じくいい曲を書くのに寡作のライターで、その「宝探し」は大変なのだが、なんと3曲もここで聴けてしまう。前述の「The Happy Girls」はサビに解放感があり、一気に引き込まれてしまう傑作。メロディは単純なのだが、適度に転調を使い、洒落た曲に仕上げている。全米57位とまずまずのヒットとなった。「Midnight Skies」は、弾むような明るく楽しいナンバーで浮き浮きしてしまう佳曲。そして「Thank You」は、しっとりと美しいバラードだが、ブリッジにひきつけられるメロディがありこれも快作。サビのアレンジがブライアン風に感じてしまうのは自分だけだろうか。このリック・ヘンの3曲のためだけでもこのCDは購入すべき。そしてリック・ヘンとは関係ないが、冒頭の「You're My World」は、マイナー調のメロディがメジャーに移ったサビで爆発的に盛り上がる素晴らしい傑作で、この曲も収穫だった。プロデューサーはキム・フォーリーで、リックが呼ばれたのも納得だ。(佐野邦彦)


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☆幻のリレーマンガ『ぬいぐるみ殺人事件』(復刊ドットコム)8月20日発売

 私、佐野はVANDAを始める前の1981年から1991年までの10年間、「漫画の手帖」というミニコミの編集人をやっていて、オールプロの漫画家・SF作家による「リレーマンガ」を企画し実現した。あえてプロット無し、作家まかせで2年半に渡り連載、終了後漫画の手帖増刊でその「ぬいぐるみ殺人事件」を昭和61年に単行本化した。もちろん自費出版。瞬時に売り切れ、今でも古本屋で、プレミア価格で売られているようだ。オールプロだが、原稿料は無し。個人的な信頼と企画の面白さに賛同して書いていただいた。後のVANDAも原稿料無しだが、商業出版と違って広告主の顔色をうかがわなくてよく、売れそうなネタも必要もないので、全てが自由、これが魅力だった。そのかわり利益を出したら申し訳ないのでトータルでは赤字で作ってきた。スポンサーを名乗り出た会社もあったがお断りしている。
この「ぬいぐるみ殺人事件」の第1回は文:新井素子/絵:ふくやまけいこ、第2回とり・みき、第3回吾妻ひでお、第4回伊東愛子、第5回中山星香、第6回高橋葉介、第7回かがみあきら、第8回早坂未紀、第9回出渕裕、第10回水縞とおる、第11回ゆうきまさみ、第12回魔夜峰央、第13回沢田翔、第14回粉味、第15回豊島U作、第16回文:火浦巧/絵:愛田真夕美、第17回しりあがり寿(敬称略)という超豪華メンバーで、この当時の大手出版社でも集められない顔ぶれだった。リレーマンガなのでこの全てが未だに単行本未収録のまま。ふくやまけいこさんの表紙、しりあがり寿さんの裏表紙も素晴らしい。話は案の定ハチャメチャになったが、しりあがり寿さんがあっと驚くエンディングで見事に終わらせてくれた。当時と同じ復刻では付加価値がないので、1987年に立教大学の学園祭で、漫画家が席を並べて目の前で漫画を合作した「ライブコミック」の「宇宙家族ロビンさん」も同時収録した。原作がしりあがり寿、表紙がスージー甘金、漫画が花輪和一、蛭子能収、根本敬、マディ上原、田中雅人(敬称略)というこれまた超豪華版。とてもマイナーな「月光」という雑誌にノンクレジットで掲載されただけでほとんど誰も知らない幻の作品である。しりあがり寿さんに「かわいい女の子が描ける人がいないから誰か紹介して」と頼まれ田中雅人さんを紹介し、取材にも行ってそのライブコミックの模様は写真入りで掲載してある。復刊ドットコムで予約すると、この復刻では外したKUMOKOさんの番外編と、しりあがり寿さん、とり・みきさんらとのプロ野球対談(しりあがりさんの「僕が阪神ファンになったのは花形満の影響があったような気がしますね。やはり努力しないにこした事がないと(笑)」は名言!)がオマケでもらえるので、さっそく予約しよう。復刊ドットコムでは多くの復刻の企画が動いており、決定しだい順次、紹介するのでお楽しみに。(佐野邦彦)
ぬいぐるみ殺人事件

2014年6月14日土曜日

☆Who:『Quadrophenia Live In London』(Universal)


2012111日から201371日まで全米からヨーロッパで行われた「Quadrohenia四重人格)ツアー」のファイナル日のライブをCD2枚で記録したライブ盤である。「Quadrophenia」全17曲をコンプリートに再現した力作ライブで、他アンコールも含め6曲、計23曲が収録されている。ただ、このライブ企画は1996年~97年にも行われていて、その模様はDVDTommy Quadrophenia Live』で見ることができる。
メンバーはピートとロジャーの他は、ギターのサポートにピートの弟のサイモン・タウンゼンド、ベースがピノ・パラディーノというお馴染みのサポート・メンバーだが、ドラムがザック・スターキーではなく、スコット・デヴォーズで行われた。ザックはこのツアーの直前のロンドン五輪のライブではドラムを叩いていて、前述の9697年の「Quadophenia」ツアーも叩いていたが、今回は不参加だった。
フーのライブは、2011年はHMV1回のみ、2010年はスーパーボウルと小児がん基金の2回とチャリティのような参加しかなかった。2009年は9回で中8回はオーストラリア&ニュージーランド公演というどさ回りだったのに比べ、この2012年から2013年のツアーは計53回、全米を中心に最後はイギリス10回に、フランス、オランダ、アイルランドを1回ずつ回った久々に行った本格的なツアーだった。だからこうやって記録しておく必要があった。その前の本格的なツアーは日本での5回も含めた2008年のもので、全米15回、イギリス30回という大規模なもの。2006年から2007年はさらに凄くて当時最新盤の『Endless Wire』を冠にしたツアーを計100回近く行っていて現役ライブ・バンドとしての座を確かなものにしている。2005年はLive 8を入れて2回のみ、2004年は初の日本公演2回を入れて19回と、フーのライブは休養の年、リハーサル程度の年、本格的ツアーの年と順繰りに回していることがわかる。もう歳だが、ポール、ストーンズ、フーはがんばっている。かつてのライバルであるキンクスはもうずっと活動停止、レイ・デービスのソロだけがポツンポツンと行われているさみしい状態に比べ、フーは現役を続けている。ちなみに調べてみると「Tommy」を冠にしたツアーは1989年の「Tommy20周年記念」以来ない。もっとも「Tommy」の曲はいくつか選んで「ミニTommy」のようなセットが頻繁に見られたので、「Tommy」全曲っていうのは意外にもない。この89年「Tommy」ツアーも前述のDVDTommy Quadrophenia Live』で見られる。(佐野邦彦)


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2014年6月1日日曜日

☆酒富デザイン「D's Talk Session」にDennyオクヤマさんとの対談が掲載されました。

10年ぶりに復刊したVANDA30号のデザイナー兼発行人であるDennyオクヤマ氏。先日、部屋の資料の整理をしていたら、一番初めにVANDAのアンケートを取ったVANDA3号のアンケートに中にオクヤマさんのハガキを見つけてビックリ。実際に交流を始めるのはもっと後なのですが、23年来のお付き合いがあったわけです。お互いビーチ・ボーイズなどが好きで、色々な音源や映像のやり取りを続けてきたオクヤマさん。デザイナーがいなくなって困っていたVANDA27号から29号までの3冊のデザインを引き受けてくださったのもオクヤマさんでした。そんな盟友のオクヤマさんより、ご自身のホームページ「酒富デザイン」に連載されているインタビュー「D's Talk Session」のお誘いをうけ、2人の音楽話を下記のサイトで読んでいただくことができます。是非、ご覧下さい。
私はこういうお誘いはよほどお世話になった方からのものでないと断っていて、音楽ライターどうしの集まりなどは常に欠席で出たことがないのですが、オクヤマさんのお誘いなら別。長くなったのでSoft Rock以降の話は、次回Part2となりました。次回予告をちょっと。私が海のものとも山のものとも分からない無名のレコードの中からこれはSoft Rock!と選び抜いていたのは、下北沢の本多劇場の中にあったレコード屋さん。有名な音楽評論家が店長をやっているような店は、その人のカラーに引っ張られオリジナリティーがなくなるので嫌で、行かないようにしていたため、このほぼ無名の店に週3くらいのペースで通って片っ端からレコード聴かせてもらっていたのですが、実はその店長さんはオクヤマさんのお兄さんのお友達だったと聴き、世界は狭い!と驚いたところでPart1はお開きになったのでした。では、「D's Talk Session 22 Part1」ご覧下さい。(佐野邦彦)