2012年6月6日水曜日

☆Beach Boys:『That's Why God Made The Radio』(EMIミュージックジャパン/TOCP71311)

どれだけ待ったことだろう。ブライアンがいるビーチ・ボーイズの、全曲新曲のアルバムは1985年の『The Beach Boys』以来なので、27年ぶりになる。
その後ブライアンは1987年から2011年まで24年間をソロで過ごしてきた。ヒリヒリするような『Brian Wilson』から始まり、ソロでのライブ・ツアー、遂には『SMiLE』と、トラウマを次々乗り越え、自身の半生を振り返った『That Lucky Old Sun』でブライアンのクリエイティビティは頂点に達した感があった。その後は余生を楽しむようなカバー・アルバム2枚。このままブライアンは隠居かな、もう70歳にもなるし...と半ばあきらめの境地になった時に降ってわいたビーチ・ボーイズ結成50周年。この最大のエポック・メーキングの年に実現したのがリユニオンだ。グラミー賞のリユニオン・ライブでブライアンを囲んでマイク、アル、ブルースが歌う姿を見て、これは夢ではないんだと思った。そして日本を含むライブ・ツアーが始まり、6月にニュー・アルバムが出ると、さらに驚くべきニュースが飛び込んでくる。アルバムから先行してYou Tubeで公開された「That's Why God Made The Radio」を聴いた時に、あまりの素晴らしさに、ビーチ・ボーイズに特に興味のない友人にまでそのURLを何人にも送りつけた。めくるめく転調、重なり合うハーモニー、アルの力強いヴォーカルは最高で、何度聴きかえしたか思い出さないほど惚れ込んでしまった。こんな曲を70歳のミュージシャンが作れるんだ。誇らしかった。そしてアルバムが手元に届いた。1曲のみマイクで残りは全てブライアンの曲。アルの曲はボツになりソロ・アルバムのボーナス・トラックに収めるしかなかった。ブルースは書こうとしない。ブライアンの意向で決まる。結果としてほぼブライアンの曲になったが、ブライアンの書いた曲を歌うのがビーチ・ボーイズだった。それでいい。そして曲はみな素晴らしい曲ばかり。ブライアンは20年以上に及ぶソロ時代でも、密かにビーチ・ボーイズ用の曲はストックしてあったと言う。ソロ時代の高いクリエイティビティは少しも下がっていない。ブライアンらしいサウンドの「Isn't It Time」はブライアン、アル、マイクのリードが交互に現れ、ジェフリー・フォスケットの、カールのようなサビにとどめを刺された。ブライアンの曲にビーチ・ボーイズのヴォーカルはやはり実に合うのだ。特にアルの声の相性がいい。曲の多くは久々にジョー・トーマスと作っているが、「The Private Life Of Bill And Sue」「Beaches In Mind」「Strange World」など、陽気で明るい曲想と、キラリと光る心惹かれるフックがあり、かつて一緒にコラボした『Imagination』を一瞬彷彿とさせる。そして「Shelter」がハイライトのひとつ。サビ以降ファルセットのリード・ヴォーカルに切りかわるが、かつてのビーチ・ボーイズを思い起こさせる流麗さで一気に引き込まれた。エンディングではユニゾンでマイクが現れ最後はマイクの声に変わる構成もいい。アルバム最後の3曲「From There To Back Again」「Pacific Coast Highway」「Summer's Gone」は情感あふれるバラードで、老境に入り、人生の終焉を見据えたその内容と合わせて感動的だ。前半の「Spring Vacation」でのみんなが再開した喜びに溢れた浮き浮き感はエンディングで切り替わり、しっとりと、余韻を引きながら終わっていく。ここで日本盤のみ、ウォルマートのみで販売された結成50周年記念のベスト盤に入っていたリユニオン・メンバーでの「Do It Again」が登場する。曲のクレジットを見た時は、全曲オリジナルのアルバムにリレコなんて...と思っていたが、あまりにしんみりとしてしまったので、逆にボーナス・トラックとして考えればこの脳天気さはいい。なお、アルバム全体のバッキングはブライアン・バンド中心で、ジェフリー・フォスケットがファルセット・パートでメンバー同等の大活躍、他スコット・ベネットやワンダーミンツのメンバーが入り、そこにジョー・トーマス人脈のメンバーが加わった。他ではマイク&ブルースのビーチ・ボーイズのバッキングを担当していたジョン・カウシルがドラムを担当、マイクの曲は古い録音なのでそこだけスコット・トッテン、エイドリアン・ベイカーの名前が見られた。メンバーの家族を避けたのはグループとして賢明だった。(佐野)