2012年4月24日火曜日

☆Glen Campbell:『Ghost On The Canvas』(Surfdog/2-528496)☆Glen Campbell:『Meet Glen Campbell』(Capitol/5099932767728)

 2012年の最優秀アルバムはもう決まった。このアルバムだ。つい先日、グレン・キャンベルは自分がアルツマイマー病であることを公表し、自ら「ファイナル・スタジオ・アルバム」と銘打った本作『Ghost On The Canvas』をリリースしたが、このアルバムがあまりに素晴らしく、病魔に侵されていながら最後の最後にグレンは最高傑作を作り上げてしまった。なんという凄いミュージシャンだろう。
このアルバムは、グレン・キャンベルというミュージシャンの人生そのものを表現しており、75歳のその歌声はますます円熟度を増し、驚くことに過去よりさらに力強く、演奏はパワフルかつ繊細、ギタリストであるグレン・キャンベルの腕もきっちり披露してくれていて、いったい彼のどこに病気が潜んでいるのか分からないほど。しかしグレンは自分の大ヒットナンバーの歌詞も忘れてしまう状態で、ライブではプロンプターが欠かせないそうで、そういう状態の中、こんな壮大なアルバムを作りあげてしまったのだ。なにしろ曲が素晴らしい。どの曲も雄大でパワフル、そしてアレンジが美しい。10曲の半数をグレンが書き、残りの5曲はPaul Westerburgやボブ・ディランの息子のJakob Dylanらが書いた全曲オリジナルのこのアルバム、曲と曲の間は情感あふれるインストルメンタルで繋ぎ、アルバム全体を見事なコンセプト・アルバムに仕上げた。自分の人生を神に感謝する歌から始まり、「自分は1000の人生を生きた、歩く道に終わりはなく、月明かりの中に奇跡と寂しい別れを見た」と歌う。スタジオ・ミュージシャンで暮らしていた彼が、ジミー・ウェッブに出会って大ヒット曲を連発、大成功を収め、アメリカを代表するミュージシャンになるが、その後80年代に入るとヒットは途絶える。それに呼応するかのように3度の離婚と酒とドラッグに溺れる日々、しかし1981年に現在の伴侶を得て立ち直る。グレンは人生を振り返る。その後の歌は、妻への感謝と永遠の愛を歌う歌が続く。最後では「自分は消え去ることはない、君の愛がそれを許さないから 君がいなければ自分はいないのだ」と、不治の病に悲観することなく人生を生きていくことを歌う。最後は長いギターソロで終わっていく。ギタリストとしてスタートしたグレンの最後を飾るに相応しいエンディングだ。こんなに感動したアルバムは本当に久しぶりだ。グレンのこれからの人生が穏やかなものであることを祈る。もう1枚、紹介しておこう。このアルバムの前作で2008年にリリースしたカバー・アルバム『Meet Glen Campbell』は、U2やジョン・レノン、ジャクソン・ブラウン、トム・ペティ、ルー・リード、ヴェルベット・アンダーグラウンドなどの曲を歌い、それぞれ見事なカバーを披露してくれるのだが、なんといってもアルバム最後の曲を聴いたら、あなたは即座にこのアルバムも買うだろう。というのは、ジョンの「Grow Old With Me」をカバーしているのだ。ジョンはこの曲を結婚式のスタンダードに...と願ってデモを録音していたのだが、この力強い感動的なグレンのカバーでジョンの思いは達成だ。人知れずにアルバムの中に埋もれているのはあまりに惜しい。涙なくしては聴けないこの超名曲のこんなに素晴らしいカバーに出会えたことを感謝したい。You Tubeなどで音を確認してこのアルバムも合せて買うべし。 最後にグレン・キャンベルはカントリーシンガーとカテゴライズされているので、どうせ古臭い音楽でもやっているのだろうと思っている人がいたら大間違い。サウンドはギター中心で、ロックのビート溢れる曲も多く、ステレオ・タイプのカントリーを想像している人はまったくその色がないので驚くに違いない。グレンはカントリーとポップの垣根を取り払ったミュージシャンであり、グレンのカントリーとは自分が生まれた故郷、アメリカの広大な大地へ寄せる愛情のことであり、音楽のスタイルではない。だからフィドルやバンジョーが鳴るカントリー・ミュージックが大の苦手の私も、グレンの曲は聴ける。是非、聴いてほしい。(佐野)


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