2011年12月25日日曜日

☆George Harrison:『Living In The Material World』(角川/DABA4111)Blue-Ray+DVD+CD

マーティン・スコセッシ監督によるジョージ・ハリスンの自伝『Living In The Material World』ブルーレイ+DVD+CDのボックス・セットを入手した。本ボックスはボックスでしか聴くことができない未発表トラック10曲が入ったCDが目当てだったのだが、この映画を見始めたらあまりの素晴らしさに最後まで、210分の長尺ながら一気に見てしまった。そして映画のラストはただもう涙、特にリンゴの涙に、人間ジョージ・ハリスンの見事な人生を知ることができた。
映画はジョージの二人の兄の証言から始まる。そして息子でイケメンのダニー。もうこの人選で目が釘付けだ。その後はポールやリンゴ、親友エリック・クラプトンらによって、輝かしいビートルズ時代のジョージが明らかになっていく。ビートルズは本当に仲が良かったんだ、家族以上の結びつきだったんだと再確認し、43年来のビートルズ・ファンとしてこのあたりは嬉しくなって見入ってしまう。パティ・ボイドやジェーン・バーキンも登場するが、彼女らの現在の姿には諸行無常を感じてしまう。あんなに美しかったのに...。特にパティの可憐さは群を抜いていたので衝撃を受けたが、考えてみれば自分も変わった。先日の忘年会で、自分のiPhoneに入れてあった入社したころの写真(27年前)を隣の人に見せたら非常に驚かれ、見て見てとそのiPhoneは会場を回って行ってしまったので、そんなに変わったのかと自分でも驚かされたばかり。パティはクラプトンの熱烈な求愛にジョージのもとを去ってしまうのだが、ジョージの人間性に今でも強く魅かれているのが伝わってくる。自分のもとを去った妻をやさしく見守り、妻を奪ってしまったクラプトンとの親交も保ち続けるジョージには、男女の愛を超えた人間の魂の崇高さを感じることができた。クラプトンは、ジョージに呼ばれ「While My Guitar Gently Weeps」でギターを弾いたとき、目の前で3人がコーラスを付け、ポールがキーボードを弾くレコーディングに参加できたことを誇らしげに語る。そしてジョージが「Let It Be」の頃、ポール主導のレコーディングに耐え切れずビートルズをいったん離れた時に、クラプトンはジョンからジョージが抜けたらかわりにビートルズに参加しないかと言われ、いったんその気になりそうになったエピソードも面白かった。
ビートルズ時代にLPではマックス2曲しか曲を提供できなかったジョージは書き溜めていた曲をソロになって一気に披露する。その時のプロデューサーであるフィル・スペクターがインタビューに登場し、ビックリ。懲役19年をくらって刑務所に収監される2009年より前に録画されたものだろうが、妙なカツラとひんむいたような目がアブなくて、危険人物であることが一見して分かってしまう。しかしこの天才のインタビューが収録できたことはこの映画の財産である。ジョージのデモを聴いたらどれも素晴らしい曲ばかりで驚かされた、ジョージはレコーディングでまったく妥協せず、スペクターをも呆れされるほど自分の求めるサウンドを追い求めていたことをスペクターが語っていた。またジョージはスペクターがミキシングした「Wah Wah」に対して気持ち悪い音だとスペクターにはっきり言っており、ジョンといいビートルズだけはさすがのスペクターも全権を持つプロデューサーとして振る舞えなかったことがわかる。1970年のこのアルバム『All Things Must Pass』とシングル「My Sweet Lord」はどちらも全米1位に輝き、ビートルズ解散後に最も輝いたのはジョンでもポールでもなく、ジョージ・ハリスンだった。今になればジョンとポールのファースト・アルバムの素晴らしさは分かるが、その当時、ビートルズの高いクオリティの曲に比べ、ジョンとポールの書く曲のクオリティは明らかにその基準以下でガッカリしていた時に、ジョージが目も覚めるような素晴らしい曲を23曲も一挙に披露してくれた。その当時を知っていた人は分かるだろうが、1970年ではジョージが希望の星だった。そして余談だが、当時の女の子(ちなみに私は中一)に圧倒的な人気があったのも、最もハンサムなジョージだった。
その後、ジョージは音楽以外に映画やエフワンなどに資金提供し、自分が気に入った人には惜しみなく資金援助をしていた。またジョージの師であるラビ・シャンカールの訴えからバングラ・デシュ救済コンサートを開き、巨額の費用をバングラ・デシュ難民のために援助した。これが世界で初めてのスーパースターによるチャリティ・ライブであり、後にボブ・ゲドルフはジョージに憧れ、ジョージに見習ってあのLIVE AIDを開いたのだった。
そんなジョージにも最後の日々が訪れる。その前にジョージは自宅に侵入した統合失調症患者に8か所もナイフで刺され、妻のオリビアがとっさに手にした火かき棒で犯人を殴りつけ、九死に一生を得た迫真のエピソードが披露される。この恐ろしい事件のあと、既にガンに侵されていたジョージは、自分の「旅立ち」の準備をしなくてはいけないと妻に話していた。そして死の2週間前、衰弱して寝たきりのジョージの病床にポールとリンゴが見舞いに向かう。その時、リンゴは娘が脳腫瘍でこの後にボストンに行かないといけないとジョージに話すと、ジョージは「一緒に行こうか?」と返事をする。リンゴは思わず天を仰ぎ、サングラスの下の涙をぬぐいながら「それがジョージの素晴らしいところさ」。もうダメだ。自分も涙が溢れてくるのを堪えきれなかった。オリビアはジョージとの最後の夏をフィジーで過ごした時に、二人で「いい夫だったかな」「私もまあまあの妻よね」「一緒に二人で歩んできたよかった」と素晴らしい会話をしたことを慈しむように語っていたが、ジョージは人生の最後を最愛の妻と子に囲まれ、愛情に包まれて旅立っていったのだ。ビートルズの別れたメンバーから愛され、別れた妻からも愛され、妻を奪った男からも愛されたジョージ。それはジョージが一時の感情に左右されず愛情を注いでいたからの裏返しでもあり、ジョージの人生は愛で包まれていたのである。
さて、最後にこの高額なボックスでしか聴けないCDの内容について紹介しよう。基本は『All Things Must Pass』のデモで「My Sweet Lord」「Run Of The Mill」「I'd Have You Anytime」「Awaiting On You All」「Behind That Locked Door」「All Things Must Pass」の6曲が収録されている。この中でギターの弾き語りは「Run Of The Mill」だけで、他の曲はドラムやベースも入っているのでより楽しめる。「My Sweet Lord」はドラムパターンがまったく違っていて興味深い。このデモをあの感動的なシングル・ヴァージョンに持っていったスペクターの手腕はやはり凄い。印象的なギターリフが荒削りながら入っている「Awaiting On You All」は明るく快調だし、「Behind That Locked Door」は既にもうスティール・ギターがフィーチャーされムードは十分、「All Things Must Pass」はエコーがない分、この曲のメッセージは強く伝わってくる。『Living In The Material World』からは「The Light That Has Lighted The World」だ。このアルバムは『All Things Must Pass』に匹敵するような名曲が多いのだが、いつも扱いが軽いのが納得できない。この曲も好きな曲のひとつで、披露されたのは弾き語りのデモ。願わくば一番好きな「Don't Let Me Wait Too Long」のデモを聴きたかった。残りは3曲で『33 1/3』からは「Woman Don't You Cry For Me」の弾き語り、『Let It Be』のブートでも聴くことができるボブ・ディランの「Mam You've Been On My Mind」の弾き語りのカバー、あとは「Let It Be Me」のデモである。この最後の曲は有名曲過ぎて使い道がよく分からない。(佐野)



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