2011年8月21日日曜日

マイクロスター:『夕暮れガール』(High Contrast/Vivid/HCR-9653)


 2008年の傑作『microstar album』から3年、microstar(マイクロスター)が9月7日に新作シングル『夕暮れガール』を7インチ・アナログでリリースする。
一足先にサンプル音源を聴かせてもらった結論からいうと、良識あるポップス・ファンなら直ぐに予約することを強くお勧めする。
前アルバム『microstar album』を21世紀型のソフトロック、ガールポップと絶賛した筆者であるが、80年代にリアルタイムで大滝詠一の「君は天然色」をサマー・アンセムとした世代にとって、そのサウンドからほとばしるエッセンスに一種のカタルシスを感じずにはいられなかった。
元ナイスミュージックのメンバーで、ソングライティングとアレンジ、主要楽器のプレイとプログラミングを担当する佐藤清喜と、ナイスミュージックやスクーデリア・エレクトロのサポート・メンバーとして活躍していた作詞とヴォーカル兼ベーシストの飯泉裕子による二人組のユニットは、ミニマムなメンバーで拘りのポップスを追求する現代のスチュワート&ガスキンと言っても過言ではない。


 

 そしてこの度リリースされる『夕暮れガール』だが、近年では流線形の「ムーンライト・イヴニング」(『ナチュラル・ウーマン』(09年)収録)にも通じる、Dr. Buzzard's Original Savannah Band(以下サバンナ・バンド)系列の40年代ジャンプ・ブルースとサルサのエッセンスを70年代のダンス・ミュージックで消化させた多幸感溢れるサウンドで、正に嬉しい裏切りとして再び筆者の心を掴んでしまった。
 四つ打ちのキックとロータムのバックビート・アクセント、サルサ特有のカリビアン・リズムでスイングするハイハットとシェイカーのドラム&パーカッションに、ラテン・グルーヴの弧を描くベース・ラインが加われば心躍らずにいられない。またハイハットとリンクするギターの刻み、フェイザーを深めに掛けたギターのリフやヴィブラフォンのオブリガードなど、サウンドのデティールに配慮した拘りは見逃せない。
 ホーン・アレンジにも少し触れておこう、ジャンプ・ブルースの祖となるビッグ・バンドのスイング・ジャズに影響されたホーン・アレンジは元来ダンス・ミュージックのためのものであるが、これにサルサのリズムや70年代ディスコ・サウンドとの融合を最初に試みたサバンナ・バンドのストーニー・ブラウダーJrとオーガスト・ダーネル(後のキッド・クレオール)は画期的な音楽発明をしたといえる。

 とにかくマイクロスターの新曲『夕暮れガール』は、深い音楽性を大衆音楽の発祥というべきダンス・ミュージックで発展させた希有な曲である。
 またカップリングの「daisy daisy」は、97年にリリースされたミニアルバム『microfreaks』収録曲を99年にリメイクした英語歌詞ヴァージョンで、ノーザン・ダンサーのガールポップスだ。サウンド的には80年代初頭の英コンパクト・オーガニゼーションのトット・テイラーが手掛けたマリ・ウィルソンにも通じる。
 7インチ・アナログということで、MP3やCD以上の周波数帯で音楽を堪能したい音質重視派からターンテーブルを武器にしているDJにはうってつけのフォーマットである。またアナログ盤のリスニングが出来ない方用にCDRが付いているのもありがたい心遣いだ。
何度言うが間違いないガールポップなので良識あるポップス・ファンは即予約しよう!
(ウチタカヒデ)


2011年8月4日木曜日

『トッド・ラングレンのスタジオ黄金狂時代』(P‐Vine BOOKs)


 昨年10月米で刊行された、トッド・ラングレンのプロデュース・ワークスを綴った初のオフィシャル・ブック『A Wizard, A True Star : TODD RUNDGREN IN THE STUDIO』(ポール・マイヤーズ著)の全訳本が出版されたので紹介したい。

 本書は68年にナッズのファースト・アルバムでレコード・アーティストとしてデビューし、その後ベアズヴィル・レコードのハウス・エンジニア及びプロデューサーとして裏方の仕事を経験したトッドが、スタジオの魔術師として開花していく姿を、本編全23章に渡り、トッド本人の他各時期に関わったアーティストやミュージシャン、エンジニアなどのべ80名を超える貴重な証言を元に編集され丁重に構成されている。翻訳を手掛けたのは、『フィル・スペクター 蘇る伝説』や『ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実』などでも知られる奥田祐士氏。

 ザ・バンドからニューヨーク・ドールズ、グランド・ファンクからXTCまでとジャンルレスに関わった数多のアルバムは、大凡一人のプロデューサー(エンジニア)が手掛けたとは思えないのであるが、本書を読む進む内に彼なりのプロデュース・センスが垣間見てくるから面白い。
 また何れのアーティストに対してもプロフェッショナルな姿勢を常に崩さず、的確にアドヴァイスし合理的に完成形へと導いていく。正に理想的なプロデューサーといえるが、ソロ・アーティストとしても一筋縄ではいかないトッドだけに、クライアントであるアーティストとの衝突も多かったようだ。
 振り返れば彼が手掛けたアルバムが転換期になったアーティストは数多い。その裏付けとして彼がどれ程優秀なプロデューサーだったかを異口同音に語られていて胸が熱くなる。
 トッドのファンは元より、ミュージシャンやエンジニアなど音楽に携わる全ての方も読むべき書であることは間違いない。
(ウチタカヒデ)


(第8章に登場するTV番組「ミッドナイト・スペシャル」
での「Hello It's Me」のパフォーマンス)