2011年4月25日月曜日

相対性理論:『正しい相対性理論』(commmons/RZCM-46842)


 昨年4月の『シンクロニシティーン』から1年、新作毎に新たな方法論を提示してくれる相対性理論が、鬼才クリエイター陣によるリミックス10曲と新曲3曲を収録したニューアルバム『正しい相対性理論』を4月27日にリリースする。
 ここでは彼らとよく比較されているお馴染みのアーティスト、フレネシさんのコメントを挟みつつ今作を紹介してみたい。

 前作『シンクロニシティーン』で集大成的サウンドを披露して一つの区切りをつけたと思われる彼らのサウンドが、今作でリミックス=再構築を施されどの様に生まれ変わるのか非常に興味深い。坂本龍一や鈴木慶一といった巨匠から海外での評価も高いCorneliusこと小山田圭吾やBuffalo Daughter、70年代末にNYのニューウェイヴ・シーンから出発し近年ではカエターノ・ヴェローゾのプロデュースでも知られるアート・リンゼイ等々国内外の鬼才10組が、これまでに発表された相対性理論の楽曲群を素材として、各々の感覚で自由に再構築している。
 まず気になるは記号化された収録曲タイトルの謎解きだが、クエッションのQとアンサーのAの間に素材となった楽曲3曲(これは企画上の縛りなのだろうか?)のタイトル頭文字、アンサーの後にリミックスしたクリエイターのグループネームかファミリーネームの頭文字を集合させたものではないだろうか。(あくまで推測であるが)

フレネシ(以下F):「チャップリンの作品の中にタイムトラベラーが映っていると話題になったことがありました。『正しい相対性理論』を聴いた直後、なぜだかその映像の問題のシーンが浮かんで、同時に2036年の未来から来たという自称タイムトラベラー、ジョン・タイター氏のことが過ぎりました。何のことかといいますと、前作との手法の違いには、つまり、受動的な暗示と能動的な暗示の違いがあるのかな、と。」

 タイトル同様にアーティスティックな感覚でリミックスを施され、難解で抽象的な作品も多い中、ポップスとして再構築されて楽しめる曲もあり筆頭に挙げたいのが、SPANK HAPPY名義の菊地成孔による「QHPMAS」だ。メインの素材(ヴォーカル・トラック)となるのは「(恋は)百年戦争」だが、原曲が持つチャイニーズ・スケールのリフを活かしながら、隠遁から明けた頃のドナルド・フェイゲン(しいて挙げれば『Kamakiriad』(93年)収録の「Snowbound」)を彷彿させるデジタルなAORにアダプトしてしまったセンスには、筆者も一聴して虜になった。
後半部の「マイハートハードピンチ」を再構築したパートも違和感なく融合している。
 嘗ての『B-2 Unit』(80年)の様なダブミックス・サウンドを期待していた坂本龍一の「QMSMAS」は、フランス印象派の流れを汲む透明感のあるアコースティック・ピアノのサウンドをバックに、理論の曲でも一際異彩を放つ「ミス・パラレルワールド」のヴォーカル・トラックをミックスさせるという対極主義的感覚が新鮮ですらある。

F:「「QHPMAS」から「QMSMAS」の流れが好きです。巨人が人間を襲うという設定の某漫画に、食べられてしまったはずの主人公が無意識に巨人を操るシーンがあるのですが、このアルバムでは操縦されているのが誰で、意識を失っているのが誰か、聴いて行くうちにますますわからなくなりそうです。」

 鈴木慶一の「QMCMAS」は昨年某音楽誌の企画でも発表されていたが、メイン素材となる「ムーンライト銀河」を大陸的でオリエンタルな10分超の大作に仕上げていて、往年のムーンライダーズ・ファンにもお勧めできる。スチャダラパーによる「QLOTAS」は、原曲の「テレ東」が持つダンス感覚を摘出して、ラグディな四つ打ちのキックとミニマルなシンセ・リフやインダストリアルなノイズによってクラブ・サウンドにリメイクし、Corneliusが手掛けた「QKMAC」は『point』(01年)にも通じる空間とエコー感覚を活かしたサウンドの中で「ミス・パラレルワールド」を再構築していたりと、彼ららしいアーティストとしての主張を出しつつ、理論の楽曲を自由に解釈しているのが非常に面白い。
 ファン注目の新曲についても触れておくべきだろう。シンプルなファンク系バンド・サウンドを基調としたトラックをバックに、やくしまるえつこのヴォーカルと独特なフロウのラップが新鮮な、アルバム冒頭の「Q/P」は理論の新境地といえる。またこういったタイプの曲では、西浦謙助のドラムと真部脩一のベースのコンビネーションがよく栄える。

F:「やくしまるさんの節回しには音階や音符の長さや音量以外の、ある規則性があるのだなと思うのですが、それを可視化するにはビジュアライザをオンにするのがよさそうですね。」



 大陸的なギターのペンタトニック・フリで始まる「Q&Q ?」は、意外にも60年代ガール・ポップス的展開を持っている。ブリッジは典型的なロックンロール・リズムで、フックのコーラス・アレンジはまるでシュレルズだ。一体誰のセンスなのだろうか?

F:「えっ、これソロじゃなくてバンドですよね?大学時代に7inchを持っていた、スーザンの「シャボン・ドール」という曲を思い出しました。記憶が朧ですが... こういう引き出しもあって驚きです。」

 前作収録の「ムーンライト銀河」にも通じるラストの「(1+1)」は、ドラム・ループにアコースティック・ギターが絡んでミニマル・リズムを形成し曲が進むほどにピースフルな情景が広がっていく。個人的には本アルバムのベストなのだが、ギターの永井聖一の曲だろうか?やくしまるのヴォーカルにも新曲中最もマッチしている感がする。

F:「成熟した大人の脳にも新しいニューロンが作られ、シナプスはさらに発達することでしょう。」

 リミックスに新曲を挟んで新境地を見せるカメレオンの様な彼らのスタイルは、常に王道を求めるポップス・ファンには奇異に映るかも知れない。しかしながら変革に変革を重ね、そこから新たに発芽した音楽こそ今聴かれるべきものではないだろうか。今回多くのコメントをもらったフレネシさんにも、今後の相対性理論に対する期待を語ってもらった。

F:「例えば「水性」と表示があったのでどうせ消せるしと安心していたずら書きをしたら本当は「油性」で取り返しの付かないことになってしまった、というような、保守的でなかなか一歩を踏み出せない人のアクセルを自己責任で踏み込ませる仕掛けをこれからも作っていって欲しいと思います。」




フレネシ・オフィシャルサイト 
「今年もアルバムをリリースする予定で新曲続々制作中です。
どんな作品になるか、私にもまだ読めていないですが数ヵ月後にはその実体が明らかになると思います。どうぞお楽しみに。」
●ライヴスケジュール
5月6日(FRI)
OPEN...18:30、START...19:00
ASTRO HALL 11th Aniversary 「PRIVATE LESSON
会場:原宿ASTRO HALL
ACT:かせきさいだぁ≡/フレネシ



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