2011年3月24日木曜日

☆大滝詠一:『A LONG VACATION(30th Edition)』(ソニー/SRCL8000-1)

数ある日本人アーティストのアルバムの中で、歴代ナンバー1と言われれば、私は間違いなくこの『ロング・バケイション』を選ぶ。

洋楽ベッタリの私の目からウロコを落としてくれたのがこのアルバムだった。大学で知り合った友人の浅川くんが、私がビーチ・ボーイズやフィル・スペクターが好きでずっと洋楽一筋で来たと言ったとき、日本人でも凄い奴がいる、このアルバムを聴いてみろと勧めてくれたのが、大滝詠一の『ロング・バケイション』と山下達郎の『スペイシー』(当時最新版は『ライド・オン・タイム』だったが、いいセンスしている)で、もう驚天動地の驚きだった。そう、今からちょうど30年前だ。こんなに凄いセンスのミュージシャンがいたなんて!メロディもサウンドも、洋楽にひけを取らないどころか、その当時流行っていた洋楽のどれよりも、この二人の作る曲の方が素晴らしかった。山下はその後もコンスタントにアルバムを発表し、高いクオリティを保ったが、大滝はこの『ロンバケ』の後作ったフル・アルバムは『イーチ・タイム』だけ。このアルバムももちろん好きだが、インパクトも含め軍配は『ロンバケ』に上がる。さて、久々にこの『ロンバケ』を聴いてみたが、やはり大滝先生、ミックスをいじっている。よりヴォーカルがくっきり浮き出て、ベースのバランスもいい。限りなく聴いたアルバムだが、何度聴いても名盤だ。惚れ惚れして聴きこんでしまった。そして2イン1だったので、期待の2枚目をトレイに載せた。『A LONG V-A-C-A-T-I-O-N TRACKS』とあり、20th  Editionと同じ、『Sing Along Vacation』と同じかなと思っていたら、なんと完全なカラオケだ!『Sing Along Vacation』のあの邪魔なリード・メロディが入っていない。嬉しくて、ずっと一緒に歌ってしまった。その後、オケだけを聴きこんだが、精緻なバックトラックがまた素晴らしい。コーラスを外してあるので、十分堪能できた。もちろん「さらばシベリア鉄道」も入っている。最後は未発表の「君は天然色」(Original Basic Track)で、よりプリミティブで迫力のあるオケを聴くことができた。(佐野)
51GagqRnWtL._SL500_AA300_.jpg



☆大滝詠一:『NIAGARA CD BOOK Ⅰ』(ソニー/SRCL7500-11)

待望のCD12枚組の『NIAGARA CD BOOK1』だ。1986年にまったく同名のアルバムがCD8枚組で出て、翌年に『NIAGARA BLACK BOOK』がCD4枚で出たので同じくCDでは12枚出ていたのだが、内容はまったく違う。
Pボックスヴァージョンの再編集ものであり、LPリリースの『NIAGARA VOX』と『NIAGARA BLACK VOX』に『NIAGARA CALENDAR』の78年ヴァージョンを入れ、『NIAGARA CM SPECIAL』を2ndから1st Editionに戻し、『NIAGARA FALL STARS』、『MORE NIAGARA FALL STARS』、『MORE MORE NIAGARA FALL STARS』を外したものというのが今回のCDボックスだ。分かりにくければ、基本的に『ロンバケ』までのオリジナル盤を、編集せず、その時のミックスで(といってもまったく同じではない。そこが大滝先生の困るところ)集めたものと言える。例えば多羅尾判内楽團はオリジナルの2枚に分かれているので、2イン1で編集されたCDの『BLACK BOOK』よりカットされた8曲が入ったが、逆にオマケで入っていた「サーフライダー」など2曲は外された。『Let's Ondo Again』も『BLACK BOOK』での『Let's Ondo Again Special』に入っていた多くの追加曲はなく、オリジナルの選曲に戻っている。まあ前者は現行の30th Editionさえ持っていれば問題なく、後者は20th Editionと同じものが収められたと言っていい。『NIAGARA CALENDAR』は78年、81年と2ヴァージョンでCDがキッチリ2枚に分けられ、CDの30th Editionのように時間切れ編集が無くなったのはいいことだ。そして前述したとおり『NIAGARA CM SPECIAL』は久々の1st Edition。かつての『CD BOOK1』とLPボックスを持っていない人への朗報はデビュー当時の音源のリメイク、リミックス、ライブが収められた『DEBUT』が嬉しいところ。ただ、『BLACK BOOK』収録の『DUBUT  SPECIAL』は入らず、音源的には他で分散して聴けるが単体では外された『DAWN IN NIAGARA』、8枚組の『CD BOOK1』に収録されていたレアリティーズ集『NIAGARA FALL STARS』がなく、特に『NIAGARA FALL STARS』は、LPボックス『NIAGARA VOX』には未CD化の『MORE...』と『MORE MORE...』まで入っていたので、こういった残されたアルバムが、この紹介したCDボックスのタイトルが『1』なので、続く『2』になるのだろう。ただ、かつてのCD8枚組『NIAGARA CD BOOK1』収録の『NIAGARA CALENDAR』はミックスが他とは違い、特に私が大好きな「Blue Valentine's Day」は'81ミックスよりバックのギターの音が大きくエコーたっぷりにフィーチャーされ最高の出来。そしてさらに違うのが吉田保ミックスのシュガーベイブの『SONGS』で、この深いエコーはもう別物と言っていいほど、現行のミックスと違うものだった。これらはCD8枚組の方でないと、依然、聴くことはできない。(佐野)


2011年3月2日水曜日

☆Orange Colored Sky:『Orange Colored Sky』(Picard Records/PIC8120142)

大好きなオレンジ・カラード・スカイのアルバムがCD化されたのは本当に朗報だった。ソフトサイケの雄と言われたユニ・レーベルの中ではダントツに好きなのがこのオレンジ・カラード・スカイ。ストロベリー・アラーム・クロックなんて目じゃない。、私は個人的な思い入れと、このCD以降の後に発売されたシングルのことについてだけ、補遺しておきたい。  オレンジ・カラード・スカイの魅力は、アルバムの作曲、アレンジの全てを手がけたメンバーのウォルター・シルヴィンスキのセンスの良さに集約していると言ってよい。ほどよい哀愁と、なんといってもソフトロック系のキーワードと言ってもいい高揚感がある。
 それは1曲目の「The Sun And I」からすぐに伝わってくる。高みをどんどん目指していくような高揚感は格別で、掴みは完璧だ。2曲目の「The Shadow Of Summer」は、シルヴィンスキのオルガンがいい味を出しており、そこはかない哀調が心地いい佳曲で、2曲目としてはこれも文句なし。そして3曲目の弾むような「Knowing How I Love You」もいい。輪郭のはっきりとしたメロディにシルヴィンスキのオルガンはメロトロンのような効果を出している。アルバムではB1にあたる「Sometimes」はシルヴィンスキの曲づくりのセンスが溢れた快作で、巧みなコード展開、高揚感のあるメロディとアレンジはゾンビーズの『Odessey And Oracle』に通じるものがある。アルバム最後の「Orange Colored Sky」はグループ名とアルバム・ジャケットに通じる哀調が魅力的で、日本人好みのウェットな感覚があるだけでは私は少しも好きになれないのだが、この曲の持つ雄大なアレンジが曲を味わい深いものにした。その他の曲も哀調を帯びた曲とカーニバル的なサウンドの曲を交互に配してあり、捨て曲がない。隠れた名盤のひとつと、太鼓判を押してお勧めする。CDのボーナストラックにはユニでのアルバム未収録シングル3枚の全てが収められた。「Happiness Is」はまだアルバムの延長線上の曲なのでいいが、そこからは徐々にチャチになってしまい、「Sweet Potato」(作曲はRock Horseなる人物でCD唯一のシルヴィンスキ以外の作)は、ファンキーなロックにトライして大失敗している。クリッターズが典型的だが、ヒットがないと持ち味を捨ててロック寄りにシフトを変え、さらなる失敗作になって解散という、悪循環にはまってきていた。
 その後はPeopleというレーベルで「Help」と「Press A Rose」のカップリングのシングルをリリースしている。作曲はシルヴィンスキではなく、Wm.Stevensonなる人物で、プロデュースはMicky  Stevensonと何やらStevensonさんの意向を強く反映しているようだ。「Help」は軽快な曲で、まあ「Mr.Peacock」レベルのポップさはあるが、ロックな「Press A Rose」には魅力的なものがない。そして1971年にドン・コスタのDCPからドン・コスタのプロデュースで「Simon Zealotes/Superstar」「I'll Try Again」のシングルをリリースする。A面は言うまでもない「ジーザス・クライスト・スーパースター」からの曲で、目まぐるしく変わるアレンジで作りこまれた感はあるが、オレンジ・カラード・スカイらしさは皆無。B面は久々、シルヴィンスキの曲で、キングスレイ(アボット?)との共作だが、ポップとロックの中間の、70年代にはよくあるナンバーで、まあB面レベルの曲。このシングル以外のレコードは確認されていない。(佐野)