和製ブラジリアン・ミュージックのシンガーソングライター、名パフォーマーとして知られるSaigenji(サイゲンジ)が2008年の『Medicine for your Soul』から約2年振りのニューアルバムを9月9日にリリースする。今作は3rdアルバム『Innocencia』(04年)以来のセルフ・プロデュース作となった。
近作においてサイゲンジは、ドメニコやモレーノとのユニットをはじめカエターノ・ヴェローゾのプロデュースで知られるカシンが手掛けたリオ録音の『ACALANTO』(05年)や、GIRA MUNDOこと奥原貢による『Music Eater』(06年)と前作『Medicine for your Soul』など、精鋭のクリエイターをプロデューサーに迎えてアルバム作りをしており、そこで身に付けたレコーディング・センスやテクニックを彼なりに消化して挑んだのが今作のキーポイントだろう。
また今回のレコーディングではサイゲンジのギターに、ベースの須藤ヒサシとドラムの斉藤良を加えたスリー・リズムのベーシック録音はクリック無しでおこなわれており、各プレイヤーの演奏レベルに裏打ちされたサウンドには緊張感すら漂っている。
トップのタイトル曲「Another Wind(Overture)」から典型的サイゲンジ・サウンドというべき、トニーニョ(オルタ)・スタイルのギター・カッティングで彼の世界に引き込まれていく。
エヴァーグリーンなスキャットのイントロから一転レゲエへと展開する「蒼天のアーチへ」、アルゼンチン音響系の影響を感じさせるヴォーカリゼーションを配した「Amanecer(アマネセール)~Listen to the dawn」。
ステディなギターリフがコアとなっている「Lost & Take」はポップスとして完成度が高く、スティービー・ワンダー風のコード感覚はフリーソウル・ファンにもアピールする素晴らしいもの。
ミュージシャンズ・ミュージシャンとして知られる彼だが、現在本サイトにて対談レビュー掲載中のフレネシさんもその中の一人。今作を聴いた感想を率直に語ってもらった。
「ジャンルの垣根を超えた音の温度感がバランス良く配置された、ボーダレスなフルアルバム「Another Window」は、ポップ感をより前面に出しつつも、これまでの作品が証明する無二のバックボーンを最大の味方につけた、サイゲンジ・ワールドの新たな階層へと導いてくれる一枚。
視界をヴィヴィッドな青に染めるような突き抜け感は今作でも健在。圧巻のスキャットとウラのリズムは、キャリア初・ノークリックレコーディングによって、さらにダイナミックさを放っているようです。それでいて、緊張をまとった休符の空白さえも聴き手に自覚ないままさらりと消化させてしまうような、ごくドライな聴後感。時にロマンチスト、時にリアリストとなる詞の跳躍も、一様のナイーブさで覆われないバランス感覚はお見事。
軸が明確だからこそ、音の表情が多彩でもベクトルにブレが発生しないのですね。
ともあれ、こうした言葉でややこしく綴るのがナンセンスに感じるほど、サイゲンジ氏のウソのない身体能力とウィチシズムには、改めて「鬼才」という言葉が嵌るなあ、と再確認したのでした。」
なお今作には昨年シンガーソングライターの多和田えみに曲提供し、映画『築城せよ!』主題歌となった「時の空」(作詞:多和田えみ)の弾き語りのセルフ・カバーも収録されており、本ヴァージョンも非常に味わい深い。
15曲収録のヴォリュームもさることながらバラエティに富んだ内容は、従来のファンは元より広く音楽ファンにもアピールするだろう。
筆者的にはデビュー時からライヴで披露されていたウェス・モンゴメリーの「Full House」の超絶なカバー・ヴァージョンの収録が嬉しかった。
なにより彼のパフォーマンスは唯一無二の一級品であり、前出のフレネシさんやゲントウキの田中君など同業ミュージシャンも虜にして離さないのである。
(ウチタカヒデ)
http://saigenji.com/
●フレネシ オフィシャルHP
http://www.otomesha.com/frenesi/
