
昨年10月に『オレンジジュース・グレープフルーツジュース』でデビューした、若く才能溢れるクノシンジのセカンドアルバムが早くもリリースされた。
前作から9ヶ月という短いインターバルながら一曲一曲のクオリティは更に磨かれたものになっており、次世代ポップスの新星の名に恥じないアルバムと云えよう。
往年のブルーノート・レーベルの作品を彷彿させる、センシティヴでクールなジャケット・デザインも印象的だ。
ここではリリース前に行ったインタビューの模様を紹介したい。
(クノシンジ:以下括弧内同じ)「先ず1stをリリースした後に思っていたことは、次は"もっと深いものを作りたい"という事でした。そもそも1stを作る時に、"とにかく分かり易いものを作る"という事があったので、そういった分かり易い作品になったと思います。当然、そこが1stの魅力だった訳ですが。ただ、僕自身好きなものや、作曲家として野心はもっと他のところにあって、1stリリース後はそういった僕自身作りたい曲を数多く作った訳です。
2ndを作る事になって出来た曲を並べてみたところ、やはり1stのような分かり易さはなかったんです。そこで、制作期間もあまりなかったので、1stをリリースする前に作った曲を入れることになりました。結果、リリース前に作った曲が5曲、リリース後に作った曲が4曲収録されました。つまりリリース前に作られた曲の方が多いんです。そういう意味では、このアルバムは変化が少ない気もします。
それでも僕が作りたいものや、前作とは違った深さを見せたかった気持ちはリリース後に作られた4曲に詰まっています。恐らくどの4曲がリリース後に作られたか、割と分かり易いと思います。僕が気に入っているのも勿論その4曲です。
前作で出来なかったこととして、今回は生ドラムや管楽器が少し入っています。そういったところで広がりは見せられた気もします。
ただ、全体で言えるのは制作期間、迷いも含めて余裕は全くなかったですね。1stの方が、リリースが決まる前からアレンジしていたので、時間が掛けられています。今回は本当に大変だったという印象が強いです」
確かにリリース後に書かれた曲には1st収録曲になかった複雑な展開やアレンジのアイディアが見受けられる。特に「グッバイ・スケッチブック」や「月のシャーロット」はポップソングとして完成度が高いと思う。前者のイントロのオケ・アレンジにはジャック・ニチェ~大滝詠一の匂いすら感じさせる。
更に特に意識して作ったという曲について詳しく聞いてみた。
「「グッバイ・スケッチブック」の雰囲気はギルバート・オサリバンですね。オサリバンは音楽的にそれほど評価されていない印象なんですが、実にいいソングライターなんですね。刺激も少ないんですが、飽きずに聴き続けられる。ハープシコードもその影響です。イントロのコーラスはビーチボーイズ、ブリッジの後半にはLampの「ひろがるなみだ」からの影響があります。
「月のシャーロット」、この曲は今までの作曲法とは違った、鼻歌で出来た曲です。ただ、頭の中でコードが鳴っていたので、それを元にアレンジしました。マリンバ、バンジョーを模したウクレレはHarpers Bizarre「Green Apple Tree」を参考にしました。全体の雰囲気として、アレッシーの「Oh, Lori」も意識しました。
「ペペロンチーノをイタリアで」、この曲はパーカッション(トライアングル、カスタネット)を入れることに気を使いました。本当はもっと色々入れて見たかった気はします。もっとジャズっぽいドラムにしたかったところもあります。最後のコーラスはニルソンの馬鹿馬鹿しさを出したかったんですが、上手くいきませんでした。結果としていいコーラスにはなりましたけど。
「July7」は元々ボサノバっぽい弾き語りのイメージで作られた曲です。ところが8ビートを入れてみたらよい感じだったのでああいった感じになりました。イメージとして、トッド・ラングレンと初期のTahiti80を参考にしました」
今回のレコーディングは前作同様一人多重をベースとしつつ、生ドラムやホーンプレイヤーを導入している。とはいえギターやピアノのメイン楽器以外にクノ自身がグロッケンやウクレレからSEに至る、曲のアレンジにおいて細部に渡るアクセントとしての楽器プレイまで自ら行っている点には感心させられる。
曲を最も理解している作者として未経験楽器の演奏をするという冒険を試みて、それをマスターして上でレコーディングに挑むという姿には、頑固な拘りを持つプロ気質すら感じさせてしまうのだ。
「今回も基本的に打ち込みのデータ作成とベース、ギター、キーボード、パーカッション、コーラスを僕が自宅で録りました。残りのメインボーカル、生ドラム、管楽器はスタジオで録音されています。基本的にアレンジ(ドラムのフレージング含め)は僕がやって、後で録り直しした感じです。
ホーンアレンジのボイシングは外部の方にやってもらいましたが、「月のシャーロット」のトランペット・ソロは僕が指定したフレーズです。
また同曲のウクレレはバンジョーの様にしたくてトレモロで弾いています。4本重ねています。普通のチューニングでは出ない音を出したくてチューニングを変えました。
「call me back again」の電話の音は僕が自分の携帯電話で電話をかけてマイクに近づけて録音しました(笑)」
現在彼は本リリースに合わせたツアーを行っている最中であるが、筆者は7月24日に東京の下北沢で行われたライヴを訪れたのだが、ベーシストとドラマーのバッキングにコーラス隊3名を従え、センターでピアノとギターを弾きながら歌うクノ本人というシンプルな編成。特に専任させたコーラス隊の配置は彼の音楽を表現するには重要なエレメントと考えられるが、バンド・スタイルではやや困難と思える生の4声ハーモニーを再現させるというアイディアには感服さえした。
ハートのある歌声とそれを引き立てるコーラスの絡みをメインにしたステージングはどんなパフォーマンスにも代え難い。
そして何より彼の今後の活躍を想像させるには容易い光景だったと付け加えておく。
最後に自己的な総評として語ってくれた彼の言葉には、短いながら重みを感じられたのだ。
「今回のアルバムを経て学ぶものが多くありました。今の段階ではまだ僕の中にある音楽の可能性を発揮しきれていません。これから先の僕の音楽にも是非期待していて下さい」
(ウチタカヒデ)
