2003年9月28日日曜日

roly poly rag bear : 『ryan's favorite』(abcdefg*record a-g013)












roly poly rag bear(ローリーポリーラグベア)は2000年にデビューした、男女二人のギターポップ、ソフトロック・ユニット。 ヴォーカルの田之上美穂子と、ソングライティングを手掛けコーラスと全ての演奏を担当する五十嵐誠からなる。

本作『ryan's favorite』は彼らの3枚目のミニ・アルバム。 ソングライターの五十嵐は嘗てのソフトロックやポップスへの造詣が深いとみられ、「yellow balloon」「flying machine」「all summer long」と、実にストレートな曲のタイトルからもそれがうかがえて親しみを感じる。
全体的にミッド・テンポでシンプルな構成の曲が殆どで、聴き飽きない日本語歌詞のソフト・サウンディン・ミュージックを展開しているのだが、現代のツールの使用も控えめで、曲自体の素材を殺すことなく、余計に気張ってないスタンスにも好感が持てるのだ。 何気ないオーソドックスな転調が心に響く、「that summer feeling」(エンディングがビートルズぽい)。
五十嵐がリードをとる「orange colored sky」等も丁寧に曲を紡いでいて安心して聴けるが、筆者が最も注目して聴き続けたのは、「the melody goes on」という曲。
この曲は昨年、『send my badge! -bluebadge compilation CD vol.1』というインディーズのギタポ系コンピレーションに収録されたらしいが、本作のラスト・ナンバーとして相応しい出来である。特別に歌唱力や演奏テクニックが優れているいという訳ではなく、ロー・バジェッドなプロダクションで作られた一曲に過ぎないのだが、シャッフルで進んでいく、この無垢で時代性に媚びないサウンドがやけに愛おしい。チープでウォームなシンセ・ブラスのリフ、さり気ないピアノのオブリガード、サビの多重録音によるコーラスのリフレイン(歌詞のラインも実に素晴らしい)等、全てに愛がつまっているのだ。
嘗ての国営放送の夕方感覚を彷彿させたり、どことなく懐かしく、誰もがほっとけないサムシングが潜んでいる。青春の輝きや慈愛に満ちた歌詞の描写も投影しているだろう。 とにかく、多くのポップス愛好家に聴いて欲しい、とっておきの隠れた名曲なのである。
(ウチタカヒデ)


2003年9月27日土曜日

ゲントウキ : 『いつものように』(TEENAGE SYMPHONY MUCT-1006)


 ゲントウキは、多くの人の琴線に触れ、技巧的ソングライティングに優れた2曲のシングル、「鈍色の季節」と「素敵な、あの人。」でメジャー・シーンに躍り出た新鋭バンドだ。

 以前、この枠で「素敵な、あの人。」を取り上げた時もその素晴らしさを紹介したのだが、今回のメジャー・デビュー・アルバム『いつものように』で強固な確信となった。 彼らの魅力は楽曲のクオリティの高さである事は言うまでもないが、ソングライターでギタリストの田中潤を中心にして、ベースの伊藤健太とドラムスの笹井享介の堅実でタイトなバンド・サウンドが、それを引き出しているのを今回改めて感じる事ができた。
嘗てのロック、ポップスを通過して、普遍的に続くサウンド・スタイルを引き継ぐ、真摯な姿勢には感服に値するのだが、これは、自分達がクリエイトする曲が最も引き立つフォーマットを既に体現している事に他ならない。
 これは、ポピュラー・ミュージックをやる上で非常に重要なファクターである。

 一曲一曲に人生があり、ドラマがある。 それを雄弁に語る歌唱力と、表現する演奏能力がここに在るのみ。 多くを語る必要も無く、高純度のクオリティと、長い風雪にも耐えうる「安らぎの家」を保証したい。勿論、全ての音楽を愛する人に。
(ウチタカヒデ)


2003年9月25日木曜日

Radio VANDA 第 42 回選曲リスト(2003/10/02)



Radio VANDA は、VANDA で紹介している素敵なポップ・ミュージックを実際にオンエアーするラジオ番組です。

Radio VANDA は、Sky PerfecTV! (スカパー) STAR digio の総合放送400ch.でオンエアーしています。

日時ですが 毎月第一木曜夜 22:00-23:00 1時間が本放送。
再放送は その後の日曜朝 10:00-11:00 (変更・特番で休止の可能性あり) です。

佐野が DJ をしながら、毎回他では聴けない貴重なレア音源を交えてお届けします。


特集White Plains

1. I've Got You On My Mind ('70)
2. My Baby Loves Lovin' ('70)
3. In A Moment Of Madness ('70)
4. When Tomorrow Comes Tomorrow ('70)
5. Summer Morning ('70)
6. Lovin' You Baby ('70)
7. Every Little Move She Makes ('71)
8. Carolina's Comin' Home ('71)
9. Home Lovin' Man ('71) ... 2nd
When You Are A King』のみ収録
10. Julie Anne ('71)
11. Look To See ('73) ... "Step Into A Dream"
のB面
12. Just For A Change ('73) ... "Does Anybody Knows Where My Baby Is"
のB面
13. Summer Nights ('76) ... Bradleys Records
よりのラストシングル
14. Nothing Else Comes Easy ('?) ...
未発表の3rdアルバム『New Peaks』より

 



2003年9月14日日曜日

YMO: 『UC(Ultimate Collection of Yellow Magic Orchestra)』(SONY MHCL 295-6) ミサワマサノリ対談レビュー



 70年代末期から80年代初期にかけて、我が国で一大ブームを築き、忘れがたい存在となったYMO。今回、Ultimate Collectionとして最新の選曲と、大幅なリマスタリングを施したベスト盤がリリースされた。
この枠ではLike This Paradeやbonjourで活躍するキーボーディストで和声理論にも秀でた、ミサワマサノリ氏と対談形式で、この作品について語り合ってみた。

 YMOに想いを馳せて~

ウチタカヒデ(以下U):始めて聴いたのは中一の頃で、周りに影響されて聴き始めたって感じですね。それまでは所謂アイドル歌謡の類とか、カーペンターズなんかを姉と一緒に聴いていたかな。
それがいきなりあのサウンドなんで、一気に目覚めたって感じ。丁度意識的に音楽を選んで聴く様になった時期と重なるのね。とにかく音楽を聴くリファレンスってのがあれで出来てしまったから、偏狂的な音楽の聴き方”第一章”みたいな(笑)。ミサワ君の場合はどうでしたか?

ミサワ/Like This Parade,bonjour(以下M):オンガク的にというか、偏狂的に聴き進むきっかけになったのは、従姉妹の影響で、ニューウェーブ全盛の頃に美大に通ってた彼女の偏狂の流れを汲んで入ると思います。ニューウェーブ的なるものは、彼女ホントに何でも持ってた。
YMOもその中の一つっていう感じだったと思います。


 「FIRE CRACKER」~

U:YMOの念碑的曲ですか、当時僕はトミー・リピューマの下アル・シュミットがリミックスしたUS盤を先に聴いていたので、後でアールデコ盤(オリジナル日本盤)を聴いた時にその空気感の違いに戸惑いました。
今回のは後者のアールデコ盤からのリマスターですね。初CD化は92年と遅く、現行盤は今年リイシューされたソニー盤。今回のリマスターで変化が顕著に出るのはボトムだと思うけど、どうかな?キックと重ねられている音程感の無いムーグの質感が際立ってるよね。
後クラップの音の伸びとかも。しかし、このサウンドは『泰安洋行』~『はらいそ』からモディファイしてはいるものの、精神論的には細野氏の世界なんだよね。その要になっているアレンジ的にはどうですか?

M:ボクもUS盤が先だったので、アールデコ盤は最初は戸惑いました。でもこの曲は、アールデコ盤リマスターで正解だったんじゃないかなーって思います。下世話ながらも上品っていうか。マーティン・デニーの流れという意味ではハリー氏"泰安洋行"の流れかな。"はらいそ"よりも、空気感で言えば"泰安洋行"直系な感じ。
UCの音源聴いて、特にこの曲や1st~2ndあたりからの曲に顕著だと思うんですけど、リズム隊のアプローチがリマスターワーク冴えてますね。ピーター・コビンを思い出しました。非エキゾチカな楽器音色+非エキゾチカリズムで、音階はあくまでペンタトニック+2音の「呂旋法」を徹底化させるっていうスタイルですよね。「ハリー」氏の行き着く先の先がココかなー、みたいな。
ペンタトニックを地域性の薄い音とリズムで彩る感じです。それから和声が全然ペンタトニックを無視する瞬間がありますよね。Bメロの6小節目の7/9thとか。音階にこだわりながらも和声を打破しようという意気込みはハリー氏の精神論を坂本氏が一歩進めたのかなーって思います。


 「TONG POO」~

M:ボクはこれ、US盤の方が好きかも。。吉田美奈子、、中間部にあの声がないのはやぱり寂しい(笑)他はこのアールデコ盤からおこしたリマスターはカッコいいですね。かなりいじってるなーって思います。この曲こそ、音階にこだわりつつ和声で打破する方法論がもっとも確立されてますよね。
この曲の和声は見事。これもBメロの和声は綺麗。そう、ある種、綺麗感覚っていうか、12音階/平均律時代の綺麗感覚って、ここ200年くらいの間に生まれたものなんでしょうけど、情緒に欠ける欠点がある一方で、バランス感覚に優れているし、抽象化が圧倒的に進んでるっていう意味では非常に高度に洗練された綺麗さがある。少々大袈裟ですけど、非洗練ペンタトニックを支える洗練された和声を聴いてるとホント感心しちゃいます。
この曲、細野氏&坂本氏の役割は凄く明確な気がするんです。今云った通りで。で高橋氏なんですけど、この曲や1st一連の曲名なんかでゴダールを感じますよね(笑)。そういう趣味の流れって高橋氏なんでしょうか? だとしたらホント3人が一体になっててスゴいなーと。

U:うむむ、そのUS盤の美奈子ヴォイスは思春期の男子には刺激が強過ぎました。それもあって今回のデコ盤マスターでは、妄想感が薄れて余計間奏が長く感じるのかも。
本当にこの和声感覚とブラック・ミュージックの幸福な融合は他では余り見られないすね。強いて言うならSteely Danの「The Fez」かな。強引に銘々すると"仏印象派ファンク"ね(笑)。そしてこのベース・ラインの組立はやはり御大にしか出来ない技ですね。こういうニュアンスの違いで曲に彩りを添えられるというのは、自己の音楽的資産が蓄積されてないと到底引き出されない。チャック・レイニー的なプレイにも影響されていたって発言も頷ける。
それと、確かにこの曲での巨匠二人の役割が明確なのは理解出来ますね。そこに”第三の男”たる高橋氏の役目というのは、一連のゴダール作品のタイトルからの引用とかそういったセンスなのかな。サウンドのイメージから必然的にて先付けされたタイトルとは思えないものね。それって凄く東京的で地域性を麻痺させた折衷感覚なんだと思うな。


 「RYDEEN」 ~

U:現在では携帯の着メロにもプリセットでよく入っているね。やはりこの曲が植え付けた強烈なイメージは永遠に残りますね。当時タケノコ族もこの曲で踊っていたらしい(笑)。
メロディのパターンは割と単純で(だから小学生も覚えられた)、東洋的な音階を意識しているんだろうけど、これも具体的な地域感覚がイメージ出来ない。そんな心象世界だからこそ彼らのコンセプトは成功したんだろうしね。サウンド的には、コード・パッドがプロフェット5の重厚な響きで南無っ~て感じで厳かなんだけど、作者である高橋氏のドラミングはフィルが炸裂しまくってます。
モータウン的なパターンが多く聴けますね。何より右チャンネルのシーケンス・パターンがテクノたる肝なんですが、左チャンネルの8分のバックビートで刻まれるハネも重要。スティーヴ・ガッド的なセンス。コーダでリフレインされるピッコロなんかは完全にクラシックの影響なんだろうけど。

 M:この曲、着メロでおなじみっていうのはメロディーの分かりやすさを象徴してるなーと素直にそう思います。
この曲のスネアフィルはホントにスゴいですね。高橋氏のドラムは、フィルもエンディングも基本的にはその小節の中で完結するじゃないですか。ボクは、これにヤラれました。
そういえばコーダのダイナミクスだけはちょっとイジってるんじゃないかって思いました。ボクが持ってる盤がダメなのかもしれないですけど、コーダが全然良くないんです(笑)。それがリマスターでは綺麗に処理されてて気分がスッキリしました。
コーダのこの手のクラシカルな感覚、大袈裟にいえばワーグナーとかそういう感じの壁のような和声、、そういうのはこの後、高橋/細野氏が相互に影響し合って作品に反映させてますよね。ボクはBGMのMASSでそれは完成したかなって思ったんですけど。そういう意味では、1stの東風の頃とこの雷電では3人の関係が微妙に変わってきてるなー、なんて。
でもそれって、次元の高い音楽家故なのかなー。。それにしてもワーグナーな高橋/細野とドビュッシーな坂本って、よく同居してましたよね。100年前なら絶対ありえないと思う。それを許すのってのはロックかなーみたいな気がしました。


 「CITIZENS OF SCIENCE」~

M:この曲とTIGHTEN UPの一連のセッションはドラムのマイキングとチューニングが素晴らしいです。
この一連のセッションの曲は本来、テクノとは云わないですよね。むしろ偏執的で、演奏技術も高い、そういう密室空間的なニューウェーブファンクっていうか。それでもYMOとして成立してしまうすごさがある。もはや何をやってもYMOだ、、っていう。あるフィルターを通していながらどうしてもそこに自己の音楽的資産的要素が滲み出てしまう。細野氏は匿名性の高いオンガクをやりたかったって何かで読んだんですけど、こういう滲み出る要素がそういうのを阻害したかなー。匿名とは正反対の結果になっちゃってるし(笑)。
この曲の歌メロはメチャクチャですね。なんかこう破壊的でありながら美しいっていう超新感覚な感じが、今聴いても十分伝わる。こういうのが意外とキングストントリオからの影響だったりしてそういうのってまさにオルタナですよね。
パーカッシブなシンセの16分もなんか雷電の頃に顕著なテクノポップっていうよりは、13thフロアーエレベータみたいな感じだし(笑)。そうそう、サビ。強烈なメロですね。コトバに対する間延びした譜割りがちょっと恥ずかしいような笑えるような。それをカッコよくやってのけるYMOっていいなーって思います。

U:『増殖』での新曲の一つですが、「Nice Age」に比べて地味なんだけど、当時から変な曲だなと感じてましたね。手元のアルファ盤のCDと今回のを聴き比べると、大村憲司のカッティング・ギターの粒が際立って良くなってます。後ハイハットの刻みがナチュナルになってエフェクティヴ感が薄くなってます。シンドラ(タム)とシンバルのダイナミックス感は減った様な印象は受けますが。
サウンドですが、後にルパート・ハインが手掛けたフィクスぽくないですか?
密室的な不健康ファンクというか。この頃はドラムもキットで録っていたらしいから、生々しいニューウェーブぽさが出てるかも知れない。でも演奏が巧いから奇妙な感じなんだよね。
それとサビの強烈なラインね。(笑)。ヴォーカルというより弦のラインぽいよね。特徴的なリード・ヴォーカルにはフランジャーをかましていて、コーラスにはかなりモジュレーションを効かせてます。ストーンズの「Can You Hear the Music」とか想像させる。
他に気になるサウンドとしては、ヴァースの左チャンネルで聴ける、チロル地方の笛みたいな音もアクセントになってます。これはXTCの「Generals and Majors」からの引用だろうな。


 「開け心―磁性紀のテーマ」~

 U:今回の目玉の一曲ですね。初CDと表示されてますが、92年のCD-BOX『テクノバイブル』にモノ・ヴァージョンが収録されていて、ステレオとしては今回が初となる訳ですね。元々はフジカセットのCM用に作られた曲で、最初に収録されたアルバムはスネークマン・ショウの『急いで口で吸え!』。
これは如何にも企画物タイアップのやっつけ曲である事に違いないんだけど、非常に面白い構築法をしてますね。ベースレスでパンキッシュなドラミングになっていて、上モノがテンポを早くしたバロックなんだよね。『増殖』から『BGM』にモディファイする線上にある音と言えるので、研究者にとってはこういう音源がちゃんとリマスターされて日の目を見る事は意義がありますし。

M:スネークマンショウのトラックとして最初に聴いた時は、ホント分からなかったんです。この曲。確か、、クラウスノミの鬱々とした曲(これも名曲!!)とかと一緒に入ってて、ちょっと子供には過激すぎました。でもの曲は結構いろんなトラップがありますよね。On-UがらみのUKダブやクラウトロック、それにたしかにバロックの影響ありますよねー。


 「CUE」~

M:この曲を語る上ではULTRAVOXのPassionate Replyは外せない訳ですけど、まあご本人達も認めているというハナシなので、はっきり云ってしまえばPassionateReplyからの引用があまりに多い(笑)。
リマスターはやや曇りがちだったオリジナルを大分整理したのかな。。微妙に分離を良くして、それからもういちどあの曇ったBGMの空気感にあえて戻そうとしたような努力を感じました。そのあたりはウチさんの分析を待つことにします。ボクからはPassionate Replyとの違いについて。イチバン明らかなのは、ミニマルに繰り返される各小節3拍半パット系の5度を中心にした音の配列ですよね。これ、コードがIの時には1-5度が響いて、そのまま同じ音程でコードチェンジするからIVの時には5-9度のテンションになる。このI-IVのチェンジがなんともいい感じなんです。これはPassionate Replyにはない要素ですよね。
それからやっぱり高橋氏の歌がいい。半音とか全音の微妙にクローズボイシングな感じがすごく声や楽曲の雰囲気にあってていい空気を作ってるなーって。歌い出しの1小節、ヴォーカルの2音目の音のパットやトラック全体との和声の響き方なんか絶妙で大好きです。この曲は細野氏と高橋氏が相互に影響し合って、さらに(不在ながら)坂本氏からの現代的な和声感覚を取り込んだ中期の代表曲ですよね。

U:YMO史の中でも、ある頂点を極めた曲ですな。多くのフォロワーを”ふるい”にかけた『BGM』の中でも特別の存在感を放ってますね。オリジナルのアルファ盤CDと聴き比べると、明らかに、全体的に分離良く整理されているサウンドが聴けますね。遮光フィルターを外して、改めて景色を見直すみたいな感じですか。それでいて元々のサウンドが持っていた世界観も生かそうとしてる。正にミサワ君と同感です。
何よりこの曲に対する監修者の愛情を犇犇と感じさせるリマスタリング作業だったのではなかったのかと想像させます。実際にはセッションに参加しておらずとも相互理解し合ったというか。何というかレノン・マッカトニー名義でも、各々単独で作った曲に、もう一方の存在感を感じる様な、そんな関係なんでしょう。
因みにこのアルバムから、当時日本でも早かった3Mのデジタル・マルチ・レコーダー(32TR)を導入していますが、リズム隊だけはTEACのアナログの8トラで録ってからデジタルに落としていたという、特殊なレコーディング方法でやってます。やはりそのボトムの太さとコシは独特の質感を生んで特徴になってますが、今回のリマスターでキックはクリアに軽く、スネアはずっしりタイトになった感じがしますね。それと如何にもMC-4的なシーケンス・グルーヴによるプロフェット5のシンベの際立ちが、よりフィルターを外した感を生んでいるのかも知れません。
さて、ミサワ君の緻密な和声分析に補足する事もないのですが意外とこの効果って、イギリスの軍隊やスコットランドの民族音楽で多用されるバグ・パイプのドローン管の持続音に近いのではないかと思うのね。それがこの曲を支配するミニマル感に影響を与えて、ストイックな美しさがある。上手く表現出来ないけど、そんな高揚感がこの曲を永遠に好きでいられる鍵になっていると思いますね。


 「体操」~

 U:これも『BGM』同様に問題作である『Technodelic』収録で、中期YMOの代表曲ですね。これはテクノというか、ソウル・ミュージックをニューウェーブ的に解釈した感じね。トーキング・ヘッズがアル・グリーンの「Take Me to the River」をカバーした感覚に近い。ヴォーカルやコーラスの感じはビレッジ・ピープルを茶化した様なスタイルね。この曲は坂本氏が中心になって書いた曲ですが、アレンジや楽器編成をプレーンにすると、スタックスやハイの音になりそう。オーティス・クレイとかに歌わせたら面白そう(笑)。
それと「CUE」のメンタルな世界観に対して、「体操」は凄くフィジカルな感じだというのも特徴ですね。サウンドも全体的にデッドになっていた時期なのに、この曲だけ凄くライヴな音作りをしている。細野氏の手弾きベースは相変わらず天才的なシンコペーションを繰り出しているし。この時期世界で初のオリジナルのサンプラーLMD-649を導入しているのは有名だけど、この曲で使われているのはチューニングを下げてコンプをかけたスネアと、アタック音だけを生かしたキック、坂本氏によるハンド・トーキーの声(指導掛け声)やその他のヴォイスですか。
リマスターでの音の向上ですが、これも当然の様にクリアに分離良くなってます。特に違いが顕著なのはスネアかな。残響のキレが良くなってビートに対する機能性が増した感がしますね。

M:ボクはこの曲を含むTechnodelicというアルバムが大好きで、それはこのアルバムが持つ妙な普遍性? 不変性? そういう要素が輝いて聴こえるからなんですけど。
某誌のYMO特集で、テクノデリックは「テクノ」ではなくてむしろ「デリック(=拡張)」のほうに傾いている、、という記事がありましたが、ここにあるのは拡張よえいもさらに一歩推し進めた不変性のようなものだと思います。それはどの時代にも属さない、、というかこう、ある特定の時代に頼らない力強さというんでしょうか。しいて言えばまあ、20世紀初頭~80年代までのあらゆる音楽の集大成っていうような感じなんでしょうか。
この曲の骨格は試行錯誤ながらサンプリングスタイルがすでに立派に成立しているドラム、どうしたらこんなフレーズが出てくるのかっていうようなベース、現代音楽のパッセージとブルースやソウルの和声が溶け込んだピアノ、この3つのパート。そして抽象化の難しいペンタトニックスケールで見事に抽象化に成功しているこのメロディー。ペンタトニックが地域性を超えて聴こえるっていうのはオドロキです。
この曲はユーモアまで含めてあらゆる要素がホントにうまく溶け込んでいて素晴らしい。ボクはもう大好きです。この曲。ホント。
リマスター盤の仕上がりですが、ボトムをこれもやはり整理したかなと。あとはおそらくオリジナル盤の頃はサンプラー音源のミキシングって分らなかったんじゃないかと思うんです。扱いが。。その辺が大分整理されているなーと。ベースとのカラみ方は俄然、リマスター盤の方がいいですね。
ピアノは多分、坂本氏のイメージとして20世紀初頭~中期の頃のミニマル音楽家が残したレコードのサウンドが前提にあったと思うんです。リマスターはCUEと同様、いったんクリアにして、新たなメソッドで原音に近づけた、、そんな印象を持ちました。


 「CHAOS PANIC」~

M:restless盤"kyoretsu na rhythm"にも選ばれて(、今回もアルバム未収録という事でUC収録に選ばれた重要な(??)曲です。ボこの曲はかなり原曲に忠実なマスタリングかなって思います。この頃の細野氏の音色ってなんかヘンですよね。この曲のイントロとかもう不思議。でもこのイントロのリフの変形イメージがずっと続くんですよね最後まで。こういう作り方、非常にミニマルな作り方ってBGM以降ですよね、やっぱり。
これほとんど3コードじゃないですか。GとCとDの。割と単純。さらに云えば基本形は1小節のなかで2拍目の後半のⅣとそれいがいのⅠというⅠ-Ⅳ-Ⅰが基本になってる。それだけ。でもパット系のシンセが作る音の基本は9thでひっかけてる。このね、微妙はひっかかりがYMOを非凡な音楽に仕立て上げてるなーって思うんです。この9thが耳に残るんですよね。なんだろう、、って。
それをこの頃の独特の細野氏の音色でやられるとなんていうかそこに軽妙なユーモアっていうか、すごいなーって思います。クラフトワークやモロダーやディニーがYMOの分かりやすいルーツのように見えて、でもそういう人達には持ち合わせてないこういう要素ってYMOを特異な存在にしてるんじゃないでしょうか。
見えにくいルーツ(笑)は、ウチさんの見事な分析に補足するところは全くないのですが、ふとそう思いました。この単純なようでいてCUE以降のあらゆる要素を総括する曲を聴いて。

U:この曲のルーツは簡単にいうと、キッズ・ソウルのノヴェルティぽい音じゃないかな。例えばスティーヴィーの「Hey Love」とかをネタにした、ニュー・スクールの構造にも近いというか、デラソウルより6年も早かったんだけど(笑
)。それを踏まえると、循環ループを思わせる単純なコード進行なんだけど、テンションで味付けして飽きさせない。YMOの曲中で最もティーン向けポップスな作りじゃないかな。A面はアヴァンチュールを目論むオジサン達(「君に胸キュン」)なんだけど(笑)。
後、ミサワ君が指摘している様に、例の癖になるミニマルな構造も「CUE」以降の典型的な音だよね。新たな曲作りの方法論を持てたのはやはりEMUのイミュレーターIIという、サンプリングとループ・シーケンスを同時に組める機材の導入も大きいでしょうね。恐らくこの曲と同じセッションの『浮気な僕ら』では、イミュレーターIIを使い倒していたんじゃないかな。同時期の松田聖子の「天国のキッス」(細野作曲、編曲)のオケで鳴っている、トレモロのマンドリンとかもそうだろうし。
リマスタリングについて、比べたのが2000年の『HOSONO BOX』の音源なのだけど、ベースのコシとかスネアのダイナミックスが上がってる感はしますね。ミックスの仕方もヴォーカルがサウンドにやや埋まっている感じから、ピラミッド的に組み立てて聴き易くなってますか。そのあたりは微妙なんですが。因みに唯一外部ミュージシャンとして参加している、ビル・ネルソンのE・BOWをかましたギターはどこで聴けるかというと、左チャンネルの2種類の短いフレーズと、センターでは長めのサスティーンを生かしたトーンを弾いてますね。このポジションのは、エンディングではジョージ・ハリスン的なラーガぽいフレーズを弾いてますね。


総論~
M:ボクは今回UCを聴いて、モチロンそれはリマスタリングされ整理された音源のお陰なんだと思うんですけど、、マクロをいったん離れてミクロ的な方向で聴く事が出来たんです。この曲の何小節目のこのヴォイシングはこうだから、次の展開のここにつながる、、みたいな(笑)。デッサンがよく出来た抽象絵画ってあるじゃないですか。
YMOの中期はまさにそんな感じだし、後期はデッサンを抽象化してもう一回具象化したような感じに聴こえるんです。あとモチーフとしてのペンタトニックをどういう風にとらえるかっていうのは面白かったです。
それから中期以降のYMOの方法論というのはCUEに集約されるようなミニマルで抽象的なものだと思うんですけど、やっぱりそういうところは面白いなーって思いました。YMOはナンセンスな存在でありながら楽曲的には無意味になり切れない。どうしようもなく3人のキャリアが時々邪魔する瞬間がありますよね。細野氏のベースや坂本氏のヴォイシング、高橋氏のメロディーセンスやリズム感。だったらその無意味になり切れない[意味]なるものを楽しもう、と。YMOには意味がある、ってあらためてそう感じました。

U:今までにYMOのベストって様々にリリースされていて、食傷気味だったのですが、今回の『UC』はそんな気分を一掃する様な意気込みを感じたので取り上げたのですね。坂本龍一監修による選曲と、NYのスターリング・サウンドにおいてテッド・ジャンセンによる本格的なリマスタリングが行われたというのも大きかったのかも知れません。
また十何年か振りに聴き込んだ作品群だったので、再発見が多くて非常に感慨深かったです。それっていうのは、当時の日本の音楽シーンを引っ張っていった職人的アーティスト達の神髄を改めて垣間見られたという事に集約されるんですけど。彼らにとってのテクノというのは、単にテクノロジーの最先端ツールを導入するだけで創造出来る音楽ではないと思うんですよ。
ミサワ君も触れていますが、何より、三人の希な才能から溢れ出すイマジネーションによって生み出された、必然的な音だった訳ですからね。個人的にも感受性が成長段階の時期に、この様な音楽に巡り会えて、本当に幸福だったと噛みしめています。
YMOというのは、ある世代にとって希有な存在だった訳で、団塊の世代にとってのビートルズ的な存在だったと言えるんでしょうね。

2003年9月12日金曜日

ヒガシノリュウイチロウ:『Samba03 (サンバ・ゼロ・トレス)』(Zona Sul ZSUL-0001)


 季節感の無い、抜け殻化した日々が過ぎていった今年の夏も終わり、ホイックニーが描く様な人気のないプールにも静かに波が漂っている。
 今回紹介する『Samba03』は、ボサノヴァ・シンガー・ソングライターであるヒガシノリュウイチロウのファースト・ミニ・アルバム。 正にこのアフター・サマーには頃合いな作品なのだ。

 彼は日本におけるブラジルの出島的CDショップのスタッフをしながら、2001年より渋谷のクラブを中心に弾き語り中心の演奏を繰り広げてきた。そんな活動を縁に、ここではプロデューサーに鬼才ヲノサトルを招き、ブラジリアン~ボサノヴァの新たなスタイルを模索している。
 クールでアンビエントなドラムン・ボッサな「Tema03」には未来的な響きを感じ、「愛の季節」と「風に揺れる心」では、"north marin drive”から永遠に帰れない人々への思いがけないプレゼントになっている。 情念を映す希有なアープ・シンセのリード・トーンの交差がたまらない、ラストの「砂の城」ではアジムス的な空間効果が印象的なバラードだ。
 アルバムを通して感じるのは、強烈な個性こそ発見出来ないが、ヒガシノの終始ニュートラルなヴォーカル・スタイルが、それまでオーセンテックなボサノヴァに馴染めなかったリスナーにもアピール出来る可能性を秘めている事だ。彼自身、様々な音楽遍歴を通過して、このスタイルに到達した事を楽しんでいる様である。 

 現在は日本にも完全に定着した感のあるボサノヴァだが、そもそもジョアン・ジルベルトという男が編み出した、高度で革新的ながら非常にシンプルな音楽スタイルである事を忘れてはならない。 そのサウンドの神髄は何より、演奏者の声とギターが紡ぎ出す、究極の演奏形態なのだから。 
(テキスト:ウチタカヒデ

2003年9月5日金曜日

saigenji: 『la puerta』(HRCD-020) bonjour対談レビュー



  Saigenji(サイゲンジ)のセカンド・アルバム『la puerta』が早くも届いた。
 ここ最近は様々なアーティストとのセッションやコラボレーションでも名を上げている、正に若きミュージシャンズ・ミュージシャンの鏡。
今回は筆者と親しい、若手ミュージシャン集団、bonjour(ボンジュール)のメンバーに集まってもらい、彼や本作の魅力について語ってもらった。

ウチタカヒデ(以下 U):先ず本作を聴いてのファースト・インプレッションなんですが、個人的には前作よりソングライティングを重視した曲がより選られていて、一般層にも聴き易くなったと思ってますが、皆さんはどう思われますか?


ナカモト(リーダー兼サックス、以下N):前作よりもさらに歌が前面に出ている。つまり、前作よりもさらにボーカリストとしてのサイゲンジの魅力がこれでもかと。前作が「動」のアルバムだとすれば、今作は「静」のアルバムかな。

すずちゃん(トロンボーン、以下S):一枚目のアルバムは素晴らしいけれど、ライブには負けてたと思う。一枚目聴いて、「違う、こんなんちゃう!」むしょーにライブに行きたくなったりしてた。そしてライブを知らない人がこのCDだけで判断したらイヤだなぁとさえ思ってた。
しかし、2枚目は違ったのです!勿論ライブに行きたくなるのはあいかわらずだけど、「はふ~」とサイゲンジ・ラブ吐息を出しながら聴けるのですよ。満足なのですよ。なんでしょうね。前作は横顔でギターを弾き歌うサイゲンジさんで、今作はCDプレイヤーに向かう人を正面から見て歌うサイゲンジさん、という感じ?サイゲンジさんはいつでも観客に向かって歌っているとは思うけど、このCDはより堂々とした感じが押しだされてる気がする。

ミサワ(キーボード兼ヴォーカル、以下M):先ず彼の「自然体」の魅力については、彼のライヴを知るものには今さら説明するまでもないでしょう。実にリラックスした笑顔は、確かな演奏力と等しく印象的であり聴き手の心に訴えかけてくる。そんなライヴの評判は一方でスタジオ・レコーディングへの不安を煽る。曰く、彼の魅力はライヴにあるのだ、と。だけど、このアルバムにはそういった不安は必要ないかな。
U:さすがに皆さん現役ミュージシャンなので、なかなか鋭い洞察力で聴き込んでいますよね。では気になった曲について感想等をよろしくお願いします。


「海のそばに」~

M:歌とギターだけでゆっくりと聞かせる、「海のそばに」が描く絵画的な歌詞は日本語のサウダージ感を見事に描いていますね。

N:ミサワ君に先に言われちゃったけど、この曲が一番好き。景色が目に浮かぶんだよ。特に、丘を越えると海が見える一瞬が鮮やか。

S:2~3曲目の2曲続けてラブソング聴いた後、なんと失恋の曲が!!別れて二人前に進んで、成長してあの丘をこえた海であえるといいね、なんてまるで当たり障りないよくある歌詞のように思えるけれど。やはりsaigenjiさんだな、と思ったのはここ。「君の腕に抱かれる様に木の葉が舞い降りるその時、あふれ出す歌口ずさむよ」ほんと、彼は音楽人であり詩人なんだなと。


 「樹海」~

S:これは、、、saigenji世界美の集大成では?コードよく分からないんだけど、進行がものすごく美しい。君という青い(この青っちゅうのがまた、神聖さをイメージさせて嫉妬の嵐)光に出会って、扉(la puerta)が開く。樹海でさまよっていた僕に新しい世界をもたらしてくれたのは、君。君に出会った後、喜びと躍動感あふれる4ビートになる。この持っていきかたがまたほんとすばらしいね。あたしゃ涙でちゃいましたよ。

M:この曲は、このアルバムに流れる穏やかな時間の流れが彼の今の心境そのものなのでしょう。このビターなバラッドは地味だけどアルバム中の一つのピークと云えるね。中間部の展開とスキャットも見事。


 「la puerta」~

N:ああ、これも好き。サビのアルトフルートとのからみが美しい。Aフルートの音は面白い。続いてのソプラノ・サックスも好き。確か、このスティーブ・サックスさんはファーストにも参加してますよね?この人の吹きすぎない感じ、好きだな。

S:お祭りの夜の翌朝。ナカモトさんの好きな鳥の声で始まる、この曲は「生きてることを世界中に感謝したくなる」ような清々しいピュアな美しさであふれてます!だって目を閉じて聴いてみて!鳥に花、朝露したたる緑、うっすらと顔を出してきた日の光、ちょっと涼しい風が吹く草原の丘の上にいる気分にならない?


 「(They long to be) Close To You」~

N:前作で収録されていた"It's too late"を聞いたときの衝撃!数あるカバーの中でもあれほどうまく調理されたものはそうはないのでは。しかも、ライブ・ヴァージョンでしょ、あれ!そして、今回もまた!これがなんと、王道中の王道カーペンターズの"Close to you"個人的にも三本の指にはいる大名曲をこれまたすごい独自の調理法でね。実は、このCDで聞く以前にライブで聞いたんだけどね6/8(3?)拍子でやってるでしょ?ウチさん、ほかにこういうアプローチのカバーはあるんですかね?

U:前にウエス・モンゴメリーの「フルハウス」をもの凄い変拍子でやってたり、「It's too late」もブラジリアン・アフロと4ビートのハイブリッドな演奏でやっていたステージもあったかな。とにかくライヴでは日替わりの様に、目まぐるしく変わるから非常に面白いですね。

S:これはナカモトさんの意見がいいと思うので特に触れません。しかし、ブレイクのときのピックアップが死ぬほどうまいなあ。。


 「気付いたら僕らは」~

N:締めくくりの曲は、これ、すごいポジティブな曲だね。そのままサードアルバムにつながっていきそうな、予告編のような印象。

S:ラストにふさわしいsaigenji流「生きていこうぜ☆人生応援」ソング!これ、全国数千万の鬱人間たちに聴かせたい。絶対、回復すること間違いなしだよ。「僕らは」って複数形であらゆる人に歌いかけることって、なかなかできないよな。よっぽどのバカか、カリスマのある人にしかできないことだよ。saigenjiさんはもちろん後者です。ついてくぜ、兄貴!と思いますよ、ほんと。

U:最後にこのアルバムについての総評を、代表してミサワ君にお願いします。

M:今回のアルバムではスロウテンポな曲が目立って素晴らしかったです。また音楽的には異種だけどピアソラのごとき現代的な和声感覚は、ボッサやジャズの範疇を超えて彼の音楽を見事に支えているし。でもこれもまた彼の魅力の一部に過ぎないでしょう。まだまだこれからの展開が楽しみです。唯一彼に不足している要素があるとすれば、それはある種のオルタナティブ感覚ではないかな。 それはピアソラであれ南米の現代音楽家であれ、どこかにそれを持ち合わせているからこそ、長く愛されているのだと私は思う。オルタナティブな感性でもっともっと自由に泳ぎまわって欲しいと思います。

(企画&編集 / ウチタカヒデ)


2003年9月2日火曜日

☆Various :『The Get Easy! Sunshine Pop Collection』(Universal/004400391912)

ドイツのユニヴァーサルが作った2枚組のソフト・ロックのコンピレーション。「ソフト・ロック」という言葉は海外では、「ソフト」に着目すると AOR になり、「ロック」に着目するとロック色が強くなるため、あまり使われず、この「サンシャイン・ポップ」という表現が使われている。
さてその選曲だが、この内容には苦笑してしまった。というのはこの CD で収録されているアーティスト、曲は、VANDAで今から7年前の96年に出した「Soft Rock A to Z」の多くをコピーしたものだからだ。
この本を出した後に日本では数社からこの本の内容に添ったコンピレーション CD がリリースされ、ほぼ似た本も出版されたが、それは日本の事で、まあそんなものだろうと思っていた。
しかしアメリカのVarese Sarabandeというレーベルから本の内容の完コピ状態の「Bubblegum Classics」、「Sunshine Days」というシリーズが次々出たのには驚かされた。正直、海外に波及したのは嬉しかったもの。
それから7年経ち、本の中で「名盤63選」と称して選んだお気に入りの CD はその当時大半が CD 化されていなかったが、現在は54枚も CD 化され、コンピ CD に入ったものも加えると61枚が CD 化された。
こういう本を作ってよかったな、同好の士が増えたので、もうこれ以上することはないなという所だったが、忘れたころにドイツからこんなコンピが届けられ、またちょっと驚かされた。さて前置きが長くなったのでいよいよ本題へ移ろう。
 冒頭からSundowners "Always You" Cowsills "We Can Fly" Eternity's Children "Rumours" Critters "Mr.Dieingly Sad" Eighth Day "Brandy" なんて続いてしまうのだから、これは自分が友人に作ってあげた CD-R かと思ったほど。
Roger Nichols & The Small Circle Of Friends
Peppermint RainbowKeithOrpheusなどの定番もあるし、Fun&Games "Topanga Canyon Road" Spanky & Our Gang "Like To Get To Know You" Strawberry Alarm Clock "Barefoot In Baltimore" 、そして "Bitter Honey" Four Fuller Brothersのものを引っ張ってくるなんていうなかなか分かっているねという選曲もある。
Twin Connexion
Chris & Peter Allenは初めての CD 化だろう。なにしろA&MUni, Mercury, Decca, Kapp, Verveなど数多くのレーベルを抱えてしまったユニヴァーサルだから、豪華な選曲が可能だ。
初心者にはとてもいいコンピ。
私個人としては目新しいものは何もなかったが、ロジャー・ニコルス作のインスト、Pete Jolly "Seasons" が入っていたのでそれだけで買ってしまった。
珍しいレコードでも何でもないが、探す手間が省けてよかった。
また先の "Rumours" は『The Lost Sessions』のものよりはるかに音がいいので、これも要チェック。(佐野)