1999年12月29日水曜日

☆Various:『The Ed Sullivan Show』(パイオニアLDC/PILF2809) 6LD-BOX


今まで『Beat Club』『Ready Steady Go』『Shindig』などの60年代の優れたテレビ音楽ショーのLDが発売されてきたが、この『The Ed Sullivan Show』は質的にも最高の内容と言えよう。本編はLD5枚に62アーティストにより117のパフォーマンス、計440分を楽しむことができる。音楽とは関係ないパフォーマンスは一切省き、ジャズや古いポピュラーものを入れずに60年代のロック、ポップス、ソウルにほぼ絞ったチョイスも素晴らしい。ビデオではアミューズソフト販売より全10巻で発売されていたが、LDにはおまけに95年に放映された82分のクリスマス特別番組のLDがプラスされている。過去の重複した映像や、95年の生ライブもあるが、エルヴィスやシュープリームスなど本編に収録されていない映像もある。またクリスマス・ソングを歌っているものは当然、未収録。このLDボックスは初回限定生産なので、必ず買っておくべきLDだ。DVDでないのがちょっと残念だが、贅沢は言えない。ボックス内のLDジャケットはカラーコピーのようなシンプルなもので、さらにビデオ・セットにあるブックレットは付かないが、このボックスを買う人にはそんな初心者向けのブックレットは不要だろうからこれで十分。価格は税抜き38000円、仕方がないね。
 それでは本編の内容だが、11曲紹介していてはスペースが足らないので、VANDAの読者向けのものをチョイスして紹介しようと思う。(ママス&パパスはたくさん入っていたので割愛)
DISC 1
『ザ・ロック・ジャイアンツ』
 なんといってもリアル・ライブのビートルズの4回目出演時の「Help」、ローリング・ストーンズの「Satisfaction」が見もの。“let's spend sometime together"と歌わされたエド・サリヴァン・ショーのこと、この初登場の時からミックは“girl's reaction"ではなく“goin' action"とはっきり発音して歌っているところが、いかにもビジネスだと割り切るミックらしい。テンプテーションズは「My Girl」、彼らの抜群のプロポーションとステップの見事さに見とれてしまうだろう。他では口パクだが初期のビージーズの「Words」、バーズの「Mr.Tambourine Man」もいい。
『ザ・グレイト・ポップ・ミュージック1
ビーチ・ボーイズの「I Get Around」にまず注目。リアル・ライブで、若々しいブライアンの溌剌とした表情には、彼の繊細なもろい内面をうかがい知ることはできない。テディ・ランダッツォの傑作「Hurt So Bad」を歌うのはリトル・アンソニー&ジ・インペリアルズ。この為の別録音である。ビートルズは初回と2回目の出演時の「I Want To Hold Your Hand」と「From Me To You」。とにかくビートルズはカッコ良く、惚れ惚れしてしまう。ビートルズのエド・サリヴァン・ショーのフィルムはすべてまとめて発売して欲しいものだ。フォー・シーズンズの「Big Girl Don't Cry」は『Classic Hits From The 50's&60's Vol.2』と同じフィルムながら画質は段違いにいい。
DISC 2
『ザ・グレイト・ポップ・ミュージック2
 素晴らしい画質でのラヴィン・スプーンフルの「Daydream」が嬉しい。演奏も別ヴァージョン、ジョー・バトラーのハイハットに付けられた花が時代を物語る。CCRの「Down On The Corner」、ストーンズの「Have You Seen Your Mother Baby,Standing In The Shadow」はいい映像だが、口パク。後者でのキースのドイツ兵まがいのミリタリー・ルックが注目だ。ビートルズは初回時の「She Loves You」で、もちろんリアル・ライブ。バーズの「Turn Turn Turn」はVol.1と同じ時のフィルムながらこちらはちゃんと演奏している。スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズの「Abraham,Martin&John」ではコーラス・グループとしての実力を堪能できるだろう。
『ザ・グレイト・ポップ・ミュージック3
 珍しい映像としてジェイ&ザ・テクニクスの「Keep The Ball Rollin'」。黒人2人のヴォーカルで曲はソフト・ロック、曲はいいが、映像的には奇妙。ビートルズは3回目の出演時の「Twist And Shout」で、ジョンのヴォーカルが迫力満点、バック・コーラスでポールとジョージが首を振るしぐさなど、女の子がキャーキャー言うのがよく分かる。モータウンの歌姫シュープリームスは珍しいふだん着姿での「Love Child」と、ラメのドレスでの「You Can't Hurry Love」とそれぞれ違った姿を見せてくれる。
DISC 3R&B天国1
R&B天国2
 この1枚はモータウン中心にソウルの大物ばかりを集めたベスト・セレクションになっている。テンプテーションズの「I Can't Get Next To You」ではメンバーが交互にリード・ヴォーカルを取り合うがみな実に歌が上手く驚かされるし、「For Once In My Life」でのスティーヴィー・ワンダーの歌とハーモニカの素晴らしさにもただ拍手。ファルセットのリードとハーモニーが見事に溶け合ったスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ、マイケル・ジャクソンが12歳とは思えない歌と見事なステップを魅了するジャクソン・ファイヴ、重量感のあるフォー・トップス、気合満点のジェームス・ブラウンと、ダイナマイトとしかいいようがないアイク&ティナ・ターナー、そしてグラディス・ナイト&ザ・ビップス、サム&デイブとソウル・シンガーはともかく歌が上手く圧倒されてしまう。その中で唯一の白人、ライチャス・ブラザースも負けないソウルフルなヴォーカルを聴かせてくれた。エド・サリヴァン・ショーの常連、シュープリームスももちろん2曲収録。その中で心地良い転調を聴かせる「In And Out Of Love」はソフト・ロック的にも傑作だ。

DISC 4
60's サイケデリック&グルーヴ』
 ここでの最注目はなんといってもヤング・ラスカルズ。「Groovin'」でのオルガン、コンガ、ハーモニカだけのシンプルな演奏でのリアル・ライブは、見るだけで感動もの。もう1曲「Good Lovin'」はいつものギター、オルガン、ドラムで実にスピーディーな演奏を聴かせてくれ、これも素晴らしい。もうひとつの注目はスパンキー&アワ・ギャングの「Sunday Will Be Never Same」だ。彼らの演奏が、それもリアル・ライブで見られるなんて夢にも思わなかった貴重な映像だ。古風な髭をたくわえたギターの3人、ロボットのような無表情のドラマー、そしてたくましいスパンキーの組み合わせはビジュアル的に実に面白い。フィフス・ディメンションは「Stoned Soul Picnic」を歌う。ミニスカートのマリリンとフローレンスが可愛い。タートルズの「Happy Together」は『The Best Of West Coast Rock Vol.4』と同じもの、ビーチボーイズの「Good Vibrations」もよく見る白装束姿のものだ。ドアーズは「Light My Fire」を熱唱するが、ジム・モリソンはエド・サリヴァンからの注文を無視してドラッグ用語を使ったため、その場で出入り禁止になった。
『ベスト・ヒッツ・オブ65&66
 お待ち兼ね、アソシエイションは「Along Comes Mary」を歌う。多くのメンバーは髭を蓄えているが、名盤『Birthday』発表直後の演奏で、発表時から2年経っているので余裕のパフォーマンスだ。別ヴァージョンなのも嬉しい。そしてフォー・シーズンズ。モータウンの影響を受けて、新たな地平に足を踏み出した第1弾の「Let's Hang On」という選曲がいいし、何よりもこの時代の映像は極めて貴重。若干ショウビジネスっぽい服装ではなくなったが、スポーティーでもあか抜けないのがなんともフォー・シーズンズらしい。歌は完全な別録音で、必聴だ。他ではラヴィン・スプーンフルの「Do You Believe In Magic」が、口パクながら、メンバーが現れたり消えたりとの編集の「マジック」を見せるが、いかにも時代を感じる。ストーンズは「Paint It Black」で、口パクながらブライアン・ジョーンズがシタールを弾くのが面白い。珍品では「I'm A Fool」を歌うディノ・デシ&ビリー。これはほとんどの人が初めて見る映像ではないか。3人は12歳から14歳とメチャクチャ若い。余談だが、トム・ジョーンズの「It's Not Unusual」を見ていると、『マーズ・アタック』が浮かんでしまうのは私だけではあるまい。
DISC 5
『ベスト・ヒッツ・オブ67&68
 口パクながら、タキシード姿のメンバーをオーバーラップしたスパンキー&アワ・ギャングの「Like To Get To Know You」が見もの。この複雑な構成の曲は、彼らのセンスの良さを十分に感じさせてくれるだろう。ストーンズは口パクの「Ruby Tuesday」。ミックの“Knight"の挨拶がこの曲にピッタリ。アソシエイションは「Never My Love」、口パクだがフェイド・アウトしないできちんと終わり、別に録音したものだということがよく分かる。ビーチ・ボーイズの「Do It Again」は白装束姿のもの。
『ベスト・ヒッツ・オブ69&70
 この面は名曲中の名曲が並ぶ充実した出来栄えだ。2曲を披露しているのがフィフス・ディメンション、まず「Aquerius - Let's The Suns¨hine In」が素晴らしい。バックをクロマキーで宇宙に仕立て、さすが名曲中の名曲だ。もう1曲はマリリンのリードの「One Less Bell To Answer」。CCRの「Proud Mary」も負けず劣らず心を引かれる。シンプルながらこの力強さ、ロックの魅力がここに復活している。トム・フォガティに髭がないのにも注目。B.J.トーマスはバカラックの「Raindrops Keep Fallin' On My Head」を実際にずぶ濡れになりながら歌う。フィルムで見るとアクが感じられず、実に爽やかな好青年に見えるから不思議だ。カーペンターズはロジャー・ニコルスの「We've Only Just Begun」、いつ聴いても美しい曲だ。ブルックリン・ブリッジが歌うジム・ウェッブの傑作「Worst That Could Happen」も見もの。(佐野)

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1999年12月20日月曜日

☆Free Design:『There Is A Song』(徳間ジャパン/TKCB71827)




 待望久しいフリー・デザインのラスト・アルバム『There Is A Song』がCD化された。このアルバムは、昨年テイチクよりリイシューが完成したプロジェクト3レ-ベルの6枚のアルバムの後の1973年、クリス・デドリック他サンディ、エレン、ステファニーの3姉妹が一緒にカナダのオンタリオの移住して制作したもの。レーベルがニューヨークのアンブロタイプというマイナー・レーベルだったので、ほとんど知られることもなく、長くファンにとってコレクターズ・アイテムになっていた。ショップでは数万はするというウルトラ・レア盤だったので、多くのフリー・デザインのファンにとって待望のリイシューと言えるだろう。内容はよりアコースティック、よりシンプルなバッキングと、ナチュラルなハーモニーにより、非常に聴きやすいメロディアスな好盤に仕上がっている。ノン・エコーのアカペラが3曲入っているのが特徴で、それはクリスらフリー・デザインのメンバーがこの後に、ノン・マイクのアカペラ・グループ、スター・スケイプ・シンガーズに参加していったことへとつながってくる。もちろんアルバムには管楽器をフィーチャーし、コーラスがからみあうクールな従来のフリー・デザインらしいメンバーもあるのだが、アコースティック・ギターとピアノの比率がかなり大きくなっているのに気づくだろう。ベスト・ナンバーは新天地カナダでの生活に大きな希望を抱いている姿が目に浮かぶ、弾むような「Canada In Spingtime」。そして「There Is A Song」は、数あるフリー・デザインのナンバーの中でクリス自身が最も好きなナンバーとして揚げた自信作で、スピリチュアルな歌詞が感動的だ。ピアノに美しいメロディが生える「Kum Ba Yah」もいい。このアルバムは早いうちに買くべき、価値ある1枚だ。歌詞だけではなく、対訳まで付いているのも嬉しい。(佐野)
ゼア・イズ・ア・ソング

1999年12月14日火曜日

☆Billy Nicholls:『Snapshot』(South West/SWLP003) *LP

 ビリー・ニコルスの眠れる音源がまた大量に登場した。このアルバムはなんとLPだけのリリースで、レーベルは以前Web VANDAでも紹介した『Would You Believe』と『Love Song』のCDを限定500枚、本人のサイン入りで販売したSouth Westである。さて肝心な内容は彼が67年から68年の間、イミディエイト時代に録音していたデモ集である。当然『Would You Believe』の直前なので、アルバムに入った曲の大半のデモを聴くことができる。ないのは「Daytime Girl」「Question Mark」だけ。12弦を弾きながらハーモニーを加えていて、曲によってはキーボードやドラム、ベースを入れてかなりの仕上がりを見せている。そして「Happiness Song」「Casey Jones」「Alaways On My Mind」「I'm Top Blame」「Umblrella Song」「Good Day Goodnight」「Now She's Mine」「Walking Through The Park」は初登場。憂いを帯びたメロディと陰りのあるヴォーカルはいかにもイギリス的だ。注目は「Would You Believe」で、デモの段階でスティーヴ・マリオットとロニー・レーンがコーラスで、演奏ではケニー・ジョーンズ、イアン・マクレガンも加わり、スモール・フェイセスがフル・メンバーで参加していた。コーラスのキーが一部違い、マリオットのシャウトがないなど、明らかに違うテイクだが、その完成度は高い。この曲はSouth Westでの『Would You Believe』のCDのみ、アンドリュー・オールダムの手が入る前のスモール・フェイセス・ヴァージョンが収録されていたが、それよりも前のテイクである。あと「It Brings Me Down」にもマリオットがコーラスで参加とクレジットされているが、2テイク入っているどちらのヴァージョンでもどちらに入っているか確認できなかった。(佐野/Special thanks to 山下)

1999年12月9日木曜日

☆Spanky & Our Gang:『Spanky & Our Gang』(Vivid Sound/VSCD737)☆Spanky & Our Gang:『Like To Get To Know You』(Vivid Sound/VSCD738)☆Spanky & Our Gang:『Without Rhyme Or Reason』(Vivid Sound/VSCD739)

 ついにスパンキー&アワ・ギャングのオリジナル・アルバムが3枚共CD化された。日本のみの発売で、もちろん世界初の快挙である。スパンキー独特の太く声量のあるヴォーカルにどこか郷愁をさそうメロディ・ライン、からみあうぶ厚いコーラス・ワーク、ジャズのフィーリングを帯びたサウンドは、ハーパース・ビザールよりも魅力的だ。このサウンドを作り出した中心は、ファースト・アルバム『Spanky & Our Gang』を担当したプロデューサーのジェリー・ロス。そしてアレンジャーはロスの両腕のジミー・ウィズナーとジョー・レンゼッティー、そしてボブ・ドロウの3人だった。ここからの3曲のヒット「Sunday Will Never Be The Same」、「Makin' Every Minute Count」、「Lazy Day」を聴くと、メリハリのついたバッキングにストリングスをからめた華麗なサウンド・プロダクションで彩られ、ジェリー・ロスの中でも最高のサウンド・プロダクションを楽しめる。スパンキーのリードと厚いコーラスを生かしたポップな。しかし彼らはヒットを生み出したジェリー・ロス組とこのアルバムだけで別れ、プロデュースとアレンジをボブ・ドロウとスチュワート・シャーフにまかせる。そして作られたセカンド『Like To Get To Know You』は、ファーストよりさらに統一感のとれた素晴らしい出来を示した。「Sunday Morning」のスパンキーのリードとそのコーラス、低い男性コーラス・パートが巧みに入れ替わるなどメンバー全員のそれぞれのパートがからみあう精緻な作りで、まさに驚異のひとこと。サビまでスパンキーがバック・コーラスに回り、サビからリードに入れ替わるジャジーな「Like To Get Know You」もまた洒落た曲だ。得意のバロック風コーラスが飛び出す「There Ways From Tomorrow」など、サウンドか確実に進化した。そしてサード『Without Rhyme Or Reason』は彼らの頂点の作品となる。「Give A Damn」、「Yesterday's Rain」、「Hong Kong Blues」、「Without Rhyme Or Reason」、「Jane」、「Since You've Gone」など、リードはもはやスパンキー一人ではなく、曲の展開で自在に入れ替わる。男性メンバーのヴォーカリストとしての力量が飛躍的に上がっていた。コーラスのパターン、リズム、リードメロディまでが目まぐるしく変わっていく。音のモザイク。この複雑で、それでいてポップな曲の数々はヴォーカル・グループとして頂点の1枚だろう。(佐野)
Spanky & Our GangLike to Get to Know YouWithout Rhyme Or Reason