1999年9月20日月曜日

☆Various:『The Red Bird Sound-Vol.4 Dressed In Black』(Diamond Recordings/025)

レイバー=ストーラのレーベルとして知られるレッド・バードのコンピレーション第4弾。ただ1から3までは紹介したことがなかった。と言うのも個人的にあまりこのレーベルに興味がなかったので、ショップで手に取ってもそのまま裏のクレジットを確認して棚に戻していたのだが、これは裏を見てすぐにレジに直行。というのもバリー・マンの「We Gotta Get Out Of My Place」が入っていたからだ。もちろん初登場。この曲はこのCDにも入っている「Talk To Me Baby」の次のシングルとして録音されていたが、ミッキー・モストが気に入りアニマルズのシングルに使って大ヒット、そしてバリー・マンのシングルはキャンセルされた。泣lの展開が抜群にカッコいいバリー・マンのこの傑作を、本人の歌声で聴けるなんて夢にも思わなかった。アニマルズのような迫力と盛り上がりはないが、バリー・マンのヴァージョンも重さが感じられてとてもいい。私はバリー・マンの自作自演が好きなので喜びもひとしおだ。その他ではあのオルフェウスがMGMで活躍する前にたった1枚レッド・バードから65年に出したシングル「My Life」も注目だ。歌は初期のタートルズ風で、馴染みのオルフェウスの歌声とは相当違うが、バックのキーボードがなんとも不思議な雰囲気を醸し出しており、センスの一端がうかがえる。そのほか、エリー・グリーンウィッチの3曲のソロ2曲は初CDだろうし、ジェフ・バリーの65年のソロ2曲も珍しいものだ。他にもアンディ・キムの65年のソロなど、都合8曲のバリー=グリーンウィッチ作品が収録されている。その他初期トレードウィンズも、アンダース=ポンシア作の出来のいい3曲が入るなど、このCD全体がポップでいい曲が多い。おすすめだ。(佐野)
Red Bird Sound Vol.4

1999年9月15日水曜日

☆Beatles:『Yellow Submarine』(ワーナー/DL51170)DVD




 私の最も好きなアーティストは?と尋ねられればそれはやはりビートルズ。ビートルズはデビューから解散までそのすべてが素晴らしい。ビーチ・ボーイズも同じように好きだが、やはりジョンとポールという天才2人を抱えたビートルズは総合力で上だ。最も好きなアルバムは『Pet Sounds』だが、ブライアン一人ではここが限界だっただろう。ジョンとポール、そしてジョージ・マーティンのトリオのビートルズを、一時期でも上回ったブライアンの凄さは、たった一人だったこそ今は逆に際立っていることも事実。
 関係ない前置きはそのくらいにして、そのビートルズの名作アニメーションが、今まで日本ではUSヴァージョンしかなかったため見ることができなかった「Hey Bulldog」のシーンが入ったUKヴァージョンでDVD化されるというのだから、どこが違うのか楽しみに待っていた。全体でも違うカット、セリフがあるのかもしれないが、手持ちのUSヴァージョンのLDを比べて見て、「Hey Bulldog」のシーンはただカットされていたのではなく、大幅にその前後のシーンも変わっていたので、まずはここがどう違うか紹介しておきたい。
 後半で、青い玉の中に閉じ込められたSGT.Peppers Lonely Hearts Club Band(以下バンドと呼ぶ)をビートルズが見つけて、リンゴがポケットに入れておいたブラックホールを玉に張り付けると、青い玉が解け出してバンドが現れるのは同じ。しかしUSヴァージョンではバンドが現れ出すと「Baby You're Rich Man」のイントロが始まり、続いてメンバーが踊りながらワンコーラス歌い、リンゴがラッパを吹き、ポールが“Beatles to Battle"と叫ぶ。ここがUKヴァージョンでは「Baby You're Rich Man」はイントロだけで終わり、バンドのメンバーが降りて来て、ビートルズのメンバーと「やあ兄弟」などとお互いが挨拶しあうシーンがある。そして実は今は戦っている、一刻ct猶予もできないと語り、ポールがリンゴの声で「Beatles to Battle、Charge」と叫んで、その後にリンゴが突撃ラッパを吹く。続いてUSではブルーミーニーズが気づいて攻撃を始めるが銃から出てくるのは花ばかりで、ジョン目がけて撃った玉もYES OKと肯定的な文字ばかりが出てしまうが、このシーンはUKではまったく削除。そのかわりにバンドの復活に気づいたブルーミーニーズが4つの頭を持ったブルドッグをけしかけ、ビートルズはピアノの中に隠れて「Hey Bulldog」がフル・コーラス始まる。ブルドッグはピアノの中に隠れたビートルズにつられて爆弾をくわえさせられたり、バンドとビートルズがピアノと茂みから交互に顔を出し、ブルドッブは右往左往して結局ピアノに激突してしまう。このシーンはもちろんUKのみだ。
 ジェレミーとリンゴが出会うシーンも、USではジェレミーが足を縛られ吊るされているときに「勉強しなきゃ。行かせてくれ」と言っているが、このセリフはUKではない。そのかわりジェレミーが衛兵を倒したあと“Come on.Ringo"と言って、5秒ほどジェレミーがシャドーボクシングをしながら坂を上がって行くシーンがあった。
 画質は飛躍的に上がり、音質はクリアーなリミックスで文句なし。CD(東芝EMI/TOCP65300)も絶対買う必要がある。色々な本で新しくリミックスされたCDの違いは紹介されているので、ここでは書かないが、「All You Need Is Love」などコーラスが際立ち、感動的。こんな素晴らしいリミックスなら今度もどんどんやってもらいたい。(佐野)

イエロー・サブマリン〈U.K.バージョン〉特別版 [DVD]

1999年9月13日月曜日

☆Bruce Johnston:『Tough Themes-The Del-Fi/Donna Years Of Bruce Johnston』(Air Mail/1001/2)

このCDはブルース・ジョンストンの才能を愛する私や、多くのビーチ・ボーイズ・コレクターのマスト・アイテムになることは間違いない。現在Del-Fiレーベルのリイシューを一手に手掛けているElliot Kendall氏が、数多いマスター・テープの中からいくつもの未発表トラックを捜しだし、はたまたあの『Surf's Up』にも載っていないブルースが書いたシングル曲などを見つけだした。Elliotの努力に本当に感謝したい。さて本CDはCD2枚組で、完全に入ってるアルバムはブルースの最初のソロ・アルバム『Surfer's Pajama Party』で、これはかつてテイチクからもCD化されたものと同じ。しかし「Hide Away」「Summertime」「Ed's Number One」「John's Number Two」「Balboa Blue」「San-Ho-Zay」「Bruces's Number One」と7曲の未発表ライブが加えられた。歌があるものは「Summertime」1曲だけだが、インストはギターを中心にワイルドなプレイをしているものもあり聴きごたえがある。ただ同じくDel-Fiのライセンスで91年にリリースされたCD『One Beach Boys Original Album』(Woodford Music/5632)で初めて収録された「Blue Moon」、それと「I Need Your Love」などの曲は収録されていない。さらにテイチクのCDのボーナスに入っていたブルースのソロ・シングル2枚の内、歌い入りの「Do The Surfer Stomp Part1」はなぜか収録されなかったが、「Soupy Shuffle Stomp」はセッション風景や、別ヴァージョンのインストまで収められた。CDの冒頭を飾ったのは、このCDの目玉であるブルースが歌うマリアッチ風のオールディーズ・ナンバーの62年の未発表作「Mazatlan」で、やはりこれもセッションやインストまで収められた。つづいてディスク2にはグルーヴ感のある未発表インスト「Untitled Instrumental」からスタートする。The Bob Keene OrchestraとPharaosのシングル2枚はすべてブルースが書いた曲で、後者は古色蒼然としているが、前者はジャズ風の「Teen Talk」、映画のサントラのような美しい「The Toughest Theme」とどちらも十分楽しめる。特に「The Toughest Theme」は本CDのベスト・ナンバーだろう。ロン・ホルデンは既にCD化されたものからの4曲なので目新しいものではないが、Studs Donegan and The Mobの「The Bend/Rock N' Roll Honky Tonk」(Donna/1329)とMillard Woodsの「Don't Put Me Down」(Del-Fi/4150)の3曲はオフィシャル音源としては今までまったく知られていな かったブルースの書いた作品で驚かされた。前者はインストだが、後者は巧みにジャズのコード進行を使った洒落たナンバーで、これも本CDの目玉。その他Mel Carterのヴァージョンで知られていた「I'm Coming Home」のJanis Rado and The Sequins(Edsel/45-782)のヴァージョンもまったくの知られていなかったもので、ブルースはピアノでも参加していることから、こちらがオリジナルなのかも知れない。さらに『Twist Album』(Del-Fi/LP1222)からの収録曲「The Twist」にもブルースがピアノで参加して新発見、これらは早く『Beach Boys Complete』改訂版に書き加えたいものだ。音源全体としては60~63年のものなので、オールディーズ色が強くインストも多いので、ブルースらしいメロディ・ラインやサーフィン&ホットロッド調のハーモニーを期待していると肩透かしを食うだろう。しかし上記の幾つかの曲や、甘いメロディのバラード「Gee But I'm Lonesome」などを聴くと、その萌芽は十分にある。わずか17歳でDel-Fiへ来たという若きブルースのワークスはどれも貴重で入手困難なものばかり。日本のみ発売のシリアルナンバー入り限定盤なので、早いうちに入手しておくべきだろう。お近くの店にない場合はリアルミュージック(03-3235-2323)まで。(佐野/Special thanks to Real Music & Elliot Kendall)



1999年9月3日金曜日

☆Beach Boys;Unsurpassed Masters、遂に『Smile』Sessionsに突入。Vol.15 ~17リリース


全ビーチ・ボーイズ・ファンを狂喜させたSea Of TunesによるUnsurpassed Mastersのシリーズの待ち望んだVol.1517がリリースされた。しかしオランダの税関で止まって放棄したとかで、別ルートで運よく入手できたため簡単に内容を紹介しよう。
 Vol.15Good Vibrations
 タイトルのとおり、「Good Vibrations」のバッキング・トラックの製作過程を9つのセッションに分けた、CD3枚組計205分にも及ぶ重量感満点のボックスである。英Mojo誌が97年に行った139名の一流ミュージシャン、プロデューサーが選んだベスト・シングルでビートルズやストーンズを押さえ、栄えある1位を獲得したこの名曲がどれだけの努力ももとに生み出されたのかを知る格好の素材と言えよう。色々なパートを継ぎ合わせたこの曲は、やはりセッションで各パートごとに録音を行っていることがよく分かる。そしてアレンジが、ブライアンの指示のもと、どんどん良くなっていく様も分かるだろう。しかしこれらのバッキング・トラックの多くは使われなかったアレンジであり、ブライアンの際限のない試行錯誤が伝わってくる。実際に本人も「試行錯誤の繰り返しで、これというものを見極めようと思って試した」と言っているが、実際にはなんと90時間も録音を続け、完成テイクに至るのである。ヴォーカルの入ったものはブライアンの仮り歌の入った僅かなものしかない。このボックスの後に控える膨大なヴォーカル・セッションのマスターは見つからなかったという。ポール・マッカートニーが「今聴いても新鮮で、どうやって考えついたんだろうと思わずにいられない」と絶賛しているが、このバック・トラック・セッションを聴くだけでも、どうしてこれだけのアイデアが出てくるのか、まさに天才の所業と言えよう。
Vol.16Smile
Vol.17Smile Sessions
  さて、待望の『Smile』だが、Vol.16Vol.17からの抜粋とも言えるオリジナル『Smile』予想ラインナップ。当然オフィシャル音源や今までのブートでお馴染みのものも多い。Vol.161枚ものなので、まず『Smile』を聴いてみたいという人におすすめだが、初心者向きかと言えばそうではない。ここでしか聴けない素晴らしいヴァージョンが幾つか含まれている。ドライな雰囲気のコーラスによるまったくはじめて聴くヴァージョンの「Child Is Father Of The Man」、そして「Wonderful」はカールの歌に被る形でマイクの"Rock With Henry"のコーラスが入るという驚きのテイク。エンディングのフレーズが異なる「The Old Master Painter/You Are My Sunshine」や「He Gives Speeches」もVol.17のものとは違う。
  そして肝心なCD3枚組のVol.17Smile Sessions』に移ろう。まずディスク1は「Heroes And Villains」が19トラック続く。ブートで既にだいぶ流出しているが、Sea Of Tunesのものは音質がとにかく素晴らしい。これを聴くと『Smile』用の同曲が制作されている過程がよく分かる。Part.2と書かれているセッションは「Barnyard」として知られていた部分だが、ピチカートのみの最初のテイクは違った曲に聴こえる。「Bicycle Rider」は3回のオーバーダブを収録。続く「Do You Like Worms」だが、初期テイクではあの「ウガガ」のコーラスの歌い方が違う。スティール・ギターの入ったテイクは、真面目にやっているのか分からないほど不気味なぶっ飛んだテイク。「The Old Master Painter/You Are My Sunshine」はデニスの歌入りのテイクはないかわりに、テイク12ではアップテンポで最初からドラムの入ったテイクを聴くことができる。「He Gives Speeches」は後の「She's Goin' Bald」で、いかにもデモといった雰囲気の3テイク。「Wonderful」はインストの制作過程から始まり、そしてマイクの「マママママ」と繰り返すとても「Wonderful」とは思えない摩訶不思議なバック・コーラス・セッションが登場する。ディスク2へ移ると、「Child Is Father Of The Man」はコーラス部分のバッキング作りの模様。「Look」はかつての「Holiday」で、20テイク入っている。そして残りはすべて「Vegetable」。Part.1はお馴染みのピアノのバッキングによるものだが、ピアノのみのバッキングから歌がどんどん重ねられ、SEが入る模様が分かる。そしてマリリンによるヴォーカル・リハーサルまで登場してしまう。Part.2とクレジットされているのは「Mama Says」の部分だが、初めて聴くバックの演奏が別の雰囲気を醸し出し、歌が入っても印象が違う。そしてPart.2は別のアレンジに変わり『Smile』らしいというか、「ウムパー」という気味悪いコーラスをバックに重ねていく模様を聴くことが出来る。Part.3になるとさらにまったく別のアレンジのインストから始まる。これは『Smiley Smile』の「Wonderful」の中間部の原型だ。これらがすべて「Vegetable」ということは、この曲が「Heroes And Villains」に肉薄するような組曲になった可能性があり、今までおふざけソング程度にしか考えていなかったこの印象がまったく変わってしまった。ディスク3はまず「Wind Chimes」のバッキングの初期からの制作過程。使わなかった中間部のホーン・パートなどもある。そして「Mrs.O'leary's Cow」のストリングス・ヴァージョンをテイク1からをずっと綴る。ブライアンの"The Elements Part.1 Fire take 1"の声には、幻の「The Elements」の山の姿が雲の切れ目から僅かに見えたようで、それだけでも嬉しくなってしまったのは私だけではないだろう。「Friday Night」はかつて「Woodshop Song」と呼ばれていたもので、ジャズっぽい「I Wanna Be Around」や大工の音も入っていない。 Water」は「Cool Cool Water」の中間部のコーラスを完成させていく模様。なんとも不気味な雰囲気が漂う、いかにも『Smile』らしい高度で、クールな雰囲気のセッションだ。
(佐野/Special thanks to ライムハウス)