1999年8月18日水曜日

☆Chris White: Mouth Music (EM/1006)




待望のエム・レコードの新作はクリス・ホワイト。60年代から目立たない音楽活動を続け、76年の「Spanish Wine」が全英28位とようやくヒットしたものの、どんなに素晴らしいハーモニー・ミュージックを生み出していてもその後のパンク・ロックの嵐の中ではヒットを生み出すことは出来ず、70年代の終わりには自信をなくして音楽業界から引退してしまった幻のミュージシャンなのだ。しかしこのCDを聴いて欲しい。すべてのビーチ・ボーイズ・ファンならこの歌声、ハーモニー、メロディに一瞬で虜になってしまうだろう。こんな素晴らしい音楽がまだ知られずにあったなんて本当に信じられない。クリス・ホワイトには作曲からプロデュースをこなせる実力があった。まず基本となるメロディだが、これが美しい。軽快で洒落たメロディも書けるし、巧みな転調によって解放感に満ちている。そしてクリス・ホワイト自身の声が、ハイトーンでかつ細すぎず、太すぎずハーモニー・ミュージックには最高の声質を持っていた。肝心なハーモニーは文句のつけようがない。クリス・ホワイトはブライアンのファルセット・パートからマイクのバス・パートまで出せる広い音域を持っていて、コーラスの中に強力なバス・ヴォイスを入れるので、ビーチ・ボーイズと同じく広がりと暖かさ、ふくよかさがある。この点はトニー・リヴァースやクリス・レインボウをも上回る。このCDは76年のアルバム『Mouth Music』にアルバム未収録曲、ラジオ・ジングル、そして未発表曲を入れた28曲の仕様で、クリス・ホワイトのすべてをこの1枚で知ることが出来る。曲はみな素晴らしい。ヒットした「Spanish Wine」もいいが、ブライアンの繊細さが感じられるような「Driftin'」、軽快で洒落た傑作「She's Only Dreaming」,爽やかな「Child Of The Sun」、未発表の美しいミディアム・バラード「Repscallion」など今のビーチ・ボーイズでは作り出せないであろう、我々の理想が結実したような曲だ。とにかくこのCDは買わないと絶対後悔する。自信を持ってお薦めしたい。(佐野)

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