1997年10月22日水曜日

日本のソフト・ロックの夜明け、スプリングスの傑作「Picnic」を聴こう!

日本でソフト・ロックといってもニューミュージックになってしまうのが関の山で、個人的にもこれが日本のソフト・ロックと推薦できるものはなかった。ところが10月22日にユニヴァーサル・ビクターからリリースされたSpringsのアルバム「Picnic」(MVCH/29010)は見事なソフト・ロック・アルバムに仕上がっていて、正直言って驚かされた。
VANDAがレコード会社の広告などに頼らない運営をして、また個人的には業界に自分の方からはアプローチをしないようにしているのは、ひとえに自分のいいと思う音楽だけを紹介出来る自由な本にしたいからであって、他の音楽誌のようにレコード会社とのしがらみで無理にディスクを紹介してほめることはこのVANDAにはない。だからこのアルバムへの私の賛辞は心からのものだ。グループのプロフィールなどは本誌の佐々木氏の紹介文を読んでいただくとして、私にとってこのアルバムのどこに引かれたかを一言で言うと、ソフト・ロックの根源的魅力である「メロディ」と「ハーモニー」が極めてハイ・クオリティだったことだ。アルバムはヴァン・ダイク・パークスのようなストリングスによる短いインストから導入され、いきなりこのアルバムの最高のナンバー "心の扉" が始まる。リズミックで軽快な完璧なリズム隊に乗って、転調を繰り返す素晴らしいメロディと厚いハーモニーがボーンズ・ハウがプロデュースしたような華麗なサウンドの上で展開される。間奏のホーンはニック・デカロをイメージしているのか。そして曲をトータルで聴くと、これはジム・ウェッブ。 "The Magic Garden" へのオマージュだ。続く "パラダイス" はこれはブライアン・ウィルソン。それもソロの「Brian Wilson」のサウンドだ。ブライアンのようにシンセでベース音を取らないので、サウンドは軽快になり、クリアーな音のフィル・スペクターといった印象だ。もちろんハーモニーは幾重にからみあい、ベースはルート音を避けるこしゃくさだ。ここまで聴いただけで、このアルバムの価値は存分に伝わってくるだろう。以降はA&M調のボサノヴァあり、ヨーロピアン・テイストのスキャット・ナンバーあり、スウィング・ジャズ調ありと、バラエティに富んだ洒落た曲を次々楽しめる。もちろん曲は全曲オリジナル。やっと日本でもこんなポップスが作られるようになったのかと嬉しくなったのは私だけではあるまい。(佐野)